第2章3 ここから始めよう2
(決まったの。では、妾からおぬしらに、謝罪と頼みがある。先ず、そうじゃの、妾にもいえぬ事は多々あるが、神の立場の問題だと思って、諦めてもらえると助かる。その上で話せることを話すとじゃが……)
ここ最近は特に、デメテル様は隠し事が多いとは感じていた。それにしても、謝罪と頼みか……。
(先ず、あの大司教は、最高神ゼウスじゃ。ほぼ、間違い無い。何故この世に顕現出来たかまでは、妾にはわからぬが……。今更ではあるが、すまぬ)
いやいや、今サラッと言ったけれど、ゼウス? は? しかも、なんで今更?
デメテル様は続ける。
(そして、これは妾からの頼み事じゃ。妾には、とある人物なのか、とある獣なのか、何者なのかも未だわからぬが、探さねばならぬ存在がおる。この世にいるかどうかもわからぬし、居たとしても、名をなんと名乗っておるかもわからぬ)
んー。神って事なんだろうか? デメテル様は、他の神については、話す事をしないからわからない。
(つまりじゃが、存在を察知することくらいしか出来ぬが、探さねばならぬ事に変わりはないのじゃ。其れを手伝ってもらいたい。もし、妾の知る名と同じなのだとすれば、その名をペルセポネと申すものじゃ)
聞いたことないはずだけれど。何処かで見た? ような……。
(この世は、果てしなく広いのは分かってはおるが、妾の大切な存在じゃ。落ち着いてからで構わないので、探すことを手伝って貰いたいのじゃよ)
手伝うというのは問題無いけれど、流石につっこむしかない。
「ちよっ! 内容が濃すぎて、反応に困りますよ! 勿論落ち着いてから、探しますが! はぁ……。全ていきなり過ぎますよ! もう、兎に角伝えますね」
内容が内容なだけに、デメテル様に対して言葉にだして突っ込んでしまう。それほど濃い話だ。諦めてください。
先程の内容を、少しずつデメテル様に確認しながらブリジット先生にも伝えていく。
先生、珍しく口が開いてますし、ジト目が大きくなってますよ。
「いや、言葉にならないが……。少女神質問だ。言えない事が多いと言うのはわかった。この件はウィリアムと、ボクだけが知りうる話でいい? あとは、勿論言うなって事だよね。最高神については頭が追いつかない。それでなくても、少女神が、女神デメテルって時点で、頭がおかしくなりかけた」
デメテル様は、それぞれに答えていく。その通りだということだった。
「じゃあ、僕からも。先生にも聞こえるように、こっちで言いたいこと言わせてください。先ず、何故、ゼウスの存在を後になってから僕達に教えたんですか?」
他は良いとしても、この件は納得がいかない。僕は棘のある物言いでデメテル様に問いかける。
「今更、自分の罪がどうとか言いませんが、それにしても、他にもやりようがあったんじゃないですか? 王都からでて、ゼウスとは暫く行動を共にしてたじゃないですか」
言葉に出していくと尚更思う。なんで先に言ってくれなかった! と、苛立ちを覚えていくが、言葉『詠唱』を発してしまったのは、他でもない僕だ。『八つ当たり』に近いのかもしれないが。ぐちゃぐちゃの気持ちになり、深みに嵌る。僕って、大分身勝手な生き物の様だ……。
デメテル様は、不機嫌な物言いの僕に、冷静に淡々と語り始める。
要はこういう事らしい。
ゼウスが、いるかもしれない。と感じたのは王都に来てからであった。ただ、この世にいる訳でも無いと思い込んでいた事もあり、伝えるか判断に迷っていた。出発前日に伝えようと思ったそうだけれど、確実ではないし、何が目的なのかも分からない為、伝えなかったという。
それまでは、近くにいるかもしれない。程度の気配だったが、山賊を見つけた大司教から、気配を感じ始め、確信したのは、僕が大司教ゼクス(ゼウス)に呼ばれて、急に気配を隠さなくなり、威圧を出し始めた事がきっかけだったそうだ。
基本的には温厚な性格の持ち主だけれど、誰しも予測がつかないほど気紛れで、急に天災を起こすことも昔は良くあったそうだ。
あらゆる天気地形等をも操る、最高神ゼウスというわけか……。
理屈は通るけれども……。其れよりも……。
って! え?! 最高神ゼウスに攻撃行動してしまったんだ僕……。其れこそ、神の怒りに触れたということだ。先程までの、デメテル様への負の感情を、一気に恐怖が上書きしてしまった。
「僕、やはり殺されてしまうんでしょうか……」
そう呟いてしまった僕に、ブリジット先生は、首を傾げ教えて? と目線を向けてくる。
余すことなくブリジット先生に伝える。ブリジット先生は大きな溜息を漏らした……。
「なんでウィリアムを怖がらせる……」
ブリジット先生は、呆れた物言いでデメテル様へと言葉を伝える。
「と、とにかく……。ゼウスについては分かりました。仕方なかったと、今は思うようにします。それとデメテル様、ひとつ気になった事が、何時だったか、僕の鞄に紛れ込んでた紙を覚えてますか? あれ、セポネって書いてた気がするんですけど」
――セポネを諦めたの?
(妾も気になっていたのじゃ、とは言ってもおぬしは、簡単に外にもでれぬ身であったしの……)
「僕は、ほぼ学園か辺境伯邸にいましたし、デメテル様を認識している存在で、僕の鞄にも入れられた存在って事ですかね? 他にも神の眷属がいるってことでしょうか? 僕の近くの存在となると、シャル位しかいなさそうではありますけど……」
(わからぬ。そもそも妾も最高神ゼウスも、明らかに例外なのじゃ。神々であっても、自分の意思でこの世に来ることなど出来ぬし、そのような事はあってはならん事じゃ。それに、ゼウスが、手紙など、あんな事する性格ではないはずなのじゃが……)
置いてけぼりのブリジット先生に通訳をしていく。この先の移動で、言葉を話すような魔物がいたら、真っ先に狩りをしたいと感じた。それ程に通訳作業が大変なのだ。
「わからないことだらけ、ということだけはわかりました。今の僕に、人探しが出来るかはかりませんが、先ずは辺境伯様にどう伝えるか。いつかは何処しらで会わなければなりません。恐らくそれからです」
先ずは辺境伯様に相談しなければ。起こってしまった事実は取り返せないけれど、これ以上、ブリジット先生に甘やかして貰うばかりもいけません。
行きましょう。罪を忘れずに、それでもなるべく前を向かないと。
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