第2章2 ここから始めよう1

「外、凄いね。腰抜けるかと思った」


 謝ることも違うし、誤魔化すことも、冷やかすことも、何も言葉が出ない。僕は複雑な表情をしていたのだろう。


「いや、責めたい訳じゃないんだ。誤解しないでくれ。この世の果て? とでも言えばいいのか、言葉に困るな。あ、ごめん。続けよう」


 話の途中ではあったが、お花摘みに席を外していたであろう、ブリジット先生が戻ってきた。


 まず決めなければいけないのが、この後、王都へ向かうのか。王都に行くなら、件を扱いをどうするのか。行かないなら……。


「さっきも言ったけど、ボクとしては、キミが、真っ向から真実だけを告げても、ただ極刑となって終わると思う。勿論、少女神の力を使えば、回避出来るとは思うが、その力を使うと……」


 言わなくてもわかる。洞窟前の惨状を見れば、誰でも容易に想像つくと思う。先生は、自分の事よりも、僕の事しか考えていないようで、また泣きたくなる。


「大司教と聖騎士が帰還しないのは、1ヶ月以内には把握されるはず。教会は基本的に、国と同等の恐ろしさがある」


 ブリジット先生が考える、一番の懸念から話始めていく。


「出来ればアーノルドとエルリーネの意見も聞きたいけど……。だが、真実を告げるにしても、隠すにしても、何方にしても、あの2人を巻き込ま無ければいけない。その覚悟だけは必要」


 次に、やはりと言うべきか、王都に行けば、辺境伯夫妻を巻き込まざるを得ないという事。2人とも大好きだから、迷惑かけたく無い……。


「それと、アーノルドが言ってた。メル大森林の空中爆発は、キミの行いと教会は断定しているはずだと。つまり、この天災並の光景を、キミの魔法と断定してくる可能性は高い。望ましいのは、ボク達も巻き込まれて、死んだと思ってくれること」


 死んだことにするか……。僕の罪も同時に聞いた、父様も母様はどう思うかな。


「あとは、そうだな……。大司教のボク達への攻撃未遂は、証言を得られない事が問題。ボクは身を隠す事が望ましいと考えてる」


 こんな時に言うことでも無いのだけれど、普段、無口で、単語を繋げる話し方が特徴のブリジット先生が、思わず長っ! と、ツッコミを入れたくなるほど流暢に話し始めたのだ。そりゃ、僕も驚く。


 (そうじゃの。妾もそう変わらぬ。強いて言えば、隠れる先が無いということかの。ウィリアムは、中身は良いとして、見た目が幼すぎるのが問題じゃな)


 僕は、余すことなくブリジット先生へと伝えていく。それにしても、本当、心強いな。この人達。


 と思ってた矢先、ブリジット先生が僕に問う。


「だけど、ここまで、ボクの考えで話を進めておいてなんだけど、これだけは間違えないようにして欲しい。決めるのはボクじゃないし、少女神でも無いと思う。ウィリアムが直ぐにでも王都に戻る。というなら、そうすべき。キミはどうしたい」


 急に僕に振られたので、僕の頭は整理が追いつかない。


「え、えーと、突然だったので、すみません。僕がと言うのは考えてませんでした。ちなみに、何処に身を潜めるか、あと、どのくらいの時間そうするのが良いのか、それによる気がします……」


「そう。ごめん。潜伏先と潜伏期間か……。仮に国内の場合、この表現は褒められたものじゃないが、現状の国内情勢的にも、治安は悪化の一途を辿るのは間違いない」


 サウザンピークですら、治安が悪いと感じていたくらいだ。山賊の存在を知ってしまった僕も、それは何となくわかる。


「少なくとも今年の収穫がしっかり見込まれるのかが、分かるまでは安定しないはず。国内で紛れ込むなら、その不安定な地域位しか思いつかない」


 何時だったか、クリス先輩とローリーが話してたことを思い出す。あれは、夏前だったかな。


「少女神とゴーレムが居れば……、巻き込まれて殺される事は――、ごめん。ウィリアム。表現が難しい」


「とんでもありません。こんな僕の為に考えてくれてるんです。謝らないでください」


 (妾としては、そうじゃのー。ミレーユやらには知らせてあげたいのじゃが、母親の悲痛な心情を考えると、妾でも胸が痛む気になってしまう)


「デメテル様……。あ、いえ。すいません。――と話してます。ブリジット先生」


「そうか。せめて、アーノルドだけにでも伝えることが出来れば……。ん、少女神の操作範囲って、何処までいける?」


 (魔人娘よ。妾はデメテルじゃ。少女神ではないぞ?)


 それを伝えると、ボクも魔人娘ではないと。どっちもどっちの話になってしまい、無駄な時間を過ごしてしまう。デメテル様、今はそんな事言ってる場合じゃないですよ。


「で、試したことが無いんですけれど、メル大森林では、かなり奥地まで入ったと思いますよ。それでも、まだ続きそうだったので、途中までしか行ってないですが」


「それが良さそう。そうなると、この三日月山脈の国境沿いを北上して港に入る。次に、海沿いを東に向かう、港街だったサンリーニ戦跡地に行こう、村くらいはあると思う、そこからなら、王都アルテナも近い」


 サンリーニ戦跡地は、数年前に帝国に突如として襲われて無くなってしまった元港町だったはず。この時に、クリスタルを大量に奪われた。という表現が正しいと思うけど、人命もクリスタルも多くの犠牲を出した。と教科書にも記載されていたような気が。


「そこから、少女神で手紙をアーノルドに渡そう。その場で答えてくれると思う。声が出なくても、少女神を使ったキミなら、アーノルドと筆会話出来る」


 (海沿いか、仕方ない。問題無いとは思うが……。すまぬ。忘れてくれ。その後はどうするのじゃ?)


 デメテル様、海を嫌がる傾向にあるのは何故だろう。大司教の時も感じたけれど、神が関連してるのかな? となると、ポセイドン? わからない。一先ずブリジット先生に、その後は? と伝える。


「アーノルドの返答にもよるが……。さっきも触れたけど、既にボク達が死んだ扱いになっているなら、サウザンピークへ直接帰るのが良いと思う。キミにとっては、ある意味で一番理想かもしれない」


 そうなると、別人として生きていく事になるのだろうか。学園にも戻れないだろうし、シャルにも会えなくなるのかもしれないし、今まで以上に外に出れなくなる気もする。


 わかる気もするけれど、その生き方は何となく寂しい。


「捜索されている。若しくは、既にお尋ね者といった場合は、アーノルドだけでボク達を匿うことは難しい。ボクとしては、一旦はシーガリア公国が良いとおもう。中立国で王国に手紙も出せるし、行き来も自由。出せなければ……。それでも公国かな。東のスキニア共和国なら良いかもしれないけど、連邦や帝国となると、遠すぎる。更に奥地は問題外。帰って来れなくなる」


 ブリジット先生は、先程から考えながら色々と提案してくれる。


「常にアーノルドと連絡を取れる場所で、どうしていくか、都度判断して貰うのがいい」


 更に続けるブリジット先生。


「あとは、もしキミが直ぐに帰る、と言う答えを出す場合だけど。今から1ヶ月程は猶予があるはず。巡礼の予定からいくと、それくらいが時間制限。現状は、馬も馬車も無いから、王都へ向かう途中の街で確保出来れば、短縮は出来る」


 直ぐに戻るとどうなるんだろう。まだ巡礼中の予定だから、辺境伯様と考える時間は持てるけど……。


 少しの間、考え混んだブリジット先生は、謎な提案をしてきたのだ。


「若しくは、キミと少女神だけで先に帰ることが出来るはず。少女神にキミもたせればいける。これなら、魔力がある限りひたすら進める」


「それって、ブリジット先生を置いていくって事ですか? 出来るはず無いこと分かってて言ってるんですか? 怒りますよ?」


「そう。まぁ、でも、やっぱりと言うか、そういう反応してくれるよね、キミは」


「当たり前じゃないですか、何を言い出すかと思えば」


 明らかに不機嫌になる僕は、ありえないと伝える。


「それで、選択肢は色々伝えた。他にもあるかもしれないけど、今考えられるのはこんなところ。で、キミはどうしたい?」


「色々心配してくれて、ありがとうございます。本当に嬉しいです。先生は、僕の身が1番安全になるだろう行動を考えてくれたのが、良く分かります。その上でですが……、やっぱり、先生のオススメの跡地行きにしましょう」


「了解した。其れがいいと思う」


「ブリジット先生、本当にありがとうございます」


 王都に来てから、ずっと元気をくれるブリジット先生。帰ったら先生が喜んでくれそうなことをいっぱいしたい。


「それと、妖精のアーニャさんだっけ名前。どうする?」


「朝、早く此処をでてしまいましょう。僕達には秘密事が多すぎるので、会話も難しくなりますし、巻き込む可能性もありますので」


「ん。わかった。助けてもらったけど、あの子ドジっ子そうだし、賛成」


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