第1章10 ブリジットレポート
ウィリアム・ハワードの能力についてのレポート(仮)
彼の力による最大の疑問は、何かしらの単一素材から、二足歩行が可能な、生物若しくは魔物に近しい存在を生み出すことが出来ること。
これは、ドリッケラー帝国が持つ、二足歩行型オートマタ魔導具作成技術とも類似しているが、異なる点は幾つかある。オートマタは、複数の素材と魔石が必要で、尚且つ、人的に組み立てなければいけないのだが、彼は魔力で作成していると考えられる。
次に、彼が持つ能力のうち、上記記載の存在を、操作する事が可能な点も挙げられる。操作系魔法は存在するが、※1 魔力そのものを操作する事が可能というだけで、物体を動かすという事は出来ない。
上記とは別に、彼が作り出した存在以外にも、条件付きで操作可能な物体がある。現段階で判明している物体を下記に記載する。
・帝国式オートマタ(複数の金属、魔石、魔素材)
・仮オートマタ(複数の金属、クリスタル、魔素材)
上記記載の素材の内、『帝国式』については、そのどれもが掛けると操作不可。
『仮』について。魔素材を除くと、何らかの動く挙動は見えるも操作不可。
クリスタルを除くと、完全に操作不可。
よって、『仮』が『帝国式』の上位互換になる可能性はあるが、現段階では彼の能力でしか操作が不可能。よって量産は今の段階では推奨しない。
他者が作製した物体を操作するには、クリスタルと魔石に因果関係があると断定する。
※1 地点①から地点②まで魔力の塊を動かすと定義
彼がマリオネットと呼称する、木製の人形について。
観察者が、初めてマリオネットなる物体を観察し始めてから、半年間で二度、進化と思われる変化を遂げている。
一度目は、メル大森林空中爆発の際、マリオネットを回収した彼が、『サイレントウルフ』の魔石と魔素材と使用し、マリオネットを再作成した時によるもの。その際、単なる木製人形だった存在に、柔軟な関節が付与された動きを見せる。
二度目。サウザンピーク魔法学園における、課外授業に参加していた際によるもの。観察者は現場には居なかった為、彼の状況報告を記載する。
当時、マリオネットを操作し、魔物『エキドナに似通った存在』を駆除した際に入手し、魔石と魔素材を使用し、再度マリオネットを再作成した時に起こった現象との報告。
彼が、王国内で存在すら疑問があった『エキドナ』を、彼がどのように判別し、断定したかは報告無し。尚、姿形については、上半身は人族の女性と、蛇のような下半身を持っていたとの報告有り。
上記進化後。明らかに、人族の少女の様な姿へと変化する。凝視すると、確かに人形と判別出来るものの、注意深く見ない限りは、人族の少女と判断してしまう。
少女人形の姿形
・年齢、10歳前後の人族に近しい
・髪色、栗色(髪形は彼の友人が整えている様子)
・瞳色、深赤
・肌色、白人種に近しい
・肉付きは程よく、所々に皮の繋ぎ目(化粧で修正可能程度)
・外皮内に骨と思われる何かしらが存在有り
・発声不可
その後、サウザンピーク領主並びに、同都市学園長の承認の元、学園在籍扱いとなる。学園内では、彼の側仕えのような動きをさせ、周囲に違和感を持たさせない程度に、彼が操作していると報告有。報告による推測ではあるが、常時彼が魔力を消費し、少女を操作しているものと考えられる。彼の睡眠時は不明。
魔法使いとしての素質、並びに彼の魔力について
サウザンピーク魔法学園入学時より、魔法学科と途中から魔導具学科を専攻。何れも評価は高く、本年度の必要単位も、約半年間で取得を収める。
中でも、魔法実技講義の際に見せる彼の魔法は、明らかに異質と呼べる。本来、どの系統、どのクラス魔法も、使用者に関わらず威力に違いは無い。王国の歴史上、彼以外にその魔法威力を行使出来た者は、存在しなかったと結論付けざるを得ない。
一般的な使用者から比較するに、凡そどの魔法も、3倍から5倍の運動量を持ったものと推察する。
今後のダーレン王国における、彼への期待度と今後の推論
上記同様、圧倒的な魔法使いの才能をもってすれば、今後の軍事力増強に期待せざるを得ない。だが、個人が持てる力としては、あまりに絶大過ぎる為、扱いを間違えれば、一つの都市が、一夜で塵と化す事も想像が難しくない。
観察者の個人的見解ではあるが、未だ彼が5歳という年齢を考えると、どのような理由で感情が爆発するかも、不明な点が多すぎる。その為、軍事利用は控えることを提言したい。
今後も観察者として注視していくつもりだ。
――ブリジット・ゲインズノーレ――
――――
「ボク、個人的には、あの子の能力を調べるのは楽しいけど、こういうの好きじゃないんだけど」
「あぁ、わかってるよ。それでもしっかり記載されてるじゃないか?」
「そりゃ、金銭が発生する以上はね」
「まぁ、古い付き合いなんだから、そんなに怒らないでくれよ」
「それにしても、たった半年間でここまで」
「アーノルド。分かっててボクを付けたんだろ? 一体、あの子は何者なんだ」
「すまないねー。其れだけは勘弁して欲しい。彼が君に対して、話しても良いって判断すれば、そのうち自ずと語ってくれるとは思うんだけどね」
「なるほど。信用を勝ち取れってことか」
「んー。すまない」
「で、これは国王陛下には?」
「見せれないだろうね。一度戦争に負けてるからね、尚更だよ」
「とは言っても、遅かれ早かれ、耳には入るだろ」
「そうなんだよねー……。個人的な質問なんだけど、あの子を知ったらどうなると思う?」
「それにも書いてあるだろ、間違いなく軍事利用される」
「うーん……。やっと復興したのに、また戦争か」
アーノルド・ウィンチェスターは、どうしたものかと頭を抱え項垂れていた。その様子を見ている、妻エルリーネが追い討ちをかける……。
「アーノルド、対外だけじゃないわよ? ほぼ確定している事があるじゃない」
「あー。今年の農作物が壊滅的打撃を受けそうというか、受ける話だね。既にかなり値段が上がっている。頭が痛いよ……」
「先ず間違いなく、小領地から先に不満が爆発するわよ、最後には王都が」
「6年前の戦後の状態に逆戻りだな」
「いいえ、あれは1都市で済んだから、国内全体までは広がらなかったけれど、今年だけなら兎も角、これが来年もとなると、王家への責任追及が必ず起こる」
「暴動や内乱、略奪か……」
「そうね。混乱状態の国を占領しようなどと考える国は無いでしょうけど」
「…………」
「ごめん、政治に興味が無いから、話の腰おるけど、あの子の父親、帝国技術者かなんかだろ? 魔導具の
資料貰えないか?」
「珍しいね、他人に興味を持つなんて」
「他の人には興味がない。あの子が欲しがる魔導具、ボクの知識じゃ追いつかない物が多い」
「なるほど、息子の為なら準備してくれるだろ。あ、でも、彼の資料も私の家の財産だから、口外禁止で頼むよ」
「勿論だ」
「じゃあ、ボクは失礼するよ」
「あぁ、すまなかった。ありがとう。資料は学園に持って行かせるよ。じゃ、レポートまた頼むね」
(……面倒くさい)
「あ、さっきの可能性が起こったら、ボクも付いていくよ。休職扱いにしてくれ」
「ん?」
「耳に入れば王宮召喚となるんじゃないか? あの子」
「まぁ、そうだろうね」
「そゆこと、じゃあね」
ブリジット・ゲインズノーレは、仕事を終えて学園へと戻って行った。
「クリスタル減少って、凶作に関係してるんだろーか」
「お父様、ここ何年かは諸外国含め、争いは沈静化しております、他の何かがクリスタル消費しているのでしょうか?」
「なんとも検討もつかないね……」
「「「…………」」」
ウィンチェスター家3人は揃って天井を見上げている……。
学園までの道のりで、ブリジットは独り呟いていた。
(本当にあの子は……、ボクの知的欲求を最大限に満たしてくれる。感謝するよ、アーノルド。あの未知なる力は、やっぱり、ずっとボクの傍に置いておきたい……)
――――
最近の僕は講義が無い為、ブリジット研究室で過ごすことが多い。というのも、自分用の魔導具と、妹のマリーに向けた魔導具開発が、最近の僕の趣味。
「ブリジット先生、ここなんですが――」
「あぁ、そう。それであってる」
こんな感じで手伝って貰っている。素材は、以前課外授業で集めた、大量の素材を使用しているが、そろそろ底を尽きかけている。
今のところ、割と簡単な魔導具作成を教えて貰っているけれど、欲しい物が多すぎるのが悩みなんです……。
「……お茶頼む」
「畏まりましたー」
僕は、細かな動きの操作に慣れるため、デメテル様で、側仕えのような動きの操作をして、日々訓練中。動きや姿勢はアメリアさんが参考だ。デメテル様は、なんで妾がとブツブツ小言を言うけれど、魔力操作の訓練ですよ! と説得し、渋々付き合ってくれているのだ。
更に、部屋に置いてあった、アルフレッド父様の鉄塊オートマタに、課外授業で回収したクリスタルと、数日前に、ブリジット先生と狩りに出かけた際に手に入れた、中位魔物素材を嵌め込んだら、僅かながら、自我のような物を手に入れた魔導具になったのだ。
前にブリジット先生の実験? に付き合った時に気が付いて、今回試してみたら成功したのです。なので、最初の起動時に僕の魔力を流し、何をして欲しいかイメージしたら、その通り動いてくれた、という訳です。今は、部屋の中で執事風な動きを真似させて、部屋友(仮)通称、執事君にしてしまいました。
このオートマタは、クリスタルの魔力が切れると、動きは止まるけれど、翌日には魔力が貯まるようで、僕のお世話をしてくれます。とは言っても、部屋の中で出来ることなどあまりないので、服を着せてもらったり、お茶を入れてもらったりの簡単作業。あと何体か欲しいところです。
「ところで先生、オートマタに使う金属って、何でも使えるんですかね?」
「王国の魔導具研究は、帝国よりもかなり遅れてる。正直、その辺はキミの父親の方が詳しそう」
「そうですかー、以前、部屋に置いてあるオートマタの金属を、どうやって手に入れたのか聞いたんですけど、はぐらかされたんですよ」
「そう。まぁ、一般的に言うなら、錆びにくいことが前提。次に骨格は強度が必要。あとは重すぎないとか、関節などの駆動域は魔素材の力による。王国で集めるとなると少し厄介」
「難しいですね」
「鉄のゴーレムじゃ納得できない?」
「あれ、多少見た目は変えれますけれど、どう考えても、普段は使えないじゃないですか。あちこちから警備や騎士が飛んできて、僕お尋ね者になっちゃいますよ」
「まぁ、それもそうか」
「狩りの時なら強いんですけどね……」
「形を整える練習でもしたら?」
「出来るようになったとしても、鉄一色とか石一色の人間風が歩いてたら、皆驚きますって」
「そうか、単一の素材からしか生成出来ないんだったな。それだと、その少女が説明つかないけど」
「……何でなんでしょうね?」
(……っち)
最近のブリジット先生は、デメテル様にご執心のようで、ことある事に調べようとしてくるのです。デメテル様にも止められてるので、言えないんです。ごめんなさい。先生。
そんなデメテル様は、最近どういう訳か、遠出をしたがる傾向にあります。僕の場合、辺境伯様から護衛やらが付けられてしまうので、あまり自由に動けない。何処かに行くと言えば、ブリジット先生との外壁上からの狩りや、シャルとアメリアさんとのお出掛けか、父様母様とのお出掛け。ただ、マリーがまだ小さいので、そこまで極端な事も出来ない現状なのだ。
ん? おやおや? 良く考えたら、デメテル様の今の姿なら、近くなら1人で出掛ける事も出来る!
(その手があったの! 妾も気が付かなかったわ、カカッ)
「ブリジット先生! ちょっと用事を思い出しました! 今日は失礼します!」
「…………?」
伝えるだけ伝えて、ささっと研究室を飛び出す僕と少女姿のデメテル様。後ろから溜息が聞こえたけど気にしないでおこう……。
回収が大変になるとイヤなので、都市内の近場で良いですか?
(勿論じゃよ。なんだか気を使わせてしもうたかの。)
僕も、ほとんど街の探索した事が無いですし、デメテル様の視界から見れるので、全く問題ないですよ。
あまり遠く無い所でしたら、デメテル様が行きたい所へ操作しますよ。と、僕は伝える。
早速僕は、執事君が待つ部屋へ戻り、制服でもある、真っ黒ドレス姿のデメテル様を操作する。
流石に隠れた護衛さんも付いては来れないでしょう……。
(楽しみじゃ! 感謝するぞ、ウィリアム)
僕達は、護衛無しで出掛ける事へ、期待に胸を膨らませ、街の喧騒へ走り出していった。
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