第1章9 課外授業2
――エキドナ
女性の上半身と、蛇のような下半身を併せ持つ、高位中の高位の魔物。その特徴的な姿の女性は、様々な魔物を産み出す事が出来る。戦闘においても凶悪の極みといった性質を持つ。
――著者 女神デメテル――
(エキドナに産み出されたは良いが、名も無き魔物というのか、何者にも成れずに、この辺りを彷徨っているのであろうな。姿は多少似ておるがの……)
デメテル様は、遠くに見える成れの果てが、何者なのかを予測しながら語る。
高位の魔物って、強力な魔法では対処出来ないのですか? 前のキメラは倒せましたし。と僕はデメテル様へ尋ねる。
(対処出来る者もいるが、人であらば、大体は撃つ前に消されるか、魔法への体勢を持つものが多いのじゃ。前のキメラは、そもそも高位では無いからの、あれの高位だと、やはり妾では難しいと思うぞ? 大体にして、おぬしも言っておったであろう、魔法をドカンドカン使って大丈夫なのか? とな! カカッ)
そうなのだ。魔物からしてみたら、大地が燃えようが爆発しようが関係ないのだ。簡単に言ってしまえば、神々が本気になればどうとでもなる話では有るけれど、同時にこの世界が地獄絵図となってしまうのだそうだ。
でも、最初の頃、魔法でドカーンとか言ってませんでしたっけ……?
(……す、少し機嫌が悪かったのかもしれぬな。とは言っても、どうしても必要な時が来た時は、迷わず全力をださぬと、おぬしがあの世行きじゃ)
機嫌が悪くなると、木端微塵にするつもりなのか。それだと、自ら飢饉を進めるようなものなんじゃ無いだろうか……。
(兎に角、早いとこ刻んでしまおうぞ、レッドキメラは塵になってしもうたからの。カカッ)
刻む。ですか……。風魔法だけでいけるだろうか?
(心配なら、土系統でそこのクリスタルでも尖らせて、風系統の真空波でも合わせてみたらどうじゃ?)
ふむふむ……。一先ずやってみますか……。
――
一旦クリスタルを砕き……!
――
真空と一緒に飛ばす……!
「ウィル、何か言いましたか?」
「あ、いえ! 独り言です……ははは」
気を抜いてました……。シャルはまだ本を読んでるから大丈夫かな? あの2人昼寝してるし……。
よしよし、上手いこといったようだ。成れの果ては綺麗に細切れてる。
近くで見ると本当に女性の姿だ。でも、下半身の蛇は無い。気味の悪い。あとは、どうやって持って帰るか……。
(おぬしがここに居ないのは不便じゃの。とりあえず、皮膚と骨? あとは、魔石とクリスタル位なら持たせれるじゃろ)
残りの素材は勿体ないけれど仕方ない。一先ずはデメテル様と素材を回収してしまおう。
「シャル、少し付き合ってくれませんか? デメテル様を回収したいのです」
「ええ、構いませんわ。ずっと座ってたので、丁度良かったです」
「あ、すみません……」
気にしないでと言ってくれるシャル。僕達は早速、人気の無いところでデメテル様を回収し、女神たっての希望であった、マリオネットの作り直しを試みる。
「わわっ!」
「なんとっ!」
どんな理屈何でしょう? とシャルが呟き、先程までの木製マリオネットの女神デメテル様の姿が、エキドナの産み落とした成れの果ての能力でしょうか? 全くと言って良いほど、蛇女には似つかないものの、そこには、とても綺麗な1人の女性の姿が顕現された。
まだ、微かに人形感の残る姿ではあるが、遠くから見れば人間とも思える姿形。大きさも変わり、シャルより少し大きい程度まで大きくなってる。
ただ、僕が目線のやり場に困っていると、シャルがそれを察してくれて、自分の膝掛けを取りに戻ってくれる。
布一枚であっても、先程よりはましだ。それにしても、殆ど人間だなあ。
「これは、驚きましたね……」
「ウィルが力を使う時は、心構えが必要だということを再認識しましたわ……」
「それにしても、もう鞄に入らないですし、どうしましょう」
2人でこれは困った、とやり取りをしていると、後ろから僕達を呼ぶ声がする。
「やぁやぁ、すまないね。会長がこちらに走って行く姿を見つけてね。いやいや、訓練に疲れてローリーと寝てしまっていたようだ」
「構いませんよ。僕達ものんびりしていましたし」
「それはなんだ? ハワード」
ローリーはデメテル様を指さし、目を細めながら、不思議な物を見る目で訪ねてくる。
「あ、あぁ。時間があったので僕のマリオネットを改造してたんですよ……ははは」
「それにしては、前のと違って、ほとんど人に近い感触だな……」
つんつん突きながら、ローリーの質問が止まらない。シャルも引き攣った笑を浮かべ、ローリーの対応に困っている様子だ。なので、咄嗟に僕は壮大な嘘をつく。
「ブリジット先生が素材を提供してくれたので、その素材で縫い直したりと、要は作り直したのです」
「へー、あの先生がね」
先生いつもごめんなさい! 無茶ぶりしてごめんなさい!
「まぁ、いー。夕食の食材を狩りに行きたい、ついてこれるか?」
「勿論ですよ」
「わたくしも構いませんわ」
「こっそり、海の方まで行くのはどーだ?」
(海は困るのじゃ)
ん……?
「す、すみません。魚はちょっと……」
「ふーん、そーか。なら肉でいーか」
「ありがとうございます」
危なかったけれど、誤魔化せたかな?
これは凄い! ひゃっほー!
感覚的なものではあるが、今まで何処かぎこちない操作ではあったが、それはまるで、自分の身体でも動かす程、操作が楽になったのだ。デメテル様もその感覚は分かるらしく、大の大喜びの様子だ。
(にしても、高位の魔物じゃなければ、この辺が限界なのかもしれぬの。あとは、魔物の能力を引き継げる程度かの)
なんとも凄い事を言ってのけるデメテル様。何となく、こうなること予想していたような物言いで、あとは、声を出したいとか、自分で歩きたいとか、少女へ変貌を遂げた彼女がブツブツ言っている。
ローリーの美味しい食事を食べた僕達4人。本日の予定を終え、あとは寝るだけなのだけれど、食後の運動に付き合って欲しいと、戦闘大好きな先輩2人に頼まれ、その、あまりのしつこさに、僕は少しだけ苛立ち、渋々付き合うことに。
君達は、どれだけ戦いたいんですか。
「わたくしは見ておりますから、ただ危険なことはしないでくださいね?」
「勿論ですよ!」
日に日にではあるけれど、僕を大切にしてくれてるのがわかる。何だか、心が暖かな嬉しい気持ちになる。
「さて、どうしましょうか? 僕はそもそも人と戦った事など無いのですけれど」
「あの時が初めてだったのかい?」
「そうですよ。無理矢理決闘を申し込まれたから仕方なくですよ。そもそも、人との争いは苦手なんです」
「いやいや、十二強とも言われるハワード君が何を言うのだね!」
「それは、勝手に広められただけです! 興味ないですよ」
「ハワード、なら、オレに魔法をひたすら撃ち込め。オレの避ける訓練にはなる」
「えぇ……。当たったら大怪我じゃ済まないじゃないですか」
「かまわん、クリスは簡単な治癒術も使える」
「んー、なら、下級でいいですか?」
「それでいい。当てることが出来たらお前の勝ちだ」
「また勝負ですかっ! クリス先輩クリスタル持ってきてますか?」
「あぁ、何個かある」
「わかりました」
ローリーにそう告げ、本営キャンプ地から距離をとる。大怪我させたら困るのは僕達なんですけどね……。そう溜息混じりに呟き、じゃあいきますよ、と合図をする。
講師に見られると厄介そうなので、視覚的にわかりにくい魔法しか使えないな。
――
あれ? 当たらない? 水弾小さくしすぎたかな?
これだけ小さな粒でも、大量に飛ばしてるから、当たるはずなんですが……
――
とは言っても、デメテル様の魔法だと、粉砕骨折してしまいそうなんですよね……。
「おい、手を抜くんじゃねー!」
はぁ。仕方ありません、少しだけですよ……。
――
バチンッバチンッ!!
女神デメテルの手からでた光の筋。目で追えない程の速さで、その細い青光は、必死に逃げるローリーを追い詰める。デメテルの放つ青光りは、下級魔法等とは、最早言えない速度と威力を持ち合わせており、その暴力的な青光は、簡単にローリーの身体を撃ち抜いた。
「…………」
どさっと音を立て倒れたローリーは、小刻みに痙攣しながら地面に伏せている様子。
「クリス先輩!」
咄嗟に叫び、クリス先輩に治癒術をかけてもらうよう合図する。術をかける瞬間まで、ローリーの心臓が止まってた事を告げられ、僕は冷や汗をボタボタ流した。
「…………かはっ!」
ばっと、飛び起きたローリーは、何が起きたかわからなかったようで、未だ目は血走り戦闘体勢。
クリス先輩が何とか押さえつけ、一連の流れを説明しながらも、フーフー!と威嚇するような声を漏らすローリー。
暫くクリス先輩が羽交い締めを続け、もう終わったと何度かローリーに呟き、やっとのことで落ち着かせた。
「そ、そーか。クリス助かった」
「ローリー、何処か違和感とかないかい?」
「いや、大丈夫だ。すまん」
「ビックリしましたよ、心臓止まってるってクリス先輩が言うのですから。シャルを見てください、真っ青で涙まで浮かべてますよ」
「あ。いや、すまん……」
「もう、訓練に付き合うのはこれが最後です! 良いですね?」
「あぁ……」
そのまま話を終わらせ、未だ青ざめ震えているシャルの手を取り、大丈夫みたいです。少し休みましょう。と、声を掛けテントへ連れていった。
(これ以上は長耳娘もしつこくはしてこんじゃろ)
だといんですけどね。と僕はデメテル様へ溜息をつく。
シャルは寝床に横になりながら、僕の手を握り目を瞑る。それを見ながら僕は、大丈夫ですよ。安心してお休み下さい。と声をかける。シャルに何度か声をかけられ、それに返事をしていると、シャルはいつの間にか眠りについていた。それを確認した僕はテントを後にする。
とんだ災難でした。あまり、言いたくは無いですけれど、ほんと、トラブルが舞い込んでくる。
そして、クリス先輩とローリーが休んでいた焚き火の場所へと行き、ローリーの体調を確認する。特になんとも無いようで、彼等に僕は、自分がほんの少しだけ特異体質だと言うことを説明した。熱心に聞いてくれていた2人は、僕の話を一通り聞き終えると、自分達の昔の話や出会った経緯、ローリーからは、何故そんなに戦いたいのかを教えてくれた。それは、至って単純な理由だった。ローリーの家系は、古くから強者への忠誠というか、強さこそ正義、のような教えで育ったそうだ。どーりで……。
クリス先輩は、実家の話をしてくれ、王都の話も色々教えてくれた。僕は故郷とサウザンピークの事しか知らないので、物凄く興味を引かれる事となった。こうして、色々と話した僕達は、何となくお互いの距離が近ずいた事を感じた。
さてと、やれる事をやれるうちに、やってしまいましょう。次、いつ素材狩りが出来るかわかりません。
僕達は今、テントで寝る準備をしており、操作だけなら横になりながらでも出来る。先ずは、デメテル様に、何かしらの能力が追加されていないかの確認したい。事前にテント裏に隠しておいたデメテル様を動かす。
昼過ぎに気が付いてはいたけれど、操作の範囲は驚くべき距離だった事を思い返す。とは言っても、素材集めだと、回収で困難になる事も理解した。
(仮にじゃが、成れの果てが、エキドナと同じような能力があったのなら、魔物でも作れるんじゃろうか? カカッ)
貴女は世界征服でもしたいのですか! と文句を付けながら、デメテル様の知識を探る。魔物を産み出す以外には、毒を付与する力があったり、誘惑して獲物を誘き寄せるような能力もあるようだ。
うーん。あまり使い道が。と考えながらデメテル様と色々試してみる。そんな中、デメテル様が石ゴーレムを作れる事が判明したのだ。
いぇーーーい!! これには大喜びの僕。そうなると、行きはデメテル様で探索し、獲物が大きければ、現地でゴーレムを生み出してもらえば良いのだ! ご都合主義万歳とはこの事だ。
とりあえず朝早く起きて、素材集めに励もうと考え、デメテル様を回収し眠りに付いた。
よし、明日はバッチリやるぞ!
今日の予定は、合同での模擬戦闘を昼まで行い、昼食を取り終えたら学園へ帰る予定だ。それまでに戻れるだろうか。
障壁魔導具かあ、便利そうだし対人戦闘ように、自分用にも欲しいかも。
未だ寝ている3人を横目に、僕は身支度を整える。操作中に声をかけられると集中力が切れるので、シャルの枕元に、居場所と何をしているかのメモを残し、僕はテント裏にひっそりと身を潜める。
僕達は自由です! さぁ行きましょう! デメテル様!
操作が楽ちんになったデメテル様を動かし、先ずは昨日の獲物の元へ向かったが、どうやら、付近の獣や魔物に喰われ、骨以外は跡形もなくなっていた。仕方ないので、渓谷付近で他の魔物を探すことにする。
ブリジット先生の必要な素材一覧を見るが、簡単な見た目しか書かれていないので、弱そうな魔物を一通り刻んでいく。狩っては集め、狩っては集め。
一番大変だったのが、ランクで言えば中位らしい、蜘蛛みたいな見た目の魔物だ。大きさも去ることながら、素早いは糸を飛ばしてくるは、なんだかんだ獣系の方が簡単であった。
一通り狩りを尽くしたデメテル様と僕は、早速ゴーレムを作り出し、素材を運ぶ。道中の魔物はしっかりデメテル様で倒しながら。
ゴーレム達を回収する時もかなり大変。如何せん大量の素材。シャルは事前に、クリス先輩とローリーに事情を説明し、講師への説明も口裏を合わせてくれていた。どうやら、僕は体調不良でお休み中ということにしてくれていたそうだ。
そうして、こっそり隙を見つけ、4人で素材を荷馬車に放り投げていく。勿論、ゴーレムはまだ見せたくないので、事前に形を解除済みだ。
こうして、僕達の課外授業の二日間は、ローリーの心肺停止というとんでも事件があったものの、無事終わりを迎えたのだった。荷馬車に少女姿のデメテル様も乗せ、学園へと帰路に着く。ふと気が付いたのだけれど、ローリーとシャルとクリス先輩の、距離感が近くなってたので、こっそりシャルに聞いたところ、朝にローリーが今までの態度を謝罪してきたそうだ。
とは言っても、この契約も今日までなので、今更と言えば今更だけれど、今後敵対するよりは全然良いのだ。
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