幕間 女神デメテル

「もしもーし」

「…………」

「もしもーーーーし!」

「…………」

「はぁ……」


 先程から僕を呼んでいる気がするけど、どういう訳か目が開かない。返事をしようにも口も開けない。


 (うーん……、どうしよう……)


「どうしようじゃないわ! やっと起きたようじゃの! カカッ!」


 (あ、話が通じたんだ! 良かった!)


「そうじゃ、通じているぞ! 良かったの!」


 どうやら、頭の中で言葉を投げかけると反応してくれるようで、一応は会話が成立するようだ。ただ、目は開かないし、口も開けないし、夢のような感覚なのかな。


「夢ではないがの。一先ず、今の状況から説明するから落ち着いて聞くがよい! 妾は女神デメテル。神じゃ! すごいじゃろ!」


 (…………)


「反応が薄い奴じゃのー。そなたはウィリアム・ハワードで間違いないか?」


 (はい……)


「よろしい。今、そなたの身体は気を失っている状況じゃ。あ、でも安心してよいぞ? 死んでるとかそういうのじゃないからの! カカッ!」


 (はぁ……)


「……続けるぞ? そなたの住んでいる村で豊穣祭をしておったじゃろ? でじゃ、その時に、村人達が妾に対して祈っておった。覚えておるか? 普通であれば返事をすることもなければ、施しを与えることもない。ただ、今回、そなたとこうやって会話が成立しておるということはじゃ、もうわかるじゃろ? わかってもらわねば先に進めぬからの、このまま続けさせてもらうぞ?」


 (これ、会話なのかな……?)


「わからんかのー。ようは、ちょちょっとそなたの人形作りの力を貸して欲しいという事じゃ……」


 (お断りします)


「……もう少し説明が必要なんじゃな? そうなんじゃな? よし、よろしい! そもそも、そなたの力はからくり士という名前のものじゃ。妾がまだ人としての身体も持っておった頃、その、からくり士という能力を持った者達がおった。とでも言えばわかるかの。そのからくり士は、様々な機会人形を生み出し、様々な国の軍隊に配備したり、生活用の便利人形にしてみたり、それに自我を持たせたりしたのじゃ。当時はAIロボットと呼ばれておった。だがの、いつしかその子達が暴走してしもうたのじゃ。結局、国がいくつも滅んだ頃に、どういう理由か宙から巨大な石が世界中に降り注いでの、世界の大半が滅んだのじゃ」


「そなたは、その当時のからくり士の魂が巡り巡って輪廻転生したということなんじゃが……、そなた輪廻転生ってわかるか?」


 (わかりません……)


「簡単に言えば魂を引き継いだという事なんじゃが、きっと相性が良かったのじゃろ。普通は能力なんて引き継ぐ事は無いのじゃが、他の十二神達がこの世界のバランスを保とうとしたのやもしれぬな! わからなんけど……! カカッ!」


 (…………)


「でじゃ、もう一度申すぞ? 妾にそなたの力を貸してほしいのじゃ。その代わりと言ってはなんじゃが、そなたにも妾の力を貸してしんぜよう! つまりはじゃ、女神デメテルの眷属にしてやろうということじゃ! カカッ!」


 (……えぇ)


「えぇ……ではない! 貸すのじゃ!」


「そうじゃ、忘れておったわ。理由を伝えてなかったのか。先程の宙から来た石というのが、今で言うクリスタルというものじゃな。暫く前から世界中のクリスタルが減ってきておるのじゃ。何故かというと、世界中の争いで急激にクリスタルが消費されておるという事じゃな。勿論、魔物なんかもそうじゃ。魔物はクリスタルを糧にするからの、それも止めねばならぬ。何故止めねばならぬか。それはじゃ、クリスタルがこの世から減ると、大地が荒れて作物も育たなくなるのじゃ、それは困るであろう? カカッ」


「時が経てばまたクリスタルは勝手に増殖していくから安心せい。それまでの間、力を貸してくれればよい。」


 (いやいやいや、無理ですよ!)


「だから妾の力を貸すと言っておるのじゃ! そなたに神々が使う禁忌級の魔法を託す! じゃから、そなたはどんどん人形を創り出し、その人形で争いを止めていく! さらに妾の授ける魔法を使って、それでちゃちゃーっと止めて欲しいのじゃ!」


 (お断りします! それだと逆に世界が滅ぶじゃないですか! しかも痛いのも死ぬのもイヤです!)


「…………」


「んー……、仕方ないのぉ。ならこれでどうじゃ? そなたの作ったマリオネットに妾が憑依する、そなたはいつも通り操作すればよい! な? それであれば、妾がドカーンと魔法を行使するから、遠くからでも操作出来るそなたは痛くないじゃろ!」


「わかっておるとは思うが、大地と豊穣の女神として大地を枯れ果てさせるなんて出来ないのじゃ! 妾の立場というものが無くなるのじゃ! だからお願いなのじゃ!」


 (その、ドカーンってダメなんじゃないですか?)


「そ、そんなことは無いわよ! そうだ! 全てが終わったらなんでも願いを叶えてあげる! だからお願いします!」


 (あれ? 気の所為? なんか急に話し方変わった気が……)


 (うーん……。うーん……。どうしてもと言うのでしたら、僕のやりたい事をやりながらが条件です。あと、人は殺したくありませんし、殺されたくもありません! 争いを止めたいなら、貴女が人を殺さずに済む方法を考えてください! それが出来ないならお断りします!)


「も、勿論なのじゃ! ちなみにやりたい事とはなんじゃ?」


 (僕が作った人形達で色々してみたいです! 村の住人になってもらうのも良いかもしれません、家事とかしてもらったり、母様を楽させてあげたいです)


「へぇ……。ま、まぁ、好きにするがよい! カカッ!」


「では、今から目を覚ますからの、良いか? そなたが起きたら妾はそなたの人形となっておるからの、よろしく頼んだのじゃぞ!」


かなり一方的に言い残し、元気いっぱいで、ちょっと胡散臭い女神様の声は消え、僕の意識も遠くなっていった。

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