第1章4 初の実戦
「ハワード君。その人形はなんですか?」
「僕が魔法を使う時に必要な人形です」
クスクスクス。なにあれ?
おままごとでもするつもりかしら?クスクス。
シャルロッテ会長もなんであんなのと一緒にいるのかしら。クスクス。
……全部聞こえてますよ。
魔法学園に入学してから早くも2ヶ月。魔法学科では初の実技講義が行われていた。
(言わせておけばよいのじゃ。そなたの魔法を見れば嫌でも実力差がわかるであろう。だが間違っても上級は使ってはいかぬぞ。この辺の建物が崩れてしまうからの。カカッ)
「そうですか。わかりました。学園長からも言われていますからね。では、あの案山子に魔法を撃ち込んでみてください」
「ウィルー! 頑張ってー!」
顬をヒクつかせながら、明らかに周りの冷やかしにイライラしている様子。それを全く隠さないシャルは、(あんた達よく見てなさい)と言わんばかりに、大袈裟に僕の近くで応援してくれている。皆のアイドル。シャルロッテ会長に応援されたのです。頑張るしかありません。
僕は右手を前に出し、掌から幾つもの光の玉を作り上げる。同時に僕が抱えているマリオネットが地面に立ち、僕の左前へと歩みを進めた。マリオネットは僕と同じように右手を前に突き出す。星空の様な無数の光の玉がマリオネットに向けて飛んでいく。それ等をマリオネットが瞬く間に吸収する――
――
僕は詠唱する。と、同時に遥空の彼方から極太の青白い光が、途中枝分かれをしながら荒れ狂う様に案山子を呑み込む。
ズドォォオオオオオンンンン!!!!
それは、一瞬の出来事であった。
案山子は跡形もなく塵と化し、稲妻が落ちた辺りはちょっとしたクレーターを創り出していた。
ある者は、腰を抜かし。ある者は、震え。ある者は、涙を浮かべている。それもそのはず。今、実技訓練を受けている生徒達のほとんどは、まだ下級魔法しか使えないうえ、あまりにもその威力が桁違いすぎたのだ。シャルロッテも、
やばいです……、これ……、やりすぎですよね……。
「キャー! 流石私のウィルー! キャー!」
ん? 私のウィルって、シャルロッテさん、どれだけ周りの生徒にイライラしてたのですか! 興奮しすぎで自我をなくしていますよ? 講師やら生徒達が引き攣った顔で見てますよ?
「シャル! シャル! 周りが見てます!」
「……!」
「す、すみません。少し取り乱しましたわ……」
顔やら耳やら手やら全身茹で蛸の様に真っ赤になりながら俯くシャルロッテ……会長萌。
「ハ、ハワード君。その人形は魔導具か何かですか?」
「いえ、違います」
「拝見させて頂いても宜しいですか?」
「辺境伯様のご許可を取って頂けるのでしたら構いませんが、中身は空洞ですし、魔石も何も入っていませんよ?」
「そ、そうですか……」
その日の午後は噂が噂を呼び、シャルロッテ会長の金魚の糞と見られていたウィリアム・ハワードは《王国十二強ハワード》と呼ぶものまで現れる始末となっていた。
「君、凄いじゃん……」
「見てたんですか?」
「うん。……お茶」
「ブリジット先生、以前お話したサイレントウルフの討伐についてきていただけませんか?」
「いやムリ……お茶」
「即答ですね……。でも、何も森の中に入る訳じゃないんですよ。僕が直接戦う訳でもないんで」
「……君の人形?」
「でもないんですけど、サウザンピークの周りに外壁があるじゃないですか、あの上まで着いてきてくれるとありがたいです。僕まだ子供なので、一人じゃ入れてくれないと思うんですよ」
「はぁ……。ホントに外壁まで? 危険なことしない?」
「勿論です! 先生が危険と感じたら、直ぐに抱えて戻ってくださって構いません」
「……そう。ボクがそう判断して、逆らったら殴る」
「わかりました! お約束します!」
この2ヶ月、ひたすら訓練をしていた僕は、石ゴーレムを1つの石から、膨張させるように作れるようにまでなっており、その数も土ゴーレムと同じ10体まで操作出来るまでになっていた。
その数日後。
僕は、ブリジット先生に手を引かれながら、メル大森林に面した外壁の上にやってきた。シャルにも内緒で来てしまったのは少し気が引けますが、仕方ありません!
じゃあ、始めますね。とブリジット先生に一言告げ、鞄に入れてある石の数十個と、マリオネットを取り出し床に置く。勿論、この場でゴーレムを作り出すと大騒ぎになってしまうので、石に魔力を込め、1つ、また1つと森へ向かって投げ捨てる。不思議そうに首を傾け、その様子を黙って見つめるブリジット先生に。僕は先生に下を見てみてくださいと告げた。
「……何あれ、魔物?」
「いえ、僕が作ったゴーレム達ですよ」
「何だか、君はゴーレム団の指揮者のようだ」
普段はジト目のブリジット先生も、ゴーレム達が横一列に並び、綺麗に並んでいる光景を目の当たりにし、流石に目を見開いている。こんな顔も出来るんだと僕は内心喜ぶ。
「先生、魔物図鑑開いてもらっても良いですか?」
「……あ、うん」
事前にブリジット先生に頼んでいた図鑑を眺め、サイレントウルフの姿や特性を確認しながら、僕はゴーレム軍団を森の中へ進ませる。
本日の作戦
・ゴーレム10体を横一列に並べ前へ前へと進める
・ゴーレムの視界を頼りに見つけ次第集結させる
・他の魔物を見つけた場合、図鑑を確認し強敵なら退避。難しいなら女神召喚!
・壊されたら別のゴーレムを作成し順次投入
・あとは数の暴力
僕は目を瞑り、ゴーレムの視界を辿る。
「ねぇ、何してるの?」
「すみません。集中してますので……」
「そう……」
一時間程捜索していた時、ついに其れを見つけたのだ。やったー!
「いました!」
1匹、また1匹と姿を表すサイレントウルフ。こちらも負けじと、横一列に並べていたゴーレムを、1箇所に集めていく。先に動いたのはサイレントウルフ。この群れは5匹で動いてるようで、連携を取りながら縦横無尽に駆け巡る。速さは圧倒的にサイレントウルフに分があるが、そこは硬さで勝負。何度も爪をたてられ、牙を刺されながらもゴーレムはビクともしない。
中々ゴーレムの攻撃は当たらないが、10体のゴーレムは、逃げ道を無くすように、サイレントウルフ達を囲んでいく。ゴーレムは、逃げ場を失ったサイレントウルフに一斉に殴り掛かる。
当たってしまえばこちらのもの。石1つから生み出したとはいえ、姿形は巨大な岩の様なゴーレム。その攻撃の重量は凄まじい威力の様で、どれもこれもが一撃で絶命した。
「おー!! 倒せましたよ! 先生!!」
「……え」
ブリジット先生は訳が分からない様子だ。それもそのはず。この1時間程、僕はただ黙って目を瞑ってるだけなのだ。わかるわけもない。よし、あとは持ち帰って……、何処で解体しましょう? まぁ、外壁前まで担いできてからでも良いかな?
再度ゴーレムを操作し、獲物を持ち帰る。と、その時1体のゴーレムの視界が消える。あれ? と思った僕は、別のゴーレムで、消えたゴーレムの方を凝視する。
するとそこには、ゴーレムと同じか、それ以上の大きさの魔物が咆哮を上げていた。
見た目は大きな毛むくじゃらの猫の顔と、先程のウルフの様な顔を、更に厳つくした顔の、2つの顔がついており、背中には大きな羽と、尻尾は蛇が生えている。
「先生……、――こういった魔物がいるんですが、強いんですか?」
「えっ!? 強いも何も、レッドキメラの特徴! 絶対にこっちに連れてきちゃダメ!」
(妾を動かすのじゃ、あやつはそこそこマズイ、せっかくの素材が台無しになる。急ぐのじゃ! 出会い頭で何でも良いから最上級をぶっぱなすのじゃ! 到着するまで、ゴーレムで時間を稼いでおくのじゃよ!)
それを聞いた瞬間、ほぼ無意識に近い速度で女神デメテルを操る。ゴーレムで1時間程かけた距離を、ものの数分でデメテルを現地に飛ばし、即座に戦闘を開始させる。
言われた通りに、レッドキメラを視界に捕らえた瞬間、レッドキメラの背後に潜ませておいた1体のゴーレムで、敵を上空へ飛ばすために思い切り下から拳を打ち上げる。拳をまともに受けたレッドキメラは遥上空まで吹き飛び、合わせてデメテルも上空まで飛翔させる。デメテルの視界でレッドキメラを捕らえた僕は火最上級魔法を撃ち込む。
――
レッドキメラの体内が真っ赤に染まり、一気に範囲を広げ大きな爆発を起こす。
爆発が起こり、デメテルの視界を使っていた僕の意識が一瞬白くなる。数秒後、かなりの威力の衝撃波が僕とブリジットを襲い、ほぼ同時に轟音が鳴り響いた。
ドゴォォオオオオンンン!!
ブリジットは、僕が飛ばされないように必死に抱きしめ、外壁の上で踏ん張っている。徐々に風が弱まり、地面の兵士や住民達は大慌ての様子。
やっとのことで冷静さを取り戻す僕とブリジット。遠くの空にはキノコ雲が出来上がっていた……。
「……君、何あれ?」
「……すみません、派手にやりすぎました」
「あれ、君がやったの?」
「はい……その代わりキメラは倒しました」
「……そう。えーと。ボク帰っていい?」
「いやいやいや! 目的を達成してませんので!」
「なんだっけ……」
「サイレントウルフの素材ですよ!」
「はぁ……。わかった……」
そうして、やっとの事でサイレントウルフ討伐と、突然の緊急討伐クエストを終え、ゴーレム達を移動させていく。マリオネットの女神デメテルは、かなり爆発に巻き込まれたせいでボロボロである。これ以上動かすことは出来なさそうなので、ゴーレムに運ばせた。
1時間ほどかけて外壁まで連れてきたゴーレム。あまり見たくは無いが、他に方法も無いので、怪力でサイレントウルフを引きちぎり、脳と魔石を取り出していく。その間にブリジット先生と、こっそり通用口から森へ抜け、素材を麻袋に回収していくのであった。
(おぬし、すまぬが妾を治せるかの?)
本当、無理させてすみません。治せるのはすぐ出来ると思います、ただちょっと試したいのでそのままじっとしててくださいね!
(おぬしが操作しなければ妾は動けぬじゃろ!カカッ)
ボロボロのマリオネットと、魔石と素材へ魔力を注ぎそれらを融合していく。すると、今までカクカク動く木製の人形だった物が、僅かに人間味を帯び、滑らかな関節を得たような姿へ変えた。
(ほう、随分と動き安くなった気がするのじゃ。見た目は変わったかの?)
人間味を帯びた動きのできる木製人形に変化したようです。試してみるものですね! そう伝えると女神デメテルは、なんとなく喜んでいるように見えた。
「さて、先生。色々と説明が必要ですよね?」
「あたりまえ……」
「そうですよね……とりあえず、素材もありますし、先生の研究室でお話しま……しょう……」
僕はやはりと言うべきか、熱を出してその場で気を失ってしまったようだ。
都市内に戻るとかなり混乱の様子で、実際の被害は無いようだが、見たことも無い規模の爆発が大森林上空で起きたと皆が口を揃えて騒いでいた。
と、僕を担いで学園に帰ってきてたブリジット先生が、後から教えてくれた。
素材も運びながらだったでしょうに。ほんと、すみません……。それと、ありがとうござました……。
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