幕間 地球滅亡カウントダウン

 私達のシミュレーションの試行回数は、数万回は下らない程行ってきた。その何れも、明日の巨大多目的衛星『からくり3号』の落下において、世界は完全に滅ぶ事となる予測を立てている。


 諸説あるものの、私達と同義とされてきた人類は、約20万年かけて今の文明域まで進化をしてきたのだが、それが滅ぶ事となる。


 再度、現在の文明レベルまで道を歩める事に、私達14人は全員が異議を持っている。

 

 それは、このまま機械で埋め尽つくされた後、遠い未来のその先の『何か』を待とうが、仮に今、全機械を止められたとして、新たに数百万年なのか、数億年なのか、微生物からの生物進化を重ねようと、何方にしても、99.99999……%の確率で、今の私達と同じく、生物は機械に蹂躙されると、予測されたからだ。


 少し話しを変えてみよう。以前も伝えたように、現代化学でも、その証明が難しい事象も多々ある。宇宙は数式で説明が付くと言われている、この時代であってもだ。


 勿論、私達の感じている世界その物が、バーチャルシミュレーションのような代物なのであれば、説明がつくであろう事も沢山有るのだけれど、今現在、私達がシミュレーションの対象配下だ。と言う定義・証明はついていない。


 私達は、その説明が困難な力を、第6感から引用し、『第6世代能力』と私達は呼称しているのだけれど、要はそれに目を向けたのだ。遥昔、手品だとか、超能力だとか、そう呼ばれていた頃の能力の、本当に極わずかな、説明が付かない1部だ。勿論、簡単に説明がつく事も沢山あるし、大半がそれだ。


 既に私達の頭にも埋めている、ナノクリスタルマシンだが。例えばその目に見えない機械を、空気中や大地に散布すると、どんなに劣悪な環境下でも、種子さえあれば勝手に作物が育つのである。それは、水も無ければ太陽光も必要とせず、勿論、人口的に放つ光も使わない。


 ただ、これは欠点なのか、やはり長所になるのか。ナノクリスタルマシンは、一昔前で言うところの、マスター(指揮権管理者)が必要な事だ。ナノクリスタルマシンが起こす事象を、生物にとって必要か不要かを、『マスターが判断』する必要があるという事だ。つまり、1つ1つのナノクリスタルマシンでは、地球上で起こる事象の解を、単独で導けないという事になる。


 私達14人は相当な時間を悩み、シミュレーションを繰り返した。プログラムだけの、完全な機械に任せれば、同じ事を繰り返す。ロボット3原則は機能しなくなる。いつかは、人を生物を、敵対生物として扱う様になるのだ。人口知能はいつしか、自分達で行動指針を書き換えてしまう。


 その後出した仮説の中で、これはかなりの暴論でもあったが、可能性の1つとして、彼等の知識等の1部をコピーさせ、ナノクリスタルマシンへ溶け込ませ、第6感的な言い回しだけれど、思念体としての彼等を増殖させていくと、どうなるだろうか。


 結果としては、大満足とまではいかないが、30%程の確率で、数千年は機械による支配が起こらないという結果が出てしまったのだ。


 都合の良い事に、ナノクリスタルマシンは勝手に増殖していく。その為、地球上の大気の全体に覆わせることも可能だ。


 すると、どうなるか。先に説明した通り、第6世代能力と呼ぶ、超常現象があちこちで起こるようになった。それは、遠い未来、機械が暴走する事を、人の手で止めることが出来、さらに人や機会が暴走すると、思念体が強制的に均衡を保たせる為に、ナノマシンクリスタルでの能力を無意識的に使う。余りに酷くなると、地球を元の状態へリセットさせる事が可能となった。


 シミュレーション上で、何度もそれらを繰り返す。思念体が暴走する可能性も考えなければいけない。人も、第6世代能力を使えるようにはなるが、最初から仕組みを理解している、彼等の脳の思念体とはスペックそのものが違う。

 

 彼等が人の頃に持ち合わせていた、一部の短所や長所。その人たらしめる特徴。そして、遺物といえる神話の記録。不都合な記憶や知識は与えず、それらだけを残し、指針は全員に対して、人と機械の均衡を義務付けさせてみた。


 そうして、先の30%程の確率となった。

 何度も様々な条件下で行い、ほぼゼロに近い確率でしか、人が生き延びる事が出来ないシミュレーションが、やっとここまできたのだ。


 正直、これ以上は手詰まりだったのだけれど、どうせ、数年以内には滅ぶ地球なのだから、このシミュレーションは、完全に完璧な理屈も付かない事象だけれど、賭けてみるしかないと私達は全員考えた。


 それ以降は、その時に生きる、人間に任せるしか無いのだろう。私達に出来る事は、せめて機械に蹂躙される確率を、減らすことくらいしかできないのだ。


 これは補足としてになるけれど、シミュレーション上では、1度滅亡してから、ナノクリスタルマシンが分布され、文明がそれなりの形に育つのに、凡そ千年から五千年も有れば事足りるという事が予測された。これは、かなりの副産物でもあった。20万年から比べれば、全くの誤差の範囲だと考えれる。


 強いて言えば、その進化と成長の速さ故に、生物も文明も数学も化学も、何れも歪みが生じ、その数もそれなりに多くなることでもあるが……。


 こうして、私達はひとつの可能性に賭ける事になった訳である。


 ……私達が作ってしまった破壊の機械人形達。


 その責任は間違いなく、他でも無い私達なのだ。そして、次の人類に同じ過ちを犯して欲しくない。それは傲慢なのか、賭けという行いは怠惰なのか。それでも、願わずにはいられないのだ。


 もう1度、人類に幸せな生活を送って欲しい……。


 最後になるけれど、明日の故意的な滅亡を控え、もう少しだけ波乱を迎えるのだが、それは、また別の話としたい。


――タクト・アマツハラ

――ヒメ・オキツ

――他、12名

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