神終わり

第3章 序 シャルロッテ姫

 え……?


 今、何してたのでしたっけ?


 え……? まって……? 何を、何かをして、ましたよね? 


 え、まって。私? ワタクシ……、私って。


 誰……?


 え、あ、あっ……


 う、うわぁぁぁ!!!!!!!


 あぁぁっぁアヴァっああ!!!!


 ァァウアアアアうぅわアアアゥツアアアアア!!!アアアアアアゥツアアアアアあぁぁっぁアヴァっああ!





――落ち着いて! ヒメ! 落ち着くんだ!


――…………だ、れ?


――今、鎮静剤を流し込んだ、先ず落ち着くんだっ!


 鎮静剤……って、あぁ。何で私、鎮静剤なんか投与されたんだろう? 今、叫んでた。そうだ、叫んでたのか。なら、なんで叫んでたんだっけ……?


――落ち着いたね、脳波も安定したよ。良かったー。明日を前に、急にびっくりしたよ! で、どうしたんだ?


――え、えぇ……。ごめんなさい。急に、私じゃない記憶が流れ込んできたって、イメージつく?


――記憶? 脳が見せる夢とか、昔のヒメの記憶とかじゃないのかい? それくらいなら俺にでも起こるけれど、それとは違うのかい? それとも、あいつらとリンクしたまま休んでたとか……、じゃなさそうか。


 言われてみると、確かにそうなんだけれど……。それとは違うのよね。なんだろう、この記憶。


――シャルロッテ……。そう、シャルロッテ・ウィンチェスター


――昔の欧州とかに居そうな名前だな、ちょっとごめんよ。俺も見てみるよ。リンクするよ?


 リンクねぇ、サイボーグになっても、この感覚だけは好きになれないわ。全て覗かれるとか、幾ら恋人だったとはいえ、無抵抗で見られちゃうんだもの。


――は、初めまして……。シャルロッテ・ウィンチェスターと申します、えっと――!


 えっ……? 思考が勝手に……。


――おっと? ヒメ……、じゃなさそうだね。びっくり……。えぇと、俺はタクト・アマツハラだ。こんにちは、シャルちゃんで良いかな? 今、俺もシャルちゃんの記憶を見ているところだ。ちなみに、シャルちゃんの中に、もう1人いた……。と言うのが、今の状態か……。ややこしいな。ヒメ・オキツと言う人の頭に、シャルちゃんが入り込んでる。って、何となくわかるかな?


――ご、ごめんなさい……。えっと、す、すみません! ここは、ここは何処か教えて頂けませんかっ!? わたくしは、死んでしまったのですかっ!? 貴方は神様なのですかっ!?


――落ち着こう。ね? ひとつずつ解決していこう。先ず落ち着こうね? 混乱するといけないから、俺が君の記憶を辿りながら、確認として質問していくね? シャルちゃんは、それに答えて言ってもらいたいけど、良いかな?


 頭の中に、念話魔導具の様に話しかけてくる……。


――そうかそうか。歳は7歳。アーノルド・ウィンチェスターさんの娘さんっと。ええ、サウザンピーク魔法学園生徒会長……。ん? 凄いっ! 映画や小説の話でしか見たことが無かった、魔法を使えるんだっ! うぉぉぉお! 凄っ! ドカンっドカンやりあってる! 粒子加速や超電磁砲とか、それとは全く違うんだ、へぇー! へぇー! あっ……、ごめんね。びっくりし過ぎて数十年ぶりに興奮しちゃったよ! ふむふむ、シャルちゃんの恋人は、ウィリアム君って言うのか……。


 わたくし、死んだのでしょうか……。それとも夢? 全く質問されてませんけれど、何だか気持ち悪い程に言い当てていくのですね……。ウィルは、恋人に、なれたら良いなとは思いはしますけど……。兎に角、生きているのでしょうか……。


 知らない単語も出てきますし、本当に何が起こったのでしょう。周りの光景も、なんだか薄気味悪いですわ。


 辺りを見回してみると、真っ黒な壁に、数え切れないほどの、紐状の何かが絡まり合いながら壁を覆い尽くしている。更に、硝子なのかわからないけれど、液体が詰まってて……。


 内臓? 何で内臓みたいなものが……。気持ち悪いですわっ……。


 他には、空中に漂う光ったメモ? 文字らしき物が書かれた本らしき物もある。身体は……。


 ……。ウィルの執事君に似てますわね。って、身体が執事君!? えっ!? 待ってくださいっ!


――シャルちゃん! 落ち着こう! あまり大量の鎮静剤は脳に良くないんだ、分かるけど落ち着こう。よし、俺に注目して。そう。良い子だ。それで、記憶を見てるわけだけれど、『ウィル君』は、『からくり士』って自分で言ってたんだよね? えぇと、この女神様って人に言わされてる? のかな?


――えぇと、いぇ。言わされてると言うより、デメテル様は、自分では話せないので、ウィルの頭の中に語りかけているようですわ。今の貴方の様に……。わたくしも、普段からウィルと、念話魔導具で話してるので、慣れてはおりますが。それと、ウィルは、自分でゴーレムを作り出す事が出来るのですわ。デメテル様がいうには、からくり士の魂? とやらが、何とか転生した? とか言ってた気がします。


――ふ、ふむ……。記憶通りか。ちょっと、ごめんね、シャルちゃん、放っておくと混乱してしまうかもしれないから、昔、流行ってたアニメを見てもらいたい。ちょっと調べてくるから、良い子にしてて欲しいんだ。すぐ戻るから、いいね?


 そう言い残し、タクトは意味不明な事を話しかけてくる。けれど、そのまま目の前からいなくなる気配もない……。


 な、なんですの、これ……。


 童話に書かれた本の様な、動く映像が、頭の中で流れている。言葉を失い、ただその映像に魅入られていく。


 それから、1時間以上は経過しただろうか。タクトが話しかけてくる。


――お待たせしたね、ごめんよ。友人達と、シャルちゃんの事や記憶の中身について、調べたり、話し合ってたんだ。で、結果なんだけど……。


 タクトは、説明を躊躇している様子。


――恐らく、今から伝えることは、先ず理解は出来ないと思う。だけど、この後の事を考えると、知っておいておかなければいけないはずなんだ。確実とは言えないけど、シャルちゃんがいたお家に帰ってから、混乱しないように、ゆっくり説明するね。


 わかりやすい言葉をなるべく使うけど、分からなかったら、教えてね。とタクトは説明を始めていく。


 先ず、目の前にいる、執事君に似た『タクト』彼が、ウィル。若しくは、タクトの記憶や知識を引継いだ存在が、ウィルだと思うと。これは、割と高い確率の可能性だと言う。理由としては、説明されても、殆ど分からなかったけれど、唯一分かったのが、ウィルが作るゴーレムが、タクトが昔遊んでた人形にそっくりだと言うこと。


 そして、からくり士。これはタクトが、『ミスターからくり』等と言われているからだとか。ミスターは、君とか殿とか、卿など呼称を表す言葉らしい。

 他にも色々理由を説明されたけれど、どれひとつとして理解出来なかったし、まずもって信じることは出来なかった。


 次に、わたくしが今この状況に置かれている理由。


 わたくしの記憶だけでは、確実な答えを出せないとタクトは言いながら、わたくしの指環が関係している。かもしれない。と曖昧な内容ではあった。


 あのお姉様に頂いたクリスタルの事なのでしょうが……。


 更にタクトは続ける。わたくし達の知る、教会が伝え、神話として出て来る、オリュンポス十二神。彼等神様達の名前が、タクトの友人12名の、コードネーム? なる名前なのだそう。


 これは、かなり自信があるそうで、ほぼ間違いなく、タクトの友人を指してると、自信満々の様子だった。


 他にも、膨大とも言える説明を受けたけれど、何一つとして理解が出来なかった……。


――ねぇ、シャルちゃん。頭の中に、ヒメ・オキツと言う人の記憶とか知識、そう言った物を探すことは出来ないかな? 若しくは、ヒメさん! って少しの間呼び掛けて貰うとか出来る?


 わたくしは、タクトに言われるがまま、ヒメさんの記憶を探したり、呼び掛け続ける……。


「…………」


――タクト、わかる? 私


――器用な事だ、おかえり。になるのかな?


――やり取りは聞こえてた? 若しくは見えてた?


――えぇ、同時には存在が出来ない。そんなイメージかしら。これ、もう確定でしょ? ナノクリスタルマシンが引き起こした、第6世代能力としか説明が付かないわよ。今は、この子も、これが見えてるのかしら……。少なくとも、この子の記憶を見る限り、死んでここにいるって事はないと思うのよ。普通に考えて、この子の年齢も考えて、ただ祈ってるだけで死ぬなんてほぼ無いでしょ。


――うーん。どうなんだろうね。まぁ、死ぬことは無さそうか。にしても、俺が転生ねぇ。びっくりだ。タイムリープもタイムトラベルも輪廻転生も、異世界転生も、架空の作り話だったわけだしね。どれも証明出来た科学者は、結局最後までいなかったわけだし。願わくば、異世界転生じゃないと良いね。


――そうね。私達の行う結果が、結局滅んじゃいました。飛んできた子は全く関係ない、他世界惑星なんて、悲しすぎるわよ。とは言え、魔法も超常現象も、何でも有りの世界に生まれ変わるのなら、異世界と言えなくもないのかもしれないけど……。


――まっ、やる事に変わりはないけどさ、あとはこの子をどうやって帰すか。帰してあげれるかなー。多分だけど、ウィル君、俺なんだよ? 記憶までは引き継げて無さそうな印象だけど。それにしたって、こんな小さな子に大切にされてさ、可哀想じゃん、2人とも。


――気持ちは分かるけど、仕方がないじゃない。このナノクリスタルマシンをくれたお姉さんに期待するしかないわよ。


――だよねー。毎日毎日、健気に祈ってたみたいだからさ。何とかしてあげれるなら、してあげたくもなるよ。あぁ、これが人間だったなぁって、昔を思い出さない?


――そう、ね……。ねぇ、ところでふと気になったんだけど、勿論、今更シミュレーションのやり直しが、出来ない事もわかってるけど、この子が来たことって、何か影響受けないのかしら。


――可能性はあるよね。それってパラレルって言いたいんだろ? 大いにあるだろうね。今の僕達じゃ、わからないからね。ナノクリスタルマシンの超常現象が、何処まで出来るのやら……。あとは、この子を帰せるとして、ヒメの記憶を持って行ってしまうのか? ってのもあるのか。


――うん。それはそうなんだろうけど、その辺は気にしないでおくわ。この子には悪いけれど。どうこうできることでもないし。兎に角、もう、今更よ。してあげられる事があるとすれば、精々この子にカードキーを刺させてあげることくらいじゃない? 冷たいようだけど、この世界は既に壊れてるんだし。いくら説明した所で、この子の居た世界の学問水準や、年齢で理解出来る訳無いもの。


――予測通りの結果だよね。順序踏まずに、一気に成長してるみたいだから。


――願わくば、デメテルがこの子達を守ってくれることを祈ろう。柄じゃないけど、それくらいかな。後で、少しこの子と話してみるよ。当たり障りの無いことしか話せないけど、あいつらも混ぜたら……。いや、それは危険だな辞めとくよ。ウィル君について話してあげたら、少しは落ち着くかもしれないしね。


 その会話を聞いていたけれど、やっぱり何もわからない内容で、わたくしは、恐らく夢なのだろう。と思う事しか出来ませんでした。


 時間の感覚が全く無い、この薄暗い部屋で、暫くした後、わたくしは、タクトに言われるがまま、カードキーなる物を操作し、その後、真っ暗闇な意識へ引きずり込まれる事になりました。

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