第3章1 ブリジットは何処へ
そういう事か! ははは
ヘカテーねぇ……。つまりは、あいつらの他にも、存在を生み出すまでになったって事か。『シャルちゃん』も無事に帰れたと思いたいんだけれど。
自分の前の記憶を思い出した辺りから推測すると、短絡的ではあるが、上手く帰れてると思いたい。
それに、シミュレーションでは試さなかったが、シャルちゃんの登場のおかげで、俺という存在があった。ということを、ギリギリのタイミングで彼奴らに植え付けたのが、この結果になるわけだろうか。てことは、ぐるぐる時間を繰り返した事になるのか? わからん……。
それよりも、先ずは俺の事だ。目覚めてからどれくらいたったっけ……。
最後に声を掛けてきたあの女。あの言い方、内容、性格からして、ヘラか? 仮にヘラだとしたら、暫くは大人しくしているのが良いかもしれないか。あいつの目的は先生だったのかもしれないけど。ああいうの、なんて言うんだったか、ヤンデレ? ツンデレ? どちらにしたって、恐らく、問答無用でやられたのだろう。あの辺の記憶も曖昧だし。あのやろぉ、見境なしでキレる所はちっとも変わってない。
ブリジット先生。
咄嗟の事だったとはいえ、時間稼げれてたら、先生がどうなったか予測もつくが。目が覚めた時に、いなかったのが不思議なのだ。痕跡その物が、持ち物しか無かった。だから、どうしても彼女が死んだと思えないし、納得など到底出来ない。
兎に角無事でいてくれよ! 出来る出来ないはさておき、なんとか助けたい、自分が大切な人を助けれないなら、記憶を思い出した意味も何も無いからな。それに、なんだかんだ先生が好きだ。
「おぬしっ! 急いで戻って来てみれば、何を呑気に日光浴などしておるのじやっ!!」
急に砂埃を撒き散らしながらやってきた少女。その、少女神デメテルが凄い剣幕で怒ってる……。
「おっ! デメテルか、懐かしいってのもおかしいか。少し前まで一緒に居たんだし。でも、ちゃんと再開するのは、恐らく千年ちょっとぶりとかなんじゃないか」
目覚めてから、何度か声をかけられた気がするけど、如何せん、意識朦朧だったから、デメテルを無視してた気もする……。すまん。
「な、な、な何を言っておるのじゃ! おぬしっ! 死んでいたのじゃぞ、頭でもおかしくなったのかっ! 事前に死と再生の儀式を使ってたから良かったもののっ、それが無かったら、とっくに死んでおるのじゃっ! それにじゃ! 何度声をかけてもろくすっぽ返事もせぬではないかっ! どれだけ心配したと思うておるっ!」
そう言えば、同調してた時に、そんな事言ってたっけかな? デメテルも相変わらず身内への感情が激しい。ヘラとは全く真逆になったんだろうな。しかし、どうやって宥めたら良いものやら。
「それに、魔人娘は何処に行った? まさかおぬしを棄てて、何処かに消えたのではあるまいなっ!?」
「んー、俺にも思い出せないんだよ。取り敢えず、ちゃんと説明するから、先ずは移動しよう。先生の荷物もあるし、持ってってあげなきゃいけない気がするんだ。それとお腹も空いた……。はは」
俺はデメテルに先ず、ヘラと思われる存在に、自分も先生も消されたみたいだと伝えた。目が覚めたら独り海辺で寝ていた事を伝え、目が覚めるまではブリジット先生と行動をしていたけれど、ヘラと思われる女が、先生に対して、ゼウスの配偶者候補と勘違いした素振り、いや、思い込んでいた素振りを見せていた事。ほんの一瞬ではあるが、恐らく先生が絶命させられたと思う動きを見せたが、同時に自分の意識も刈り取られていたと思われる。そう伝える。
「何故、ヘラだとわかったのじゃ、もしや、おぬしさ、さ、先程の千年って、そ、そういう事なのか?」
「だから、言っただろ? 久しぶりだな、デメテルって。とは言っても、デメテル達が覚えてるのは、俺の部分的な物でしか無いはずだけど、俺たちが友達だった事くらいは、何となくわかるんだろ?」
「あ、ぁぁ……。おぬし、ウィリアムでなくなったのか?」
まぁ、そう思うか……。
やはりというべきか、今までは平然としてたけど、改めて十二神が『からくり』と言う言葉に惹かれて近づいてくるのは、最後の判断のせいなのだろう。
「いいや、俺は今まで通り、ウィリアムだよ。間違いなく。今までの事も、これからの事も、全てウィリアム・ハワードだ。前の自分が、誰だったのかを理解しているだけだ、変な言い方をしてたら、済まなかったな。ところでさ……、ちょっと触らせてくれ」
「ふぇあっ!? な、なにをするのじゃ!」
デメテルの腕をニギニギしたつもりが、変な声を出されてしまった。
「いや、鉱山で取り込ませた鉱石の、変化無いかな? って」
「あ、そうじゃったか……。それにしても、いきなり揉むとはいったいどういう事じゃ……。はぁ。身体の骨の部分がかなり硬くなっておるようじゃ、これで、満足かの?」
「揉むなんて表現やめてくれないか。誰かが聞いたら、デメテルの胸でも、揉んでる様な発言じゃないか。俺はどちらかと言うと、柔らかいお尻派だったんだ」
「ほ、ほぅ……? なら、妾の尻にでも顔を埋めさせながら、幸福のまま、もう一度あの世に行きたいのかの? カカッ」
「えっ!? 良いの? いくら自分で作ったとはいえ、見た目は美少女っ! 好き放題食べ放題で揉ませてくれるなら、髪の1本、皮膚の角質まで全身くまなくっ!」
俺はそう言いながら、両手の指を、デメテルへ向かって撫で回す仕草を見せる。彼女は顬をビクつかせてる様にも見えるがきっと錯覚だろう。何せ彼女は人形なのだ。デメテルは、ぎゃぁあ! と言いながら拳を振り回してくる。
「えぇと、デメテルさん。拗ねてるところ悪いんだけど、硬度が上がったなら、ひとっ走りして欲しいんだ。頼めるかな?」
「ぐぬぬっ……。仕方あるまい、どこまでじゃ?」
確信は無いけれど、少女人形になら大体の物は組み合わせていけるのでは無いか? と今は思う。勿論、何の特技も特徴も無い獣や魔物を組み合わせても、今更進化しようも無いのだが。
自分と先生のその荷物まで少女に担がせ、砂浜を猛烈な速度で東に向かって行く。
まずは、先生のお金を借りる事にし、サンリーニ戦跡地の、そこに村があれば良いのだが、あれば宿に行きたいと考えていた。
通常なら1ヶ月はかかるだろうが、1週間程で戦跡地の村落に到着した……、流石。
エレシス村を、少し小降りにした村落が、跡地に出来ており、まだ建てたばかりの家々も多く、村の規模の割には活気があった。戦後の復興を頑張っているのだろう。
「色々ツッコミ所はあるが、理解はしたよ」
デメテルは、王都に到着したほぼ同時に秘技が発動した事を感じ、ほんの少し途切れたものの、魔力が流れてるうちに、超大急ぎで戻ってきたのじゃ! と言っている。つまり、辺境伯様にはあえていないってことか。まぁ、ちょうど良いか。
「で、皆心配ではあるし、会いたいとこでもあるけど、戻る選択はしないでおこうかなと思う。情報を得られないのは困るし、心配かける事にはなるけど、ヘラが死んだと、思い込んでくれてると色々動きやすそうだし。他のあいつらも、特にゼウスも同様だと思うわけだ。如何せん、ゼウスの件から酷い有様だしね……。あの時の教会が何を考えてたかまでは、俺にはわからないけど。案外、大司教としてのゼウスが、教会を言いくるめてただけなのかもしれないな。まぁ、完全に皆を巻き込んでしまっていると思う、今は無事な事を祈ろう」
どれを優先させるか迷うけれど……、デメテルの感情から治してあげるのが良さそうな気がする。折角、思い出したのに、このまま崩壊にでもなったら、たまったものじゃない。
「先ずは、デメテルの娘、ペルセポネを探そう、俺は特徴わからないけど、わかるんだろ? それに、仮に十二神が関わっているなら、心当たりがある……。ふふん」
鼻を鳴らしながら自慢げに俺は語る。十二神じゃない可能性も勿論あるけど、行く先々で、これだけ神の名前が出てくるんだ、間違いないと思う。全神に祈った俺の言えることでも無いが……。
「同時に、合わないにしても、ブリジット先生とシャル、家族の安否の確認はしたいよなぁ。あとは、そうだなぁ。確かこの辺りは帝国の力関係が強いのか……。今はまだ、気にかけなきゃ程度。だとは思うけど」
承知したと呟くデメテル。彼女によれば、王都周辺の街では武装した男が多かったと伝えてきた。
まさか、今、この国が帝国とやり合うわけもないと思うけど、山賊対応か?
「まぁ、争いなんかに介入するかは、状況を見てだ。家族やシャル達や先生が無事でいるなら、現状は後回し。神々にでも任せるさ。何方にしても、今は難しい。他にもあるけど、こんな所か。あとは、おいおい、時と場合ってやつだろうね」
デメテルは、椅子に腰掛け、ほぅほぅと理解した様子を見せる。ペルセポネを優先する事に、安堵しているのかもしれない。
「だがすまんっ! 俺達だけで、ペルセポネを取り戻す際、強引にいくにも、取引するにも、今取り返せる見込みは薄いと思う。何をするにしても、金と力は必要な物だ。遠回りになるけど、そこは理解して欲しい。次、死んだら元もこうも無いし、魔法も奪われてる……」
ん……?
確か、第6世代能力の、というよりナノクリスタルマシンの考え方からすると、詠唱なんて必要無さそうじゃないだろうか。
じゃなければ、人形関連の力も、デメテルやゼウスの力が説明つかない。恐らく、本人達は無意識で行使しているとも思う。俺もヒメもそこまで阿呆じゃない。
あとは、空気中にある、ナノクリスタルマシンに、意思を流すだけなのだから。イメージさえつけば、もしかしたら……。
――バチッ
……おぉ、やっぱり。
「おぬしっ! 詠唱を取り戻せたのかっ!?」
急に俺が指先に火花を散らしたものだから、おぉーと言いながらデメテルは、目をぱちくりとして、驚いていた。
デメテルもできる思うけど、威力凄そうだし、今は止めておこ。
「んー。いや、デメテル達の『機嫌』に似たようなものだよ。デメテルは、ソレを使えることはわかってても、理屈は分からないだろ? 大地が勝手に枯れていく様な話だよ」
「うむ……。流石『社長』と言ったところじゃな。殆ど覚えではおらぬが、その社長の事実があったというのはわかる」
懐かしい呼び名だなぁ。人の体を持ってた頃、初めて会社にした時は、部下にセクハラして、よく訴えられてた……。いや、そんなことは無かった。と思う!
「はははっ! 無理しないで良いよ。もう俺はウィリアムなんだ。だけど、デメテルは良いけど、他はわからない。皆。俺の存在はわかると思うけど、行動指針がそれぞれ違うし、最初の俺達全員の予測から、少し違う動きをしている気もする」
そう。あいつらには俺の存在は与えたけれど、余計な事の知識は与えていない。ただあるがために……、と言った感じかな。せめて、ヒメが居ればなぁ。もう少し話も楽に進みそうなんだけど。仕方ない。そう上手くは行かない。
「てことで、積もる話もあるけど、金を貯めに先ずはシーガリア公国に行こうと思う。この国でもできるけれど、金属が兎に角、高いみたいだから。それに、ペルセポネもいるかもしれない」
この日は宿屋に止まるけど、船が出るのか等確認していく必要があるが。ひとまずは、疲れを嫌そう。
翌朝、宿屋の受付主人から、俺宛だという手紙を渡された。俺はまたかと呟き、知らない封蝋の手紙を恐る恐る覗いていく。ヘカテーかヘルメスあたりか。
『少し予定は狂ったけれど2人は無事』
ふむふむ。これはヘカテーかな? どういう行動理念なんだろうか。十二神以外はわからないんだよ。それにしても、監視されてるような気分になるなあ。
2人となると、先生と『シャルちゃん』だと思いたい。『ひとまずは任せるよ。ヘカテー』
そんなことを、何処かでニヤニヤと、黒髪をくるくるしながらこちらを見てる様な気もするヘカテーへと、俺は呟くのだった。
「デメテル、ヘカテーってどんな人物? というか性格なの?」
「うーん。天地海冥時の門番と言われておるのじゃ、ヘルメスも言うておったが、アレだけは、あちこち好きに移動出来る。じゃから、神というよりかは、本質は魔女なんじゃろうな。ただ、本人曰く、絶対悪事は許さないわよ! 『ドヤっ』とか、よく言うておったのぉ。魔女の分際で……」
効果音付きは置いておいて……。おいおい、デメテルさんよぉ、助けてくれようとしてる魔女になんて言う良いざまだっ!
「なにそのチート仕様っ。ふーん、でもそうか。となると、誰かが悪事をしているから、デメテルを助けてくれるのかな? やっぱりペルセポネ関連なのかな」
「なんともいえぬのじゃが……。妾は好きにはなれぬが、ゼウスからの信用は大きいようじゃった、かの?」
「それなら、ヘラを止めて欲しかったっ! くそぅ」
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