第3章3 理想の力

 自分だけの力って、ワクワクするしかっこいいよね。あいつらがどうであれ、ゼウスは凄まじい雷を連発してたし、ヘカテーは超巨大門で移動したり犯罪者を吸い込んだり。いやいや、本当に、何でもありって素晴らしい。


 本格的なオートマタが作れれば、俺は文句無いんだけれど、今のところ目立ったのって、祈ると神が顕現される。これ、多分タクト・アマツハラにあった記憶から、代表者をイメージしているのだと思う。取締役のあいつらを呼びつける様な。


 実際にあいつら顕現されちゃう訳だし……。


 同じく、ゴーレム作成は新入社員の新人研修とか面接あたりかな?


 言わずもがな操作は、過酷な労働が当たり前だった頃の話からイメージしたのかもしれない。


 空飛んだり、透明になれたり、やりたい事いっぱいあるんだけど、どうしたものか。


「デメテルは、ゼウスみたいな力ってあるの? 作物以外の話で、ドカーンとか出来そうなの」


「考えた事も試したこともないからのぉ。おぬしが使ってた、魔法も妾から出てくること自体は驚きはしたが、こうゆうものなんじゃろ? と、深く考えておらんかったしの。カカッ」


 デメテルの特徴を考えると、やっぱりそうなってしまうんだろう。ヘルメスあたりなら調べてそうな気もするが。


 俺は先程の様に、ヘカテーやヘルメス、デメテルと話してて、彼等が持つ力は非常に羨ましかった。特に2人は移動に特価してる力を使えるのだから、嫉妬するのも無理はない。何度イメージしても、上手くいかないのだ。ちょっとした火を出したりは出来るんだけれど。練習すれば行けるのかな。大空を飛びたいっ!


 あの大嵐は、ヘカテーの活躍のあとは、すっかり大人しくなり、船の損傷も目立つほどの物は無く、日々穏やかな航海となっていた。


 勿論ポセイドンが消えてしまってからは、デメテルはご機嫌なのだ。あいつ、何処に飛ばされたんだか。


 もうあと数日で、シーガリア公国に到着する。初めての土地はやっぱり期待するんだよ。


――それはさておき数日前。


「ウィリアムさん。あの2方について――」


 この問題だ。


 先ず確認したのが、2人共に無事かどうか。ヘカテーが転移を見送った際は、特に問題無さそうだっから大丈夫だろうとの事だった。


 本当かぁ? その世界の現状を知らないけれど、普通焦るよなぁ。とも思う。とは言ってもヘカテーしか今のところ頼れる目処も無いから、機嫌は損なえないし。かと言って、借りばかり増やすのも考えものだ。


「だけど、ヘラの時はギリギリだったわよぉ、特に魔人のお嬢さん。首が飛ぶ本当ギリギリのタイミングで転移出来たのだから。でも、そうね。抜け殻は飛んでいったのだけれど。ふふっ。まぁ。本人からしたら、あれは、偶然の幸運な出来事を、自分の力で掴んだのよ」


 ヘカテーが言っていた、予定と狂ったと言う内容というのが其れだったらしい。先ずデメテルが死と再生の儀式を使っていたが為、俺の転移が失敗してしまってそこに取り残された。


 逆に、ブリジット先生の概念が転移してしまったのは、どういう訳か。ヘカテーは、クリスタルの1部を身に付けていたせいだと思うと、少し曖昧に答える。既で扉を起動させたら、先生だけ概念を持っていかれたとヘカテーは説明してくれた。


 ヘカテー自身も、時間を超えて予測する事は出来ても、大きな出来事が神の力等で起こると、見えた予測も少しずつ変わるそうだ。分からない部分もあるが、それは仕方ない事だと納得するしかない。


 俺が目覚めてから、先生の持ち物しか見当たらなかった。という事実については。世界から存在した事を消されたと説明するヘカテー。有り体に言えば死んだ事になるのだろうか。兎も角、偶然にもヘラは犯罪未遂となったのだろう。


 1番の悩みが、呼び戻すか俺が行くか。呼ぶというのがどちらかと言うと厄介で、転移によって、既に死んだと世界から定義付けられている存在の為、戻ったとすると、どんな影響を世界に起こすか分からないのだとか。


 勿論、行く場合も有り得るのだけど、今のところ多少の変化で済みそうじゃないか? と。って事は、あっちの俺は生きていることになるって事か?


 そもそも、あっちとかそっちとか、ややこしい。あっちの俺はタクトの知識を持っているのだろうか。謎すぎる。


 あと気になったのは、時間のズレか。それ以外でも、影響は少なからず出るとは思うけれど。創作物にもある、空間転移(瞬間移動の理屈)とは、違うようになっているのだと思う。


 便利とは思っても、数学やら化学としての理屈で考えてしまう。余程ウィリアムだけの記憶の頃の方が、何も考えずに使ってたのでは無いだろうか。


「あとは、母様と父様、マリーなんだよなぁ……」


「あら、それがどうしたのよ?」


 この人達からしてみれば、問題にもならないとは思うけど、こっちの家族は現実、今の家族な訳で、向こうは向こうで家族として成り立っている訳だ。


 要は、それぞれが本物であり、偽物とも言えると俺は解釈している。


「あらあら、あの子達が行った瞬間に出来上がった世界なのだけど、そんなに気にしてると、何方も手に入らなくなるわよ?」


 まぁ、そうなんだけどさ。人ってそんなに単純な感情じゃないんだよ。逆にヘレやポセイドンみたいのが良い例だ。実直に動いている。その当時、持ち合わせていた特徴を反映しているだけなんだし……。


 もちろん、予測を超えて進化みたいな現象も、あいつらに起きているから、なんとも言えない。


「ちなみに、俺が移動したら。こっちはどうなるんだ? 俺が死んだことになるのか?」


「貴方次第……、でしょうか? 私達は、そもそも死の概念などありませんから。世界ごと無かったことになるのかも。今言えるのは、この辺りですわね」


 パラレルについて、もう少し学んでおくんだった。とは言っても、重複して別々に存在している事を、『理解し認識し知っている』今がかなり特殊だとも、ヘカテーは言うのだが。


 あとは転移するにあたっての条件か。


「私、あのクリスタル、もう持ってないのよ。今、手に入る場所があるとすれば、飛来石が落ちた現場にでも落ちてるんじゃないかしら? 魔力が濃くなるから、魔物とか多いけれど。デメテルさんがいるなら、どうにでもなるでしょ?」


 ヘカテーは艶のある黒髪を、指でくるくるしている。きっと、癖なんだろう。


 しかし、クリスタルは、特殊な進化でもしたのだろうか? シミュレーションでは起こらなかった進化だろうけど。やっぱり、現実はシミュレーション通りにはいかないのだ。


 からくり3号の落ちた場所は、この辺りだと……。知る限りでは、メル大森林が濃厚なんだろう。植生も凄いし、魔物も多い。それだけクリスタルも増殖しているから、原初もあるかな? 予測しかできないが。


「ヘルメスー。詠唱は返して貰えないよな?」


 大森林に行くなら、魔法詠唱が欲しいと考え、俺はダメ元でヘルメスに聞いてみた。


「そうだねぇ。最高神に直接言って欲しいかな」


 だよね。イメージの練習を、デメテルと頑張るしかないか。


「ひとまず了解したよ。ありがとう、多分この後は、ヘパイストスを探して、この世界流のオートマタに力を入れてみると思う。その後、ペルセポネかな」


「あらあら、ヘルメスも貴方も、もう居場所をわかってるのかしら?」


「ヘルメスは分かってるんじゃないかな? 俺は心当たりがある。と言った感じだよ」


 ヘルメスをちらっと見ると、ふふんと肩を竦めてる。憎たらしいヤツめ。


「あらまぁ。でも行く時は教えて頂戴ね、力になるわ」


「なんか、助けて貰ってばかりで悪いね。ちなみにどうやって連絡取れば良いんだ?」


「その時は、勝手に現れるから気にしなくて良いわよ。ガールフレンドちゃんズのことは、今は気にせず、自分達の事を進めていくと良いわ。嘘は言わない」


 ここまで来て俺は慌てふためく事になる。俺はそう、重大な記憶を思い出した……。


「ヘカテーさん、と、ところで、この指揮棒に嵌めてあるクリスタルって、やっぱりもう使えないよね?」


 ゴソゴソと、鞄からシャルから貰った指揮棒を、恐る恐るヘカテーに見せる。船だとゴーレムも使わないので、すっかり忘れてたのだ。



「あらまぁ。これは。失敗したからなのでしょうか。まだ、使えますよ? 魔人の子も貴方も、ほんと幸運な方。どちらにしても、ペルセポネさんを救ってからになるのでしょ? その時は改めて私から参ります」


 あらあらまあまあ。特に怒りもしないヘカテー。ふぅっと、安堵の溜息を着く。黒門扉に吸い込まれるのは、勘弁願いたいのだ。兎も角、俺はヘカテーの力を信じて、トンデモ理屈で、どうにかしてくれる事を期待しておきましょう。


 そんな事を、あれやこれやと質問を繰り返しながら、予定より長い、約一ヶ月半は掛かった初めての船旅での海外。俺たちはシーガリア公国に到着する。


 案の定、ヘルメスとヘカテーは扉で消えていくのだけれど、最初から、彼等の予定というのか目的は、姉弟のような俺達にしか興味が無かったんだろうと思う。


「さてと、急ぎたいのは山々だけど、先生の荷物から勝手に借りてるお金は、既に死に体だっ! 何が言いたいかわかるかねっ? はいっ! デメテル君!」


 先生のお金袋もほとんどすっからかん。船って高いのですよ。いつか再開した時の借金が、幾らになるのやら検討もつかない。


「なんじゃおぬし。妾に客引きでもさせるつもりかっ?」

「…………」


 よく分からない事を言い放つデメテルを一先ず無視し、俺達は桟橋を歩きながら辺りを見回していく。


――シーガリア公国――


 学園の頃の教科書を思い出す。王国より面積の狭い国土で、火山が多い島国。今いる港は、カメクラと言う港町らしい。遠洋航海も行える港町で、そこそこ規模も大きそうだ。住居や建物は木造と思われる平屋が多い。


 何よりも、すれ違う人々の髪型も着ている服もかなり独特だった。リンブルドンにも若干、この姿の人達はいたけれど、何かのお祭りか? と流し目で見ていた程度だったのだ。


「まぁあれだ、とりあえず客引きは最終手段として、デメテルには、姉として、身動きを取ってもらわないと、俺が困るんだよ。この身体じゃ、誰一人相手にしてくれないのは、リンブルドンでも戦跡地でも同じだったろ? つまりはだ……。どうしよ」


 本当に幼いと言うだけで、いちいちデメテルを通す必要があるのだから、本当に大変なのだ。


「カッカッカッ! 何も考えておらぬでは無いか? ヘルメスにでも聞いておけば良かったのぉ。あやつは商才に秀でてるのじゃ」


 ぐぬぬっ。確かに失敗した。デメテルは自分で考えようとはせず、ヘルメスに任せとけと言い出す始末。


「んー、焦っても仕方ないしお腹も空いた。先に食事をとっても良いかな?」


 流石、中立国。言葉は片言ではあるものの、一応は通じるようだ。俺達は街の第一通行人に話しかけてみる。


「オー、ソレなら茶屋に行くとイイネ」


 デメテルに頼んで、通行人に聞いてもらったところ、茶屋なる平屋の店に案内してくれた。


 んー。文字読めないっ!


 さらに、驚く。どうやらこの国にも、人族じゃない人種も居るみたいだ。目の前には、犬かな? 犬族らしき店員が居る。尻尾もついており、耳は頭からうえにヒョコンと伸びている。人攫いの荒屋で見た記憶もあるけど、あまり覚えてない。尻尾は横にフリフリしている。サワサワしたい……。


「す、すみません。お腹が空いたので、何かお勧めを貰えますか? 僕の分だけで大丈夫ですっ!」


「ンー……、お勧めネ! 理解シタヨ! 『一人前お勧め一丁!』」


 触りたい衝動を抑えつつ、デメテルは食事ができないので、自分1人だけと注文する。その後出されたのは、『米と焼き魚』と、よく分からないスープ。


 前に粥で食べて以来の米だ。王国ではあまり馴染みが無い穀物なのだけれども。どちらにしても、文字も読めないし、何の魚かも詳しくない。毒でもあるまい。いただきますっっ!


「紙ノ金使えないネっ、両替必要ヨ?」


 な、なんですとっおぉ?


 仕方ないので、犬ぽい店員に案内された両替所。犬族は俺達が、両替が必要だと説明してくれている様子。俺は少ない有り金を渡し、貰ったのは金属の通貨。恐らく銅銭か。犬の店員に差し引きを受け取ってもらい、ここでお別れする。


 しかし、これは、前途多難の予感だ。でも、金属通貨があるということは、王国よりも安く金属を手に入れやすい可能性は高い。


「で、次はどうするのじゃ? やはり妾の出番かの?」


 デメテルの中では客引きと言う言葉が流行の様子。そんなに、貴女は客引きしたいのかな?


「うーん。一旦、王国人ぽい人を探してみよう。来ている服と髪型でわかりそうだ」


 暫く街中をぐるぐる周り、王国人を探してみる。途中、鍛冶屋があったり、魔素材屋と思われる店があったり、何とかなりそうかな? とも考えてるうちに、王国人風の若い男性を見つけ、聞いてみることに。


「すみません。僕達、旅でシーガリアに来たんですけど、お金を無くしてしまいまして、物を買い取ってくれる様なお店は知りませんか?」


 最悪、ブリジット先生作の魔導具でも売って、暫く凌ごうと考えていた。若い男性は、疑問も持たない様子で(少年少女の時点で普通は怪しいけど)、商業組合なる、二階建ての建物に案内してくれた。


「すまない、この子達、ダーレンから来ているそうなんだが、お金が無くて困っているらしい。何か買い取って上げてくれないか?」


 その、猜疑心を持たない若い男声は、受付のお姉さんに、説明会してくれた。受付嬢も理解してくれたらしく、複数人が座れるテーブルへと案内してくれた。


 男性は、また機会があれば、と手を振り商業組合を後にしていく。勿論、深々と頭を下げ、お礼をしたのだ。


 受付嬢は、シーガリア人と思われるが、会話は此方に合わせて流暢に話してくれる。


「改めてこんにちは。お姉ちゃんカナ?」


――後で助けるから、合わせて話してっ!


 咄嗟にデメテルにお願いした。


「カカッ! そうじゃ。妾はこやつの姉じゃ。何か問題あるかの? カカッ」


――何故、喧嘩腰なのっ!


 念話でデメテルに注意をするが……。


――何か問題あったかの?


 ダメそうだ。


「あっ、すみません。僕が聞いても良いですか?」


 デメテルじゃ話にならなさそうだと、俺は溜息を漏らす。隣のデメテルは、場を取られ口を尖らせ不貞腐れている……。


 受付嬢は、少し顔が引き攣りながらも、姉弟として扱ってくれ、俺に話をし始める。


 どうやらこの施設は、各お店へ大口の依頼をしたり、逆に素材を流したり、一般客へも、買取売買もしてくれるような、所謂何でも屋の様な所なのだろう。と何となく納得した。


 つまり、持ち込めば魔素材だろうが、鉱石だろうが、買い取ってくれる。木材は流石に大きすぎるから、土木屋を紹介してくれるそうだが、そんな所なのだろう。


 一先ずは、宿代を稼がないといけないので、近隣の魔物が出る森や洞窟などが記載された、危険地域地図を受付嬢から無理矢理奪い、夕方迄には戻ると伝え後にする。


 勿論、受付嬢は、危なすぎますっっ! と焦っているが、逃げるように商業組合を後にした。


「もう少し、人間関係というか、謙る話し方とか覚えた方が良さそうだね……」


「そんなに酷かったかの……?」


「少しずつ慣れようね、教えるから」


 何だか落ち込んでる様子のデメテル。それはさておき、先ずは魔素材だ。危険地図に凡その魔物の生息域も記載されている。


 猪形の魔物、狼や鹿? 鳥や虫形など様々だ。良く考えると、ブリジット先生と、ちょくちょく素材集めをしていたので、要領は覚えている。


 

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る