第3章 閑話 覚醒のシャル2
さっきも言われた事。落ち着けって。冷静にならなきゃいけない。それに、改めて考えると、わたくしのでは無いけれど、知識が溢れてくる。今はこれに縋るしかない。
「すみません。先生。本当に取り乱してしまいました」
「いや、良い。仕方ない事はわかる」
きっと先生も大変な体験をしてきたであろう。それでも理解を示そうとしてくれる。感情が優先されてしまったわたくしは悲しい気持ちになってしまう。
わたくしは、ゆっくりと大きく息を吸い込み、何が起こって何を見たのかを話始める。
「では、わたくしの知っている話を。ウィルが旅立ってからは、わたくしには、先生達の動向を知る術はありませんでした。父様母様が居ないので当然ですが。わたくしは、ただ、ウィルが無事に帰って来るようにと、祈る事を続ける毎日でした。恐らく、先生が仰ってた、海沿いにいた日なのか、はっきりとはわかりかねますが、その日も祈りを捧げておりました。記憶としては、そこから今日に飛ぶのですが、目が覚めたわたくしは自分の姿に驚愕し、それまで、何をしていたのかを考えました」
先生は、じっくり真面目な表情でわたくしの一言一句を聞き漏らさないよう、頷きながら聞いてくれる。
「ふぅ。それで、祈りを捧げていた事を、思い出した瞬間です。頭の中に、他人の記憶や知識が流れ込んできました。半日程気を失っていたようです。起きてから思い出したのですが、祈りを捧げた最後の日、突如として、全く見たことも無い様な、夢の様な世界の人物になっておりました」
わたくしとは違い、最後まで話を進めさせてくれる。ブリジット先生。
「部屋は薄暗く、自分の身体は、ウィルの執事君が、もう少し人間味を帯びた身体になってました。目の前に、タクト・アマツハラという、同じく執事君風の人物がおり、念話魔導具のように、頭の中に話しかけてきました。わたくしは、ヒメ・オキツという人物の中に入り込んでいる状態だと。タクトはわたくしの記憶を見させてもらうと告げ、今までわたくしが経験や見てきた物等を、一緒に体験したように言い当てました。彼はウィルに興味を持ち、彼の仲間と調べてみるとわたくしを残し、暫くすると、ほぼ間違いなく、ウィルは私だとタクトは言いました。理由は一旦省略しますね。次に、私達が知るオリュンポス十二神は、彼等の仲間がその神に当たると言い放ちます」
「その後、わたくしが借りていたヒメなる人物に、身体や思考を返すことになるのですが、返したあとも、ヒメとタクトの会話は聞こえておりました。そのときは、理解出来る様な会話の内容が全く無くて、呆然としているだけだったと思います」
「再びタクトと話す機会があったのですが、わたくしの意識が、最終的に無くなる前に、彼は言いました。タクトやヒメ以外の12人は、世界の均衡を取るように設定されてるはずだと。もし、わたくしが無事に元の世界に戻り、ウィルと平穏な日々を凄す事を望むなら、人・機会・神の、力関係が偏らない様に力を使うか、その三竦みの上の存在になるか、ただ、眺めるだけでも構わないと」
「ただ、わたくしの記憶を見る限り、ウィルとデメテル様が均衡を崩す要因になり得る筈だから、上手く立ち回らないと、すぐ厄介事に巻き込まれる事になると思うと」
「少し省略してる事もありますが、こんな感じです。どうですか?」
一気につい先程迄に起こった出来事を、成る可く丁寧にしたつもり。わたくしは、質問をお願いしますと促した。
「…………童話にでも出てきそうな内容。それが感想。ごめん、メモ取るから、余すことなく教えて」
わたくしは、ウィルとタクトの話から、十二神に至り、ヒメの知識を何度も繰り返し説明していく。
先生は、途中、何度も何度も、もう一回詳しくとか、別の言い回しが出来ないか等、無理難題を突きつけてくる。
やっぱりブリジット先生ですわね……。
この話をお互いにし始めてから、既に2日は経っており、お父様へは、先生が無理矢理納得させたような事を言っておりました。
お父様やお母様と先生って、どんな友人関係だったのでしょうか……。
「まだまだ、理解出来ないことの方が多い。けど、大きな意味では理解した。最初に疑問を持つのが、ヘカテーの存在だ。何故、生徒会長に異色なクリスタルを渡したのか。それとこれは謝罪。研究用に、そのクリスタルの一部を貰った。ごめん」
「あ、いえ……。今はそれどころじゃないので……。そうですね、たまたまでは無いと思うのですが、わたくしが、校庭で休んでた時にふっと現れて、いつか役に立つから、ウィリアムと使えと」
「なるほど。という事は、断定はまだ出来ないけど、ヘカテーはこうなる事を予測してたのか。生徒会長の話からすると、ナノクリスタル? は、ウィリアムの様な、特殊能力にも影響を与える事になる。更に言うなら、ボクが見てきた、神の尋常ではない力も、それだけで説明が着くことになるのか……。ボクの命が続いてるのは、欲に負けたから、という事なのか。逆に言えば生徒会長に助けて貰ったという事でもあるのだな」
ブリジット先生は、深い溜息をつく。
「それで、まだまだ考える必要はあるけど、先に2つ。あまり推測も好きじゃないけど、ウィリアムは何処かにいる可能性もあるのかもしれない。それと……、ボクと生徒会長は、元の場所に帰れる可能性も否定出来ない」
わたくしと同じことを考えていたようで、知識を得たわたくしよりもよっぽど冷静で、本当知的だと感じる。
「そうですわね、わたくしもそう思います。と言っても、探す事をする場合、今の世界と表現しますけど、この世界のウィルが、わたくしの家族や、ウィルの家族の中で、どのような扱いになっているのか。此処に来た時は、焦って確認しなかったのですが、別邸にいるかも知れません。これは、すみません。忘れてました。頭がおかしくなったと思われたくなくて、誰にも話せなかったので……」
「ふふ……。いや、良い、生徒会長らしい」
「なんでですかあ!」
「ウィリアムの事になると、周りが見えなくなるのは、昔から」
「…………」
「少し休もう。まだまだかかりそう」
軽く食堂で食事を済ませ、これはまだ数日はかかるかなと思い、着替えや寝具等も必要ですよね? と、先生に尋ねると、アーノルドとエルリーネに今捕まると厄介だと言い、どんな心境か、暫くわたくしを預かると伝えに屋敷に向かい、更には、諸々を持って帰ってきてくれました。
今のところ、先生とお父様お母様の関係性は、前と変わらないのでしょうか。
それにしても、こんなに優しい先生だったんですね。あれ、何処かで聞いた話では、犯罪等で監禁されると、その犯罪者に好意を寄せるとかなんとか……。
いや、まさかですよね。
「多分、生徒会長の家には、そもそもハワード家は居なさそうだ。あまり深く聞くと怪しまれるから聞いてない」
「そうでしたか。そうなると、エレシス村から探すのが良さそうですわね。ウィルの故郷なので」
「そう。行ったことは?」
「1度です、豊穣祭の日に……」
あの日から、ウィルの周りが、わたくし達も含めて変わっていったのだと思う。懐かしいと言えば懐かしい。ウィルは確か、数日寝込んでしまった事も思い出す。
「なるほど、それが始まりだったか。生徒会長、話し方変わった。ウィリアムもそうだけど、他人の知識等が混ざると、そうなるのか」
「言われて気が付きました、確かにそうですね。知らない間に、5年も成長しているのですし、丁度良かったのかもしれません」
でも、彼女の記憶と言うのは持っていない。あくまで知識しか無いのです……。
「そう……。5年。元の世界と言うのが正しいなら、それなりに長い年月。あの海沿いに、あの幼いウィリアムを、たった1人で残して来てしまった事になる」
今まで、そこまで深く、先生と交流を持った訳では無いから、わからないけれど。先生、とても悲しそうです。ウィルと一緒に旅をしたからなのでしょうか。
いけないことを考えてしまいそうになる……。
「先生、ヒメの知識もあるんですから、頑張りましょ! わたくしも、5年の隙間の長さは、先生と話してなかったら、頭がおかしくなってましたよ?」
「そう。なら続けよう。ちなみに、参考として聞きたい。ウィリアムがいる場合、元の世界に戻る方法探す?」
「うーん……。わからない。が、今の答えじゃダメですかね? 戻った時に自分がどうなるか、わかりませんし、それと、ヒメの知識から言うなら、ここが元々の世界って事も出来ちゃうはずなんです」
少し暴論かとも思いますが、やはり体験してきた事を思い出すと、何でも可能性がある気が致します。
「ん? というと?」
「どんな不可思議現象を起こせるのかは、わたくしにもわかりませんが、恐らく、わたくしも実際に千年以上昔の世界に行ってきた。というトンデモ現象を体験したんです。国の名前や、君主を変えることくらい、出来そうじゃないです?」
「そう? でも、そうなると、ボクの生死がわからなくなる」
少し複雑な表情を見せる先生。恐らくはここに来る前の出来事を、思い出しての事なのだと思います。
「前向き過ぎかもしれませんが、それも含めてじゃないですか?」
「なるほど、さっきまでビエンビエン泣いてた娘とは思えない」
「それは言わないでくださいよぉ!」
よーし! とりあえず整理してみなければいけませんっ! ですわっ! 先ず……。
わたくし達の主目的
・今の状況が何を意味しているのか。
それを知ってどうするのか。
・わたくし達は生きているのか死んでいるのか
死んでいるなら、何を目的にするのか。
・今いる世界は前とは別の世界なのか。
別なら帰るのか残るのか。
帰る方法はどう探すのか。
残るならどう周りと向き合うのか。
・ウィルが今どうなっているのか。
どう調べるのか。
協力者はいるのか、それが誰なのか。
・均衡について
デメテル様が関わりそうなので一旦白紙
「こうやって見ると、デメテル様かヘカテーでしたっけ? その方を探すのが早そうな気がしますわね。ウィルについては、間違いなくデメテル様が把握してそうですし、均衡については、わたくし達の領分じゃなさそうですから」
どちらかと言うと、今回の一件が、ヘカテーさんの思惑なのでは? と、少し勘ぐるのですが、それでも1番何かを知っている気が致します。
「忘れてた。デメテルの主目的は、ペルセポネを探すこと。あの女神の娘と言ってた。もし、ペルセポネの足取りがあれば、そっちを探すのも手。あとは、5年間の、自分達の行動や交流も、ある程度は把握しておきたい。生徒会長婚約者とかいそう」
「えええっっ!? それは困りますわっ! 問題が解決するまでは流石に……」
「でも、女王に殿下がいるのなら、可能性も否定出来ない」
「うっ……。そこも調べなきゃですわね。あ、そうだ、5年前、帝国に侵攻してるかもしれません。この国。日記に書いてありましたわ」
「なんだそれ。帝国に勝てる算段でもあったのか。この学園の名前からしても、魔導具製作に強い国にでもなったのか。それはそれで嬉しい」
「やる事目白押しですねえ……」
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