第3章4 多才な女神
カメクラ(港町)に来てから、早くも半年近く過ぎている。今の所、ヘルメスが言っていた、戦争の話も出ていないし、十二神の目立った動きも無いのだろうと考えている。かと言って、直ぐに王国に戻れる訳でも無いのだけれど。
「いざと言う時は、妾よりもミレーユ達を優先して良いのじゃよ」
今俺達は、午前午後と組合が買い取ってくれる魔素材を運んでいる最中なのだか、デメテルから話しかけられている。デメテルは、最近こんな事を語りかけてくる事が増えてきている。
とは言っても、俺はペルセポネを探し出さないことには、デメテルの機嫌が悪くなるのだ。どちらを取っても、家族や辺境伯様達に負担はかかってしまう。なら先ずは起こっている事から解決しなければいけないのだろう。だから俺は、決まって、デメテルが気にすることじゃないさ。とお決まりの返事をするのである。
そんな毎日を過ごしている俺達は、日々、お金を稼ぎつつ、次第に取り扱う金額も増えてきている。
今から狩りを始めようとしている時の一時。それぞれの意思で動く事も出来る様になった俺達は、軽い打ち合わせ程度はするようにはしている。
「デメテル、自分で動く? それとも俺が動かす?」
「どっちでも良いぞ? おぬしはゴーレムでも動かせばよかろう?」
「了解だよ。そういえば、船の上でもちらっと聞いたけどさ、勿論使わせないし、使う予定も無いけど、デメテルの禁忌級って詠唱を挟むの?」
「挟んでも挟まんでも使えるのではないかの? 妾も使ったこと無いならわからぬが。カカッ」
なんつー、無茶苦茶適当な駄女神だ……。
「最初、俺に使えって言ってなかったっけ?! 適当だなぁ……」
豊穣祭のあの日、初めてデメテルに会った日。確かに言われたはずだ。
「あの時か……、ペルセポネがおらんくなって混乱もしておった、覚えとらぬわっ」
「さいですか。因みに変なこと聞くけど、どんな効果かわかる?」
「うーん。わかるのかわからぬのか、それもわからぬが、何となくじゃが、地という地の全てが、ぶっ壊れるような感覚かの? カカッ」
デメテルは首を傾げながら恐ろしい事を言葉に出す。
「はぁあぁっっあ!? そんなの俺に使わせようとしたの?」
「仕方ないじゃろ、さっきも申したではないか、だがのお、使わないと行けない時は、使うのじゃろう。妾達の役割な気がするのじゃ」
均衡が崩れすぎた時の事を言ってるのだろう。でも、流石にそれは回避したい……。
という事は、俺も分からないけど、十二神それぞれにそれ程の力があるという事か。ヘカテーですら、あの能力だ。十二神がつくりだしたと思われる、それ以外の神などもいるのは確定している。ペルセポネだってその1人なのだ。
ゼウスも完全に手加減してたってことだよなぁ。怖いなぁ。あいつら。
とまぁ、こんな生活が続いている半年ほどであった。
最初の頃は、近くの魔素材を中心に買い取ってもらい、宿代や食事代、衣類等も揃えていく毎日だった。
既にボロボロだったデメテルのドレスも、今ではすっかり現地人と化している。
勿論、安物ではあるけれど、どうしてもドレス風が良いと駄々を捏ねるデメテルは、身体の線がくっきり見えるような、稀に茶屋等にいもいる、お姉さんが着るようなドレスだ。
頭も真似して欲しいと……、大きな玉を二つ載せたような所謂お団子な髪型だ。
なんか、子供返りでもしてるのだろうか……。
ゴーレムで、街中に素材を持ち込む訳にも行かないので、先ずは荷馬車が欲しかった。馬は結構な金額がするので、買う訳にも中々いかず。馬屋で毎日、馬を借りながら売れるものを集めていく。
馬車については、木材はゴーレムで加工していき、道具や金具は鍛冶屋からの購入だ。
今では、商業組合の受付嬢、チェンさん、ともすっかり仲良くなり、人との交流の練習も兼ねて、デメテルに交渉を任せている。最近の俺は何処の店に行っても、デメテルを眺めてニヤニヤする日々なのだ。
「チェンよ、これじゃ妾達も納得がいかぬ。この前の魔素材で儲けたではないか、少しは勉強してくれても良いのじゃぞ?」
「デメテルさーん、勘弁して欲しいデス、これでも結構頑張ってるんデスヨ?」
「なら、もう1つの組合に持ってくとするかのぉ。それで良いか? ウィリアム」
「わ、わかりましたよー! それで良いデスう!」
とまぁ、こんな感じなのだ。いつ見てもニヤニヤが止まらない。これが神という強者の貫禄なのであろう。俺達は、馬車もある為、木材も扱うし、鉄や銅等の鉱石なんかも取ってくる。所謂お得意様状態なのだ。
それにしても、目的からかなり狂ってきてるのも確かであった。気にしなければ行けないのは、デメテルの機嫌の問題なのだ。あまりに同じ場所に長居しすぎると、ペルセポネを救ってない以上、土地が痩せてくのは分かりきってる。それでも、デメテルにもかなり余裕が出てるから、去年ほどでは無いと思いたいがどうだろう。
少し前辺りから、商人や組合等の伝を使い、俺のもうひとつの目的でもある、鍛冶神、ヘパイストスを探し始めている。
予想ではあるけれど、鉱石の製錬に特化した能力があると踏んでいるのだ。出来れば自分も使えるようになりたいと考えている訳だった。
そして、本来の目的ペルセポネ捜索。こればかりは、十二神の特徴を思い出したうえでの、ただの感にしか過ぎないけど、地下、若しくは地底にいるのでは? と考えている訳だ。ただ、地底というのは厄介極まりない。この世界の基準で考えると、どう考えてもたどり着くのに予想もつかない年月がかかってしまう。幾ら文明の成長が早いとはいえ、到底無理と言わざるを得ないだろう。
もうひとつの、地下。まぁ地下と言うからには、地面の下であって、距離がどれほどかも分からないのだけれど、今はイメージが物を言う世界。俺は単純に火山を推察している訳だ。この国の、何処かの火山から行けたりしないだろうか? 等と考えている。昔の自分なら、普通に地下で過ごしていた訳なのだが。それでも今の自分が、易々と地下に行くことは中々の至難の技なのだろう。
あとは、ヘカテーかぁ。扉も便利ぽいけど、あまり借りを作りすぎるのもなぁ。若しくは、昔俺達14人が拠点にしていた地下施設が残ってでもいればなぁ……。
そんなこんなしている日々なのだが、それから暫くしたある日。謎の青年が、高品質な武具を流している、と言う噂が街の商人達から出始めたのだ。
通常なら、2ヶ月はかかるだろう距離の、温泉が湧き出る村の鍛冶屋。
そこの武具が、凄い業物だと噂が広がってきている。これは確認しに行きたいのだけれど、折角のコネが無くなるのも、荷馬車を棄てるのも勿体ない。何より、ヘパイストスじゃなかった時は、仕方ないにせよ、一旦はカメクラに帰ってこないと行けないのだ。如何せん、身内が誰も居ない他国なのだから、これは仕方ない。
「なら、行商でもしながら、そこに向かえば良いのではないかの?」
デメテルも本来なら、ペルセポネを優先したいだろうが、商売が楽しくなってきたのだろうか。活き活きした様子を見せている。
「うーん、でもいいや、時間かけすぎてるし。とりあえずは、チェンさんに預けて、戻って来ないようなら処分してもらおう」
「おぬしがそれで良いなら、構わぬが」
そこそこ貯金もある。勿論、金属だから重いのが玉に瑕なのだけれど。それとは逆ににデメテルは、行商を否定されたことでなのか、何だか残念そうだった。
「おぬしよ。ところでじゃが、温泉と言っとたの? あの時の事、忘れてはおるまいな? 今回は自重出来そうかの?」
「デメテル、何を言っているんだい? とっくに思春期の精神年齢は過ぎたはずさっ!」
「はぁぁぁ……」
俺を信用していないのか、デメテルは大きな溜息をもらし、こう続ける。
「妾だから何も言うてないが、おぬしが妾の身体の、継ぎ目を化粧をしている時も、着替えや服を洗う時も、やたらと下卑た顔をしておるのじゃぞ? ほんと、ミレーユに見せてやりたいわっ! このえろガキっ! 何故、この人形に発情するのか妾にもわからぬっ!」
このタイミングを狙っていたのか、ここぞと言わんばかりに、日頃の思いをぶつけてくる可愛い女神デメテル。
「ほら、いや……。昔から人形遊びも好きだったしね? きっとそういう事じゃない? だってさ、そもそもデメテルって、パッと見はただの美少女じゃないか」
「こ、この、この妾に向かって美少女とは、よーもーしたのー! えぇ!? 余程、あの海獣と同じ末路を辿りたいのかっ! ヘカテーを呼ぶしかあるまいっ!」
母様も不味いけど、ヘカテーさんは流石に不味いですっ! あの扉だけは。しかし、なんと言えば良いのか、男と言う生物は不思議なもので、いや、これは女も当てはまるのかもしれないが。いくら創作物であったとしても、そこに美という名のつく存在があるだけで、至福の満足感や幸福感を与えてくれるのである。沼にハマり出すと、とことん収集していきたくなるのは言わずもがなだ。決して少女神デメテルが言っている発情という類のものでは無く、ただ其れを必要なまでに愛でる、という行為のひとつなのだ。と俺は思う。
「わ、わかったよ。ごめんって。少し冗談が過ぎただけだって。怒るなよ……」
デメテルの物理攻撃も、最近デメテルが会得した独自の魔法も、兎に角痛いのだ。あまり調子に乗ると、直ぐに殴られるし、微弱な電流を流してくる。
以前は、俺の詠唱を使った上で、デメテルからしか放出が出来なかった魔力(ナノクリスタルマシンを使った意志伝達)も、今は俺と同様に、デメテルも単独で出来るようになってきている。
だけど、人形事態にその力はなさそうで、同時に訓練をしている時は、俺の体内にあると思われる魔力が2人分消費されてる感覚だ。
恐らく、空気中にあるナノクリスタルマシンが、体内でも増殖をしているのが、俺やシャルの様な存在なのだろうと、俺は考えている。
本当に、過去の自分の知識を超えてきている訳だから、説明のしようもないのだ。ヒメはこんな事を果たして予測してたのだろうか。
「でもさ、さっきの。ブリジット先生の時の話を、蒸し返してるんだろうけど、俺が我を忘れて祈りをした事はあるけど、冷静な時にした事はなかった? はずなんだ。例えば、今、誰かの名前を使ったら、呼び出せるのかな? って思ったんだけど」
「なんて事を考えるのじゃっ……。本当恐ろしいにも程があるっ」
先程までの勢いは失せ、ポセイドンの件もあるからか、一気に青ざめる様子を見せるデメテル。肩を両手で抱きしめ小刻みに震え始める。やはり簡単に、あのトラウマは克服出来ないようだ。
「いやいや、言いたい事はそうじゃなくてさ、顕現済みの、例の神以外を呼んでみるとか。それにほら、ペルセポネは俺は知らないけど、神なんだろ? いけそうじゃないか? 今までの流れで行くと、この世の何処かに落ちてくる様な印象ではあるけど、余計に探すの大変かな?」
「うむ……」
デメテルは、深く考え込んでいる。割と単純な話を閃いた様な気がするんだよ。やっぱりダメかな?
「一理あるとは妾も思う。だが、おぬしはペルセポネに心当たりがあるのじゃろ? もし、おぬしが言うように、この世の果てにでも落とされたら、妾達だけで探せるものじゃろうか?」
こんな時に、ヘカテーの鳥飛翔やヘルメスみたいな移動の力があればって思うけど、基本的には全員気まぐれというか、行き当たりばったりな行動をとるから、頼みにくいと言うのか、なんとも言えないんだよ。
「じゃあ、当たり障りの無い神で試してみようか。今はヘパイストスがどこかに飛ばされても困るから、他になるけど。んー、例えばデメテルとか――」
「なんてこと言うのじゃぁあ!」
「あ……、すみません」
最近、冷やかしすぎな俺も悪いのだろうけど、喜怒哀楽の乱高下危が多くなっているデメテル。
「余程変わってなければ、アポロンか、ヘスティアか、アフロディテ、この辺りなら、話くらい聞いてくれそうだけど、どうだろ」
「はぁ……。好きにせい。もぉ……」
「いや、なんか怒ってるし、辞めておくよ……」
「…………」
あまり怒らせすぎると、一気にこの辺の作物が枯れてしまいそうだ。暫くこの話題は控えるのが良いのだろう。でも、この面子なら大きな問題は起こらないはずなのだが、この様子、違う進化でもしているのだろうか。
そんなデメテルの怒りの翌日には、そこそこの荷物を抱え、温泉村へと向かうことになった女神デメテルと俺は、移動をしつつもイメージ練習を欠かさなかった。今は、ヘパイストス探しの移動の最中の、休憩の一時だ。
まだまだ、威力を上げるイメージはつかないけれど、通常の人達が下級詠唱を唱えた火力と同じくらいには、魔法らしき物が使えるようになっている。便利なのは、詠唱と違い火力の調整が出来る点にもあった。簡単に言えばイタズラ程度の事も出来ちゃうわけだ。
要はイメージだ……。むむむっ
デメテルも、両手を交わし跪きながら、何かを考えているようだ……。
「おぉ! おぬしよ! 見てくれ、妾の名の通り、土地を再生出来るやもしれぬ! 逆の事も出来るのじゃが、これは使い所は無さそうじゃ」
「凄っ! 草や木の苗みたいなの生えてきてる! とことん、何でもありなんだなぁ。適正は大いにありそうだけれど。やっぱり俺は機会人形とかそっち系に偏るのかな」
これは流石に口を開いて驚くほどにびっくりした。流石、大地と豊穣の女神デメテルか……。
「という事はだけど、デメテルの機嫌はさておいて、枯れてる土地も、練習の成果次第では、元に戻せるかもしれないんだ」
「そういう事じゃな! 妾も好き好んで枯れさせてる訳でもないっ!」
ぴょんぴょん飛び跳ね、両手を上げ大喜びのデメテル。やっぱり人間味が増えてきているとでも言うか、子供っぽくなってきてるのかな。
俺はイメージがオートマタに特化してるのなら、尚更、ヘパイストスの助言なりは欲しい。急がないと。
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