第2章6 躁鬱指揮者ウィリアム
昨晩、ヘルメスから死の予告をされ、一昨日は自ら殺め。それもあってか、寝付くことが出来ずにいた。上がったり下がったりの乱高下で疲れてる事にも気が付く。
昨夜の夕食を気絶していたせいで、食べれずにいたので、少しお腹がすいている。
川に魚でもいないでしょうか……?
そんな事を考えながら、昨日作った冷え冷えの露天風呂跡地へと向かう。川の中まで入ることは出来ないため、ゴーレムを数体使い川の中を覗き込んでいる。
「ちゃんと寝れた?」
まだ、日も昇りかけの中、ブリジット先生が、心配そうな顔で語りかけてきた。
「おはようございます。魚を探しているんですよ、朝飯確保しますから待ってて下さいね」
僕は質問には答えず、笑顔で先生に返事をした。
すると、少しイラついた表情を見せる。
「はぁ。気持ちは解りたいけど、寝れないなら寝床で、せめて目でも瞑ってて。でなきゃ殴る」
ブリジット先生は、拳を握りしめながら、一歩一歩僕に歩み寄ってきた。あっ、これ、本気の先生だ。
「わ、わかりました! 怒んないでくださいよぉ」
「横になる前に、昨日言ってた指揮棒見せて。わからないと思うけど、違いを見てみる」
「了解ですっ、そいえば、アーニャさんは?」
寝床に戻りながら、昨夜突如現れた、キラキラの妖精アーニャがどうなったのか尋ねた。
「可哀想だけど、あの後すぐに、無理矢理追い返した。でも、またどこかにいるかも」
確かに僕達といるのは危険すぎますからね。先生に嫌な役目任せてすみません。と謝り指揮棒をわたす。
そう言えばと、自立を手に入れたデメテル様が、見当たらない。ブリジット先生に聞いたところ、先生が目覚めたタイミングと同じくして、少し出かけてくるのじゃ。と言い残し山の方へと走り去って言ったそうだ。
僕が寝てる時は、魔力が止まるみたいだから、今まで通りと言うわけか。
「じゃ、寝れなくても暫くそこにいて。おやすみ」
僕は言われた通りに目を閉じ。考えを寄せていく。
――――
「おぬし、寝る時は一声くれると助かる。咄嗟に止まると、流石の妾も肝が冷えるからの! カカッ」
「おはようございます。遠隔対話も今まで通りぽいですね。良かったです」
「じゃの。まぁ、寝れなかったんじゃろ? この数日を考えれば仕方ないが」
「そう、ですね。色々考えてしまって。で、デメテル様は何してるんです?」
「この山の行ける範囲を見てみようかと思うての。おぬしも言ってたように、魔物なんかいたらいーのー。程度の散歩じゃよ」
「そうでしたか、魔法使えないんですから、無理しないで下さいね、あと身体の作りも、人間とそこまで変わらないでしょうから」
「うむ、やはりおぬしは優しい子じゃな。この1年ちょっと、言いたいことも沢山あっただろうて。我慢しとった事もわかっておった」
「何を今更」
「…………」
はぁ……
「デメテル様、昨日だったか、ゼウスの話を聞いてから、気が付いたんですけど、作物の影響って、デメテル様が原因ですよね」
「そうじゃの。妾の影響が大きい」
「敢えて枯らしてるんです?」
「いや、ゼウスと同じで、機嫌の善し悪しみたいなものじゃ。妾が何も考えなければ、こうはならぬであろうが、思考は止まらぬのでな。それに土地が影響されてしまうのじゃ。何よりも、ペルセポネの事があってから、焦っておったしの」
「そうですか……。クリスタルが減ると、と言うのは、僕を誤魔化すためだったんですか?」
「……。それも少しはあったが、遥昔から、そうであったことも嘘ではないのじゃ」
「なるほど。言えない事があるのはわかりますけど、今更、デメテル様を放って、何もしないということも、多分ないと思いますよ」
「そうか、色々すまぬの……」
「ところで、出会った頃言ってた、僕が『輪廻の転生』でしたっけ? してきたとか何とか。あれって死んだらみんなに起こる事なんですか?」
「ふむ……。あ奴らが言っておったのは……。そうか、そういう事なのやもしれぬ……」
「後で教えてやろう。おぬしは、今は眠るが良いぞ」
「何勝手に納得してるんですか。分かりました……」
そんな話をしながら、僕は眠りについた……。
――――
目が覚めると、太陽はかなり上まで昇っており、眠れたには眠れたけど、何だか嫌な夢でも見た気分……。
ブリジット先生は、昨晩の肉と、近くで毟ったであろう野草を使って、岩焼きと言うものを食べさせてくれた。肉は僕が気絶していた間に、水で締めてたらしく問題無いだろうとの事だ。まぁ、多少なら質が落ちても問題無いでしょう。と、僕は、昼食としてのお肉に齧り付いていたのだった。
念の為、デメテル様にも、もう平気ですよと伝えると、デメテル様は、散歩を続けてくるからゆっくりしておけと言われた。
「預かってた指揮棒。ありがとう」
「で、何かわかりました?」
「自分で作ったから。やっぱりわからなかった」
「そうですよね……」
「ただ、実験を思い付いた。そもそも、指揮棒ってボクが初めてキミのゴーレムを見たのがきっかけで、生徒会長に助言したのが始まり」
「へー、そうだったんですか、意外ですね」
「そう。だから、ゴーレムだせるだけだして、指揮棒振り回してみて。適当で良いから」
僕は、石ゴーレムをありったけ、と言われたので、どんどん作っていく。
既に、2メートルほどのゴーレムは、20体は超えてく勢いだ。
「まだ、だします? 石なら、まだいけると思いますけど……」
「際限ないな……。いや、止めて良い。じゃ、クリスタルに魔力を込めるイメージを、持てるならやってみて。それが出来ても出来なくても振り回す」
僕は、言われるがまま、クリスタルに魔力を込めてみる。
あっ、これ……。執事君の時と同じ感覚かも。
本来、クリスタルは、その物に魔力が宿ってはいるものなのだが。それとは別に魔力を得たであろう、指揮棒のクリスタルが光り始める。其れを確認した僕は、いつか見たコンサートの指揮者を思い出しながら、縦に横に斜めに、リズムを持って振るっていく。
適当に放り投げた石ころだった為、不規則に起立していたゴーレム集団だったが、指揮棒を振ると、普段僕が自分の意思で操作していくように、勝手に整列し始めていったのだ。
「おぉぉぉー! 勝手に整列してくれました!」
「んー、理屈はわからないけど、上手くいったのか」
「本当、謎ですよね、クリスタルって……」
「謎だらけ、それこそ、神々でもない限りわからないのかも」
ブリジット先生と話しながら、指揮棒を振り回す僕。
暫くやっていると、操作というより、イメージと言うのが近いと感じた。
指揮棒を右へ、歩かせたいなーと思えば歩いてくゴーレム達。そんな感じだった。
言葉にするのは難しいけれど、今までは、頭の中で手足を1体1体動かすような感覚で、慣れると割と楽だったけれど、意識はずっと集中してなければいけなかった。
今は、集中をほとんどしなくても良い感覚だ。
「何となく理解した。あとは、生徒会長の、指輪の効果か。指揮棒と同じという事は無いだろうが……。指輪や指揮棒と違う形は、また違う効果になるのかな」
「どうなんでしょうね。ヘカテーはいつか分かるとは言ってましたけどね。僕には。そのいつかがあるんでしょうか……」
「あまり意識しない方がいい。あの言い方だと、少なくともあの二人が、いきなり襲いかかる様なことは無いはず」
そうですね……。と呟き、ゴーレムで遊ぶ。バラバラに動かす事も出来るようだ。学園で習った小隊・中隊・大隊のようだ。面白いかも……。
そんな時、デメテル様が帰ってきた。
「なんじゃ、このゴーレムの数。まさか焼けにでもなったのか? おぬし」
「いや、まさかっ」
デメテル様に経緯を説明していく。
「妾には効果あるのか?」
「やってみますね……。いきなり動くと思いますよ」
「……ぬあああ! 止めてくれェ!! はよォ!!」
僕はブンブンと、指揮棒を振り回す。えいえいっ!
「加減ないのじゃ……」
「日頃のお返しですよ……、はは」
「そうか、それはまぁ、良かったのかの」
「なんでですかっ。で、デメテル様はどうでしたか? 散歩の方は」
「ここから、海側まで少し行くと、古い鉱山の様な穴が、幾つかあったぞ、魔物も多少おったが、大森林程ではなかったかの」
「鉱山ですかっ!?」
「そう遠くはなかったのじゃ、目的と思われる港街の影もあったが、そう遠くはなさそうじゃ、徒歩でも3日も有ればつくじゃろ。それと、妾もゴーレム作れるか試して見たが、妾の意思では無理じゃった。まぁ、おぬしと一緒なら問題なかろう。やはり、詠唱関連が封じられてるようじゃの」
「なるほど、ちょっとデメテル様を操作してみますね」
すると、僕が操作すると、今まで通りゴーレムを生み出し、動かすこともできた。なるほど……、何となく分かってきた。
あくまでも、僕の能力を通すか通さないかといったところかな?
「カカッ! 器用なやつじゃ。なら、昨日今日で、人が探しに来る事もなかろう。気分転換に、炭鉱夫でもしてみるかの? 魔人娘どうじゃ? 急いだ方が良いか?」
「いや、今は兎に角、息抜き必要。魔素材もよろしく。昨日の石家に魔導具あった。作製用な盤旋もあるかも。せめて、炉があれば嬉しいけど……」
「なら、時間も早いし、石家からみてみるかの」
「了解した。ねえ、ゴーレムの肩に乗ってみたい。楽出来そう」
「おぉ! 良いですね! 気が付きませんでした! 流石僕の大先生!」
「いてっ」
調子に乗るなと言われ、いざ、お化け屋敷風の石家へ。
ゴーレム肩車はお尻が痛いけれど、歩かなくて良いのはかなり便利な乗り物だった。指揮棒振るだけで良いのが最高。
「相変わらず埃ぽいですね。どうします?」
「ちょっと見たい。着いてきて」
怖がりな先生……。
家の中にある布を使って、簡易松明を手に地下へ。
昨日は、魔導具見つけて直ぐ帰ってきてしまったので、収納棚や物入れなどを見ていく。
線の言っていた、旋盤なる物は無かったようで、もちろん炉なんか、もってのほか……。
しかし、この家誰が住んでたんだろう。
少し探していると、先生が何か見つけた様子。
「なんだろう。金属の固まりが、別々で何種類か。その鉱山で取れるのかな」
考えを寄せる先生。デメテル様が見つけた鉱山の事を指しているのだろう。他には、また数個の魔導具があったようだけれど、昨日の物に引き続きいまいち用途が分からない。
研究熱心とは思うけれど、他の物に興味を示さないのがブリジット先生の短所で長所。
「これ以上は特に。仕方ない。鉱山行く?」
「多分魔物はおらぬと思うぞ。おっても低位じゃて、ウィリアムゴーレムでも、妾の女神パンチでも問題なかろ」
「じゃ、行ってみますか」
再び肩車に揺られ、山道をひた登る。女神魔法が使えなくなったので、念の為、先導させるゴーレムにもデメテル様を乗せて進む。
「ブリジット先生、着いてきてますよね?」
先生は後ろを振り返り、溜息を漏らす……。
「しかも、魔物に追われてませんかね、あれ」
「仕方ない。少女神、助けてあげられる?」
「1度は助け助けられ、貸し借りなしじゃが、おぬしらが言うなら妾は構わぬよ」
デメテル様はゴーレムから飛び降り、後ろへ猛ダッシュで詰めていく。念の為、僕はゴーレムを増やして自分達の守りと、デメテル様の援護へ、2部隊を創り出す。
「ぎゃああああっ! お願いしますっ! 助けてなのですうぅうっ!!」
アーニャは、3メートル程の長さの、トカゲみたいな爬虫類に追われている。
アーニャ、上に翔べば良いのに……。何故か僕達に向かってくる。やっぱり何処か抜けてるのかな?
「アーニャさーん、上! 上! 上に翔んでっ!」
「上っ!?」
口をポカーンと開けながら、上を見上げる妖精アーニャ。一昨日は、もう少ししっかりしてると思ったんだけれど。
「ダメじゃな。このど阿呆……」
見兼ねたデメテル様が、トカゲの魔物に向かって、特大ジャンプをする。
アーニャは、目の前から迫ってきた、デメテル様を目で追い、動きを止めてしまう。
トカゲは、目の前にいるキラキラの妖精を餌と思っているのであろう。四足で迫りながら口を開く。
――パクっ
「あ……」
間に合わなかったっ!
トカゲの口に収まった妖精アーニャは、その日姿を消した。
と同時に、トカゲの頭へ強烈な女神スタンプ。
――ボフッッツ
「すまぬ。軽すぎたみたいじゃ……」
――ドッカァァアン!!
――ズドォオォン!!
デメテル様を追いかけていたゴーレムは、傾斜を利用し、その体重を増した強烈なパンチを2体同時にトカゲの腹へ殴りつける。
――ギュアァァァア!!
形容し難い叫び声を上げた四足トカゲは、思わず叫びながら口を開く。
すると、先程口の中に吸い寄せられた、アーニャが姿を表した。
「ンギャアアアァァァア!!!!!」
こちらも、酷い泣き声である……
「だから、アーニャさん、上に翔んで逃げて」
「あっ! はいですぅ!」
デメテル様は、トカゲの頭で、腕組みをしながら仁王立ちしている。どうやら、自分の攻撃では倒せないと悟った様子だ。
その為、ゴーレム2体の両手を使い、左右の拳でボディブローの連打を撃ち込む、撃ち込む。
トカゲは、暫く悲鳴を上げていたが、暫くするとビクンビクンッと痙攣を数度起こし、絶命したのだった。
「笑にかかればこんなの朝飯前じゃの! カカッ」
「デメテル様、流石に無理がありますよ……」
「だ、だって仕方ないでは無いか! 今まで魔法に頼ってたのじゃ!」
「少女神が唯の少女になっただけ」
「なんじゃとぉ!?」
僕達とデメテル様が掛け合いをする中、アーニャが宙からヒラヒラ降りてくる。
「うぇぇぇええんっ……! 怖かったのですうぅ!」
トカゲの唾液を全身に纏わせ、泣き叫ぶアーニャ。その姿はキラキラからドロドロに進化していたのだ……。
「アーニャさん、すみません、ちょっと臭いので……」
「来ないで、アーニャ」
「鈍臭い妖精じゃの」
「そ、そこまで冷たくしなくてもっ……うえぇえぇぇんっっ」
「うぇぇぇええんっ……! めちゃめちゃ怖かったのですうぅ!
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