第3章9 ペルセポネかデメテルか
「……ヘカテー、さん、此処は……」
僕はその光景に言葉を失い、ダラダラと冷や汗を流し固唾を飲み込む。
「あらまぁ、此処は……、ダーレン王国か、な?」
「えっ……、いま、なんて……」
そこはかつて僕が知る、機械に荒らし尽くされたような世界。大地は荒れ果て、建物と言う建物は崩れ落ち、人の影すらも見えない、まるで、今僕達4人しかこの世界にいないのではと錯覚を起こしてしまうほど、夢でも見ることもないであろう、世紀末の様な世界が、眼前に広がっている。
「ま、まさか妾はここまで……」
いや、確かに一理あるとは思うけれど、それだけで説明が付かないのだ、建物は爆撃にでも晒されたような、空からの破壊といった表現が近いのだから。
「いや、デメテル……。これは、土地はもしかしたら、デメテルかもしれないけれど、爆撃とか雷とか竜巻は、少し違うか、兎に角、そういった影響によるものが大きいと思います……」
「ねぇ、デメテルさん? 落ち込んでるところ悪いけれど、この後どうするのか決めなければ」
「た、確かにそうですね、あまりの酷さに忘れてました……」
そうだ、つい先程までハデスといたところだ、考える事は沢山ある……。混乱しそうではあるけれど、僕が今は、落ち着かなきゃ行けない。
「ヘカテーさん、は、今までのことを予測して此処に連れてきたんですか?」
「えぇ、そうね。前にも話したように、ペルセポネさんが最優先だったでしょ?」
「それはそう……、ですが、何故そこまでデメテルとペルセポネに?」
この疑問がどうしても拭えない。
ヘカテーは、今まで見せたことの無い目力で僕を真っ直ぐに見つめ語り始めた。
「そうね。仕方ないよね。私ね? この時間軸の存在じゃないのよ、もう少し先から来てるの。それで、この選択をしないと私の存在概念が消えてしまう。と言ったらわかるかしら?」
『シャルちゃん』の件を覚えているから、理解はできるが、果たしてそれだけなのか?
「あら、気が付いたのかな? 貴方とデメテルさんはどんな形であれ、残ってくれないと困るのよ。だから。じゃ説明にならないかな? つまりは、概念に昇華されると困るってことね? 私、初めは人の身体として産まれてくるのよ」
「ちょっ、えっ!?」
あまりに予想外な答えで驚きを隠せない。訳が分からないよ。神に作られたって訳じゃないのか?
驚きのあまりに声をあげてしまい、超執事君も僕の様子に困惑しているかもしれない。だが、更に僕は続ける。
「そ、それはわかりました。という事は、先程のハデスの件。ペルセポネはどうやっても助けれないと?」
「……っ」
デメテルは先程の事を思い出したのか、悔しさを滲ませている。
「えぇ、と。助かってはいる。けれど完全にという訳では無い。が、答えかな? 納得出来ないかもしれないけれど、一先ずは自由に慣れてるはず」
「お、おぬしよ……。妾はもう分からなくなってしもうたのじゃ、どうするのが良いと思うか?」
ヘカテーの答えが曖昧なこともあるだろう。デメテルはこれまでずっと、ペルセポネを探してきた。けれど、助かってるけれど助かってない。じゃ、訳が分からなくなるのも当然だろう。
「ヘカテーさん、分かってるとは思うけれど、デメテルはペルセポネを探すことだけで、ここまで来てるんです。概念に戻して助けに行かせてあげるよ、という事は出来ないんですか?」
「…………」
「ヘカテーさん?」
「そうね。さっきの件も、勿論私には大事なんだけど、貴方にも関わるの。ここでその選択をすると、私も、貴方も、貴方のガールフレンドちゃん達も、全てが消えてなくなるわよ?」
「え?」
「だって、そうなるわよ。私しかあなた達を引き合わせてあげれないんだよ。それに、今頃と言っても時間軸がズレすぎてて分かりにくいけど、あの子達、自力であのクリスタルを探しに行ってるはずよ? その意味くらいならわかるでしょ?」
「…………」
流石に言葉が出なかった。ヘカテーは僕に分かるように、ゆっくりと説明してくれたから、理解出来てしまった。
同様に、デメテルも理解した様子で、言葉に出来ず、ただ僕を不安気な瞳で見つめている。
「おぬしよ、妾は問題ないのじゃ……、ヘカテーが産まれなければいけないのなら、産まれるまで我慢すれば良いだけのこと。今立っている土地は流石に難しいが、魔神娘らがいるところなら、再生させながらでも凌ぐこと位は出来るじゃろ。ペルセポネにしたって、解放するとハデスも言うておうた」
――だが、ゼウス。貴様だけは絶対に許さんぞ!
デメテルの悲痛な壮絶な怨みと憎しみの叫びが頭の中に響いてくる。
くそっ、何か良い方法……。
どちらにしたって、今までずっと彼奴らに弄ばれてきたんだ。シャルと先生と合流しても、同じように狙われ、遊ばれるんじゃないだろうか。
この状況を見ても、王国は何かしらで同じような光景が続いている気がする……。
くそっ……
デメテル、シャル、先生、母様、父様、マリー、辺境伯様、エルリーネ様、シュトレーゼ様、皆、みんな、みんな……
くそっくそっくそっくそっくそっくそっが!
「クソッタレがああああっあっっぁぁ!!!!」
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