第3章7 vsミノタウロス

 ヘパイストスとヘルメスの借りを返すため日々奮闘。あれから2ヶ月程すぎた頃。恐らく、景色を見る限り、1年の終わりを迎えている頃なのだろう。


 若干、土地の水分が枯れてきている。ひび割れも目立つようになっていることから、デメテルの機嫌の影響が出始めている。


 ゼウスから逃げた日から1年は経っているのか


 そんなデメテルに関しては、ヘパイストスの言っていた、とっておきのお陰で、デメテルの身体は超進化とも言えるべき性能を手に入れたのだ。


 自分の知識には無いけれど、オリハルコンと言われる、希少ではあるけど、現時点での最高の金属らしい金属を組み込めたのだった。ヘパイストスは、ヘラを懲らしめてくれるなら喜んで手伝うと言っていた件なのであろうか。


 兎に角、彼女の骨格は、古い映像記録で見たことがあった、ターミネーターとでも言うのだろうか。当時の僕達が扱ってた機械人形よりも頑丈で、さらに超軽量ときたものである。まさにチートと言わざるを得ない。


 つまり、機械型デメテル人形の誕生を迎えたのだ。ただ、問題は骨格はそれでいいとして、外装でもある、皮膚部分が兼ねてより脆いのが玉に瑕だった。


 僕が依頼をしている、オートマタパーツも完成したにはしたのだけれど、やはりクリスタルか魔石を嵌め込まなければ動かないのだ。不便な僕の特殊能力……。


 とは言っても、この頃には僕達コンビは、詠唱魔法と同等の操作も可能になりつつあり、鉱石集めで出くわす魔物なんかは、女神パンチであっても、思念能力であっても、ゴミ掃除の状態でもあるのだけれど。


「こんな所に本当にいるんだろうか……」


「おぬしはいつも通り、入口で待ってれば問題ないじゃろ。新しいチタンゴーレムとやらで、着いてくれば良い。カカッ」


 僕達は、温泉村から女神速度で1週間程の距離にある鉱山まで来ている。もう、野宿は熟れたものだろう。


 ヘパイストスが自ら鉱石を集めている時に、見かけたと聞いた、ミノタウロスなる魔物を探しに来たのだ。勿論、オートマタ用に欲しいと考えての事だ。


 そんな僕は、チタン合金の塊をヘパイストスから受け取り、チタンゴーレムで鉱山内を探索する事になる。如何せん、身体はただの子供なのだから。


「じゃあ、任せますね、デメテル」


「任されたのじゃ」


――カキン、カキン


 ゴーレムは、金属音を鳴らしながら坑道を下へ下へと進んでいく。


「魔物が多いのぉ、クリスタルでも眠っておるんじゃろか?」


「ピキィィィツッ!」


――ドゴォォン

――グチャ。グチャ。


 前にスキニア共和国のボーキサイトと思われる鉱山には魔物等いなかったのだけれど、確かに多い。が、そこまで強さは感じられない。


 ゴーレムの肩に乗る強化骨格デメテルと共に、坑道中に現れる、ムカデ風やら、蝙蝠風やら、蜘蛛やら、多種多様の魔物を狩り進める。


――確かに多いですね。まぁ、クリスタルもあるでしょうが。クリスタルが簡単に見つかるなら、ミノタウロスは無視して帰りましょうね。


「グギャァァア!」


――ドゴォォン。ドガァァン。

――グチャ。グチャ。グチャ。


 魔物は、通り過ぎる度に肉塊へと変貌していく。


 更に奥へ奥へと進む。金属コンビ。


「ガァァアルゥアルガ!」


――ライトニング


――バッチイィっっっんんんん!


――どうじゃ? 中々の物じゃろ? カカッ


 どうやら、デメテルは最近使えるようになった、思念脳力に名前を付けて遊んでいる様子。頭の中で詠唱の様な言葉を呟き、辺りは炭となった魔物から火を放っている。あまり僕の魔力を無駄使いして欲しくないものだ……。


――カキン、カキン


 このまま下に進んだら、ハデスに会えないだろうか? ペルセポネがいるかは分からないにしても、このままいるなら、願ったり叶ったりなのかもしれない。勿論、話が通じるのならば……。


 そんな事を考えながらひたすら進む。



――ガリッバリッガリッっ!



「のぉ、おぬしよ。あれじゃないだろうか?」


――あちゃあ。バツが悪いと言うか、タイミングなのか。


 視界に捉えた巨大な人型の魔物。その頭、顔は、2本の曲がりくねった角を生やし、首から下は、筋肉の塊で纏われている、男性と思われる体つき。


 女神図書館知識にも記載されているそいつは、魔法が貫通しない鋼の身体と書かれているのだが。果たして。


 そのミノタウロスは、目の前で大型のクリスタルの塊をバリバリと噛み砕いてガリガリと咀嚼している。まさにタイミングが悪すぎる邂逅だろう。


「まぁ、あやつが本来の目的じゃ、やってみるしかあるまいっ! よっ!」


――ガッキィィィンッ!!!!


――ファイアボール


――ゴォォオオォツ!!


「グワァァァァァァツッツッツ!!!!」


 デメテルの先制女神パンチは、顔面を捉え思い切り振り抜く。振り抜いた身体を翻し、デメテルは逆さまのまま掌から炎を放つ。放たれた業火をミノタウロスが包む。


 ミノタウロスは、突如現れたゴーレムとデメテルを睨みつけ、空気が揺れる程の激しいい咆哮で威嚇する。


「ダメじゃ。全くもってビクともせん」


――ブォン、ブォンッ!


 すぐ様、ゴーレムも戦闘に参加させるも、どうしても重たくなりがちなゴーレムは、あっさりとミノタウロスに躱されてしまう。


 とは言っても、ミノタウロス自身も素早さはあまり無いようで、デメテルへの攻撃はかすりもしない。


 が、やはりゴーレムとは相性が良くない。ボッコボコに殴り続けられてしまう。


 勿論、チタン合金で作られているゴーレムもダメージと言えるものは無いのだが……。


――ガッキィィィンッ、ガッキィィィンッ!


 兎に角、3者共にガキンガキンと、暫く激しい金属音は鳴らし続けるのだが、全く手応えが無いのだ。


――これは、流石に厳しいと言うか、終わらないですね……


「うむ。そうじゃの。勝てもしないし、負けもしないと言ったところかの?」


――どちらかと言うと、体内魔力が減り続ける僕が不味いですね。


 かれこれ、30分ほどは、繰り返し殴り続け、思念能力を打ち続けてる。このまま続けるのは愚策とも言える。


 挙句に、壁でも地面でも、お構い無しにお互いが全力で振り抜いて運動量が作用しているのだ、あちらこちら崩れかけてきている。


 何か策は無いだろうか。


 クリスタルを利用は……。無理か……。


 デメテルの能力で使えそうな物は。


 うーん。


――あっ、再生の力をミノタウロスに流して見てくださいっ! 出来れば、僕がいいと言うまで流し続ける感じでっ!


 これなら、もしかしたら行けるか?


「ふむっ。まぁ、わからぬがやってみるぞ」


「グワァァァァァァツッツッツ!!!!」


 デメテルは、了解したっ! と言い放ちながら、威嚇するミノタウロスの首の背後へ回る。そのままミノタウロスの首から抱きつき、思念を流し込む。


――フィールドヒーリング


 デメテル命名の、大地の再生の力をミノタウロスに流し込む。


「グガガァァァアッ!!!!!!」


 力を流し込まれたミノタウロスの身体は、光を放ちはじめ、人で言うなら筋肉肥大を起こし、更に筋肉が硬質化していくように見える。そして……。


――グチャグチャ、ボチャボチャボチャ!


 瞬間、先程まで肥大化していた筋肉組織という全ての組織が、液体と肉塊を混ぜ合わせながら、悍ましい音を垂れ流し地面に滴り落ちていく。


 その、なんとも悍ましい光景の後には、ミノタウロスの頭や角、まだ形を留めた肉や骨。それにグチャグチャの液状肉が散らばっていたのだ。


「お、おぬし。中々凄い事になっとるぞ……」


――い、いやぁ。うまくいったようで……はは


 デメテルに何が起こったのか説明を求められ、僕は簡単に説明してあげた。


 要は、再生の力で、細胞を最大限分裂させ続けれないかな? と考えたのだ。いくら硬質化された筋肉とは言っても、細胞組織はあるはずだと。それが、限界の限界まで分裂させれれば……。と、一種のやけっぱちなのだけれど、たまたまうまくいったと説明し、デメテルは首を傾げ、こんな使い方、よく思いついたなと言いながら、それでも概ね理解を示した様子。


――さてと、本来の目的の魔素材と魔石。次いでに噛み砕かれたクリスタルも持って帰りましょう!


「そうじゃな、帰って準備を進めるとしよう」


 そうして、僕達は無事にオートマタ用の素材を手に入れることが出来たのだ。


 だったのだが、そう上手くはいかないものが僕なのだろう……。


「ちょっ! デメテルっ! 一気に老けましたよっ!!」


 余り物の素材とクリスタルが荷物を圧迫するのを考え、鉱山を出た僕はデメテルに、余り物素材を組み合わせたのだが。


「老けた。とは失礼な奴じゃ! 視界が少し高くなったし、継ぎ目も……、無くなったのかの? これは、まさに大人ーな身体を手に入れたのではないかのっ!? のぉ、おぬしよ!?」


 デメテルは、自らのメリハリのある身体のあちらこちらを触り、脂肪肉を揉み、髪の毛を確かめ、硬さを確認し、万遍の笑みで大喜びの様子。


 どうやら、デメテル人形は進化を止めないらしく、正にそれは美少女をそのまま成長させたような、神々しいと言えば良いのか、神秘的な女神お姉さんに生まれ変わり、何処からどう見ても、どれだけ近くで見ても、神ぽい人間の女性なのだ。さらには骨格はオリハルコンの硬さを維持しているのであった。


「一先ず、着る服は布でも巻くとして。僕の知る人型人形もここまで来てしまったのですね……、はは」


 あまりの変化というのか、本当に想像していた様な女神の姿に、僕は何時もの興奮等起きず、至って冷静を保っている。最初は中身もスカスカな木製のマリオネット。そこから始まり、声を出せるようになり、自ら歩けるようにもなり、今となっては超高性能な、機械神人形に変貌してしまったのだ。


 第6世代能力も自由に使えるようになったこの人形は、この世界の最強の神にでもなったのではないだろうか。


 そもそも、中身は概念の神だ。死ぬことも無い。とは言っても、僕次第なのか。僕が死ねば永遠に動きを止めるのだから……。


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