第3章6 鍛冶神
明け方の独りよがりな喧騒から少し、暫く気まずい雰囲気のまま、昨日の部屋係が朝食を準備し、その雰囲気のせいか、たいした言葉も残さず出ていった部屋係。僕は朝食のご飯の湯気を眺めている。
「さっきは、僕もすみませんでした。デメテル様」
「…………」
「海岸で記憶が一気に流れ込んできてから、正直、大人ぶってました。ごめんなさい」
朝から、感情をぶつけにぶつけた僕(俺)は、しっかりと反省する事にした。けれど、まぁ、慣れもあるから、言葉尻なんかは戻すのに苦労するかもしれない。そんな事を考え、先ずは謝罪をする。
「お、おぬし……、何処か、頭でも具合でも、悪いのかの……? 医者を呼んで来ようか?」
少しの家出をしてきたデメテルは、僕の体調を心配している様子だ。あんな事があった後だからなのか。それでも、いくら何でも、少し失礼だなと僕は内心思う。
「いえ、反省したんですよ? これでも……。でも、そうですね、難しいんですよ、この状態を表現するのが、頭の中にもう1人いるような気もするし、ただ自分が大人の様な感覚になった気もするし。まぁ、そう。こっちの方が、ウィリアム・ハワードかな? って思うんです」
そう、ゼウスの時も、散々デメテルに当たり散らした。今となれば、秘密事が多かったデメテルも、少しは悪いと思ったりもするけれど。
「あとこれは、お願いになるんですけど、半年以上、呼称付けてなかったので、慣れちゃいました。今まで通り、デメテルって呼んでも良いですか?」
「勿論じゃよ、ウィリアム。妾も本当に済まなんだ」
この1年程、家からここまで、何だかんだずっと上手いことお互いやってきた。僕が悪いのだけれど、可能なら、仲直りは早めにしておきたい。
「それで、何してたんですか? 家出ですか? 本当、ちょっぴり心配したんですよ?」
「…………」
今はあまり重たい空気は作りたくないと思っての発言だったのだけれど。
「おぬしの表情が、冴えなかったのを見ての。気になって同調したのじゃが、そのまま、おぬしが見てた夢を、妾も見てしもうた……。そしたら、どうにもやり切れなくなってしもうて。合わせる顔が無いとでも言えば良いのか。無理矢理、こんな所まで連れてきてしまったのじゃから、よくよく思えば……。なんて勝手な事をしてしまったのじゃと。そんな事を考えておったのじゃよ」
「…………」
今はまだ、肯定も否定も出来ない。確かに家族とも別れてしまったけど、帰らない選択をしたのは自分だ。ペルセポネの件は確かにあったけれど、断る選択は出来た。だから、今は違う様な気がする。
「デメテル、初めての日覚えてますか? あっ、まだ僕達、初夜は迎えてないから、出会った日のことですよ?」
少しだけ、空気を変えたいので冗談を交えてみた。デメテルは、昨日もずっと済まぬばかりだった。少しは笑ってくれるだろうか。
「はぁ……、妾が真面目に話してると言うのに、おぬしというやつは。それで、覚えておるはずじゃが、どうかしたのか?」
「デメテルはこう言いましたっ。えぇ! 確かに言いましたっ! 『全てが終わったら何でも願いを叶えてあげるっ!』 って。口調も違ってましたが。まぁそれは一応いいとして、覚えてます?」
「…………」
「もっ、勿論、お、覚えておるのじゃっ!」
笑ってはくれなかったが、少しだけいつもの調子で答えてくれる。なので、僕はこの雰囲気を続けることにする。
「あれれーっ? ホントですかぁ? じゃあ聞きますけど、デメテルの『全て』って何ですか? 『何でも』って、その力がデメテルにはあるんですか? フフっ」
「……ぐぬぬっ」
「でも、今、言霊は取りましたからね?」
「おぬし、な、何を望むのじゃっ?」
まだ何も解決の目処はたって居ない。けれど、こうなったら楽しいかな? と思うこともある。勿論、皆いてくれないと、それも不可能な話でもあるが。
昨日みたいに、自分のせいだ、等の謝罪は続けて欲しくない事もあるし、少しだけ不安にさせておこうとおちゃらけてみる事にしたのだ。
「勿論、内緒ですよ? 全てと言うのは、まぁ、色々あるとは思いますけど、一先ずはペルセポネですよね? 助けれたら言いますよっ!」
「な、何を言うておるのか分からぬが、お、おぬしまさかとは思うが、人形に――」
「いや、違いますって。そこは安心してください? フヒヒッ」
「…………」
相変わらずの2人分の朝食を、腹十二分までかきこみ、宿を出るまで一休みする事に。
「マタキテヨー」
片言で話す受付に僕は、苦笑いでお礼を述べる。かなり豪華な宿ではあったけれど、追加料金は特に請求されず、どうやって利益をだしているのだろうと不思議に思いながらも、例の鍛冶屋へと脚を運ぶ僕とデメテル。
昨日、宿屋での食事の後そのまま寝過ごしてしまった為、例の鍛冶屋へは日を跨いでの再訪問となってしまっている。相変わらずの青年。炉から取り出したであろう、真っ赤な色をした金属の塊。恐らくは今から何かを作っていくのかもしれない。
僕は、昨日も感じてはいたが、この炉を使っている光景を目撃してしまったが為、若干気分は落ち込み気味だった。というのも、僕の予想では、ヘパイストスという存在は、特技なりで製錬を行うと勝手に思い込んでいたからなのだ。
ブリジット研究室にもあった旋盤らしいものもあるにはあるのだが。少し不安が募る。
目の前には、昨日同様だけれど、ヘパイストスと確信している青年。肩ほどまで伸びた、灰色の髪色の人物がいる。
「昨日の方だね〜。折角来てくれてごめんね〜。まだ暫くかかると思うよ〜」
「あぁ、すみません。ではひとつだけ確認させて貰えませんか? からくり士という言葉に聞き覚えは有りませんか?」
「…………」
ダメだな、これは。僕の問いかけには、全く聞く耳を持ってくれず、青年はキンコンキンコン金属を叩き始めたのだ。
隣のデメテルと目を合わせ、肩を竦め暫く返答を待ってみた。
「社長だね〜? わかるよ、でも今はダメだよ〜。昼頃には終わるから、その時来てね〜」
「わ、かりました……」
これは遂に待ちわびた、念願のヘパイストスか? と 不安だった僕は一気に期待が高まる。が、昼迄待てと言われたなら仕方ない。半年は探していたのだ、今更数時間等、全く問題無い。僕達は、一度村でも散策してみる事にし、鍛冶屋を後にする。
「なぁ、おぬしよ。あの店は先程の、ヘパイストスらしき者が作った物を、売っている店なのではないかの?」
全くもって、この村に似つかわしくない、武具や金物も他にも日用品扱う、雑貨屋と言えば良いのだろうか? それとも組合の様な何でも屋というのが正しいのか。時間を持て余した僕達は中を覗いてみることにした。
すると、当時のアイツ(ヘパイストス)は、開発部だったのだが、その頃に作っていた、機械人形のパーツに近いものが展示されていたのだ。
これは間違いないと、僕は確信的に察知した。それにしても、あの時代のパーツを良くもまぁ、ここまで再現したものだ。いくら文明の成長が早いとは言え、普通なら、まぁ、この水準迄作れるようになるには、後百年以上はくらいはかかると勝手に思っていたのだから。これも、僕みたいに素材を変化させてしまっているのだろうか。ても、いや、違うだろう。
「妾も思い出したかもしれぬ……」
「えぇ? いや、どうだったかな。ヘパイストスもそうだけど、設計や仕組みなんて、皆の知識に組み込んだっけ……」
ごちゃごちゃしてきた。これはいけない。所謂記憶の混濁とでも言えば良いのか。
でも一先ず、間違いないない。探し人なのだろう。その後は、デメテルと村や、宿屋前の池、そこら中から湧き出る、温泉等を眺めながら予定通り、時間を潰していったのだった。
「社長なんだね〜? まぁ、殆ど覚えてないと言うか、消されたような感覚だけど、多分懐かしいってことなんだと思うよ〜。ごめんね〜」
「いや、僕こそすみません。突然だったし、それにしてもさっき、雑貨屋で見たけどヘパイストスの作った品だよね? 見たよ。凄かった」
「うん、ありがとう〜。それで、急いでいるんだよね〜? 前にヘルメスから聞いたけど、ヘラに虐められたんだろ〜? 手伝えることがあるなら、何でも言ってくれて構わない、全て引き受けるよ〜!」
おいおい、ヘルメス! 全部予定通りってことかい! 本当にやな奴だ。それでも感謝すべきなのだろうが、手の上で転がされてる感じは否定できないのだ。
ちなみに、デメテルは、ヘパイストスとは問題無くやれてるようだ。兎に角目的を手伝って貰おう。
「助かります。じゃあ、早速ですが、僕に製錬を教えてくれませんか? あの頃のとまでは言わないけれど、機械人形『オートマタ』を自力で作れるようになりたいんです。助けてくれますか? ちなみに、僕の能力で、此処にいる、デメテルへは色んな素材も組み合わせていけるから、そっちも手伝ってくれると助かります」
僕はこの後の事を考え、火山付近でも耐えれるような、オートマタか、最悪ゴーレムで調べていくつもりだった。言葉通り、ヘパイストスは、僕のやりたい事を手伝ってくれるとの事で、普段、鍛冶屋では力を使っていないらしい、製錬から教えてくれた。
「中々言われた通りのイメージが……」
僕のイメージのせいなのか、温度の感覚なのか分からないが、上手くいかない。
それから暫くしても、ボロボロの金属しか作ることが出来ず、やはりこれは、適正の問題なのだろうかと考える。餅は餅屋といったところなのであろう。
「うーん。無理なのかな〜。それなら、僕が用意するよ〜、それでも構わない?」
「すみません、助かります。それなら、熱に強くて、超高度でかつ、軽量の合金かそれ以上の金属は作れますか? 無茶は承知ですけど、特に熱に耐えれる必要があると考えてるんです。やってみないと分からないけど、ヘパイストスがそれで、金属のみでも、パーツでもを作ってくれると助かるのと、デメテルにも組み込みたいんですよ」
「ふむ〜。もしかして、ハデスでも探してるのかな〜? 地下に行きたいのかな〜? となると、手持ちの素材だと。デメテルさんにも組み込むとなると、1体が限界かな〜。あ、でも、デメテルさんにはとっておきのを用意するよ〜」
そうか、でも仕方ない。彼が言うとっておきが何かは分からない。僕達は完全にヘパイストスに任せることになってしまったけれど、昔はみんなを手助けもしてきたのだ。本人達はもう記憶が無いのだろうけども。ヘルメスの借りもあるのだけれど……。
「おぬし、まさかハデスなのか?」
「いや、あくまでも感ですよ、デメテル。可能性に過ぎません……。」
デメテルには今まで、断定するような発言は避けてきたのだけれど。今はまだ可能性に過ぎない。デメテルをあまり期待させるのも良くないだろう。それでも、デメテルはハデスに思うところでもあるのだろうか。可能な限りまだ大きく動きたくはない。デメテルには成る可く冷静でいてもらいたいのだ。
「ところで、ヘパイストス。ヘルメスに借りがあって、何か商売の手伝いなんかは僕に出来そうですか? 2人に借りを作り続けるのも、あまり気が乗らないんですよ」
僕がそういうと、ヘパイストスは、それなら鉱石が欲しいと提示してきたので、僕は了承した。どちらにしても、ヘパイストスにも手伝って貰ってるのだし、ちょうど良い。
ただ、問題はその量とかかる時間だった。僕達は、オートマタのパーツとデメテルの強化に使う金属を準備してもらいながら、ヘパイストスから教えて貰った鉱山へと何往復もする事になる。
それに、出来れば、オートマタ用の魔石やクリスタルが手に入らないだろうか。そんな事を考えながら暫くは、この温泉村で時を過ごすことになったのだ。
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