悪魔からのプレゼント

耕平は目を覚ますと、いつものようにタバコに火をつけた。一人暮らしの彼は、誰に気を使うこともなく堂々とタバコを吸える、今となっては希少な事だ。


3年前に業績不振で解雇されてから、失業保険から生活保護へと手当を貰いながら生活している。日本は弱者に優しい良い国だ。康平はスマホとタバコさえあれば生きていける。すべての娯楽は、このスマホに入っている。良い時代になったものだ。


タバコは特に吸わなくても良いが、彼が普通の人より自由に吸えて、優越感を感じることができる、唯一のものなのだ。彼は自分の事を、気ままで世界一幸せな人間だと思っている。


ある日、夜中に目を覚ますと、目の前に黒い影のようなものが立っていて、彼を見下ろしている。


影が話しかけてきた。

「俺は閻魔大王の使いできた悪魔だ。私達は人間達に、幸せと不幸を同じ量、与えているが、何かのミスで、お前の不幸が足りないようだ。」


「不幸は間に合ってますよ。その証拠に、三十五歳で独身。友達もいなく、世間からは冷たい目で見られて、辛い日々を送っています。」

康平はほくそ笑みながら、得意げに答えた。


「確かにそうだな。お前は、責任もなければ、やりがいもない。俺が今まで見てきた中で、最高に不幸なヤツだ。」


康平は意外な返答に拍子抜けした。

「俺ってそんなに不幸だったんですか。。。」


「その証拠に、お前の醸し出すオーラから人間性が消滅している。お気に入りのスマホを見て、食べて寝るだけの、単細胞生物になっている。」


「そんなの嫌だ!なんとかなりませんか!」


「一度ぬるま湯に浸かった人間は二度と元には戻れない。」


「そんな事言わずなんとかお願いします!」


「そこまで言うなら、一つ方法を教えよう。一度真面目に働いてみろ。」


「ハッハッハッ!そんな子供だましの手に乗るとでも思ったんですか?悪魔のくせに意外とバカですね!」


悪魔は黒い顔を赤らめながら言った。

「そ、そんな訳無いだろ!話はここからだ!」


「なんですか?ここからの話とは?」


「・・・」


「もしかして、思いつかないとか?あんたこそ、悪魔のオーラがまるで無いね!」


「すみません。。。このご時世、残業続きなもので。。。」


「この事を閻魔大王に秘密にする代わりに、一つ願いを聞いてくれ。」


「何でもどうぞ。」


「不幸を俺に与えに来たんなら、嫁と、タバコを一生分くれ!(笑)」


「かしこまりました。」


そそくさと、悪魔はあの世に帰っていった。





数日後、玄関のベルが鳴り、出てみると、タバコを咥えたお婆さんが、数え切れないくらい立っていた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る