人には優しく

拓哉は、人に優しくしていれば、必ず神様は見ていて、自分に帰ってくると親から教えられ育った。

そのせいか二十代半ばで大手スーパーの店長に抜擢され順風満帆な人生だ。


スーパーの客で、いつも汚い格好でやってきて、果物や野菜をベタベタと触るおじいさんがいた。

苦情が頻発し、普段の拓哉なら優しく接するところを、忙しかった事もあり、ぞんざいな扱いで追い払ってしまった。

後になって自分の振る舞いに後悔したが、時間を戻すことはできない。


次の日、弁護士がやってきて拓哉を名誉毀損で訴えると告げられた。

実は汚い格好のおじいさんは資産家だったとの事だ。拓哉は二度と同じ過ちは繰り返さないと神に誓った。


次からは、拓哉はより慎重に誰にでも優しくする事を心掛けた。

どこで神様が見ているか分かったものじゃない。

お陰で拓哉の支店の売上がトップになり、社長賞を受賞することができた。


拓哉には誰にも言えない秘密があった。


幼い頃から人に優しくしてきた反動で、本当は誰のことも大嫌いだったのだ。

そのストレスがじわじわと拓哉の心を蝕んでいった。


ある日、拓哉は繁華街で大量殺人事件を起こし15人の命を奪った。

裁判の後、死刑判決を受けた。あの世で閻魔大王に言われた。


人に優しくするのは、お前の世界では美徳だろうが、こちらから見ると、下心で自分の利益をひたすら追求する悪行の場合がほとんどなのだ。


今まで見てきた人間で、本当に人に優しくできたのはガンジーだけだった。

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