嘘の代償
安田には特殊能力がある。
人の心の中を見透す能力だ。物心がついた頃からあり、それが当たり前だと思っていた。子供の頃は、人を助ける事に能力を使い皆から人気があった。
小学生の高学年になった時、状況が変わった。友達の心の中と、言っている事が違ってきたのである。その上、そのことを指摘すると、腹を立てて否定するのだ。安田は、心の中と、言っている事が違わない友達とだけ、付き合うようになった。
社会人になると、ある法則に気がついた。自分に嘘をつく人は、世渡りが上手い事だ。嘘も方便というが、嘘をついたほうが、出世も早い。しかし、安田は嘘を付く気にはなれなかった。
しばらくすると、安田にだけ裏表のある人間の顔が醜く歪んでいるのが判った。周りの人達は全く気付かないようだ。そして、その歪みのまま一年を過ぎる頃になると、顔色がどす黒くなり、目が真っ赤になったかと思うと、体調を崩し、入院や休職をしてしまう。
いくら出世が早くても、体を壊しては元も子もない。なぜ体を壊すのか、安田にはよく解った。
最初に言ったように、彼の目には人の心の中身がよく見えているのだ。
すべての人の、胸の真ん中あたりには、魂がある。その人が嘘をつくたびに、魂が苦しそうに小さくなる。それを、四六時中やっているのだから、体を壊さないほうがおかしい。安田には、それを一年も、体を壊すまでやっているのは尊敬に値すると思えるくらいだ。
どうして、そこまでして嘘をつくのか。
多くの人にとって、全く嘘に自覚が無いのだ。だから、なぜ体が不調なのか不思議でならない。
彼は多くの人が苦しんでいるのを見かねて、クリニックのようなものを計画している。しかし、それは失敗するであろう。
彼が小学生の時に経験した事と全く同じだ。
“人は嘘を指摘された時、一番腹を立てるのだ”
彼らの魂が救われる事も、体の不調が和らぐ事も、永遠にないであろう。
皆様の中で、体が不調の方はお気をつけください。あなたは嘘をついていないか聞かれて腹を立てませんか?
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