悲しみの対処法

高橋夫妻は交通事故で小学1年の一人息子を失った。



老人の運転する車の信号無視が原因だった。



とてつもない悲しみが夫婦を襲う。

この悲しみは千年経っても癒える物ではない。



「老人を殺しても息子は帰って来ないが、気持ちは楽になるだろうか?」


「神を恨んで自暴自棄な生活をするか、いっそ自殺しようか?」



答えなど見つかるはずも無い。




世界中には不幸な出来事に溢れている。



しかし、可能性がある限り、それは起こり得る。


「これは、可哀想だから、なしにしよう。」


などと、神様が調整してくれるものでは無い。



なぜなら、この世は、物理法則で成り立っているからだ。


人の願いなどによって、法則が調整されるとなると、カオスの世界が訪れる。


子供の死より酷い、子供を含む全世界の存続の危機になるのだ。




もし、夫婦が悲しみに明け暮れて、老人を恨みながら生きていくとしよう。


夫婦は物理法則によって、この後、不幸な人生送るであろう。


それでも良いと言うかもしれないが、もう一つの悲劇が追加されるだけだ。




高橋夫婦は話し合ってある決断をした。




彼らが選んだ道は、「忘れる」ということだった。


有名な催眠術師に頼んで、子供の記憶を完全に消してもらった。




子供がかわいそうだという人がいるだろう。



しかし、忘れるという選択は、もう一つの悲劇を追加するより残酷なことだろうか?

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