人生最後の夢
三谷浩二は、独身の40歳、高校卒業から無駄遣いせず、真面目に仕事を続けたかいあって、老後の資金が出来たのでリタイヤする事にした。
すべての楽しみを諦めて、ひたすら働いてお金を貯めたのは、ずっと憧れていたキャンピングカー日本一周旅行をする為だ。
最初は、観光気分で楽しかったのだが、すぐに飽きてきた。観光旅行は、仕事の合間にするからこそ楽しいのだ。人生そのものが観光旅行になってしまっては、風天の寅さんのようで、旅が苦痛になる。
やはり、人生には目的や、やりがいが必要なのだ。いろいろ考えたが、何も浮かばない。現役時代はあんなに憧れた、老後の気ままな暮らしが、こうも味気ないものなのかと愕然とした。
三谷の希望は絶望に変わった。人里離れた山道で、排ガスを室内にホースで繋ぎ、自殺をしようとした。
意識が虚ろになっていく中で、突然ひらめいた。開き直って、風天の寅さんのようにテキ屋をすることにした。何を売ろうかと考えた末、移動式カフェに決めた。豆を仕入れて、ローストする本格的な機材と家具も購入し、お洒落なカフェが完成した。BGMはおしゃれなジャズが流れている。
全国を転々とし、長くて一ヶ月位、滞在した。コーヒーを飲みながらの色々な人との会話は、三谷の生きがいになった。
そして、公にできる範囲の内容で、出来事をブログで発信するようになった。まったりとした内容が人気を呼び、購読者は50万人を超え、先々で声をかけられるようになった。
40歳まで続けた仕事は、会社と家の往復で、新しい出合いは全く無い虚しい人生だったが、今は毎日が、新しい出会いの連続で、幸せいっぱいで最高の気分だ。
明るい光の中で、至福の幸せに包まれながら我に返った。
あの人里離れた山道での、自殺の最中であった。
三谷の孤独で虚しい一生を補填するかの様に、人生最後の夢を見たのであった。
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