太古からのメッセージ

慎二の趣味は化石の収集だ。


化石と言っても、小さいサイズのアンモナイトや虫の入った琥珀などだ。


毎夜、グラスを片手に、化石を眺めながら、人間が誕生する遥か前の世界に、思いを馳せることが、慎二の習慣になっている。


その日も、ほろ酔い気分で、今にも動きなしそうな、琥珀の中の虫を眺めていた時、ふっと、体が軽くなったかと思うと、熱い空気と、騒がしい虫や鳥の鳴き声が、一気に慎二の体に押し寄せてきた。あまりの恐怖に悲鳴を上げて我に返ったが、いつもの部屋の中だった。


それ以来、事あるごとに、あの感覚を味わう瞬間が増えてきた。なんとも言えない、蒸し暑く、濃い空気、甲高い生き物の鳴き声、まるでジャングルの中にいるようだ。慎二には、これが太古の世界だと直感で分かっていた。


あんなに憧れた太古の世界が、肌で味わうと、こんなにも恐怖なのかと愕然とした。できることなら、こんな感覚はもう味わいたくないと、化石をすべて捨ててしまった。しかし、あの奇妙な感覚は、日増しに増えるばかりだ。慎二には、もう嫌な予感しかしない。


ある朝目覚めると、慎二の予感は的中していた。彼は小高い丘にいたが、周りは、まさにジェラシックパークそのものだ。彼は火をおこしサバイバル生活にはいったが、思ったより快適だった。古代の虫は、見た目からは想像もつかないくらい美味しいし、動きが遅く取り放題で、食料に困ることはない。夜も温かいので凍えることはない。


慎二がこの世界に来て10年が経った。川沿いの、果物の多い場所に小さな家を建てた。恐竜も手なづけてペットにしている。元の世界には戻りたくはないが、自分が存在した証となる、お墓のようなものを残そうかと考えている。




誰が作ったか謎で、巨大な石が並んだストーンヘンジだが、実はペットの恐竜が、慎二の指示で作ったものだったのだ。もし、石を解体すると、土に埋まっている部分に、慎二の名が刻まれているという。

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