上司の人望

田中は優秀な営業マンだ。


売上は大体トップで、課長に昇格した。しかし彼には、管理能力が無く、部長から叱責を受ける毎日で、ストレスが限界を超えた。社長に直談判し、部長を取るか、自分を取るかを迫った。


人望の無い部長だったので、社員の多くは田中の味方をしてくれた。社長も、会社全体の士気を考慮して、田中を取った。


人望があって管理能力の無い田中が、人望の無いが管理能力のある部長を打ち負かした格好だ。どの世界でも、最後にものをいうのは人望かもしれない。


人望は、簡単に身に付く物では無い上に、希少価値がある。人からの信頼は、努力で何とかなる物では無い。渇望しても得られず、求めていない者でも授かる物だ。



しかし、会社組織の中での人望となると、話が違ってくる。計算をして、先を読む計算力が必要だ。田中は先を読んでいて、自分の売り上げを周りの営業マンに分け与え、先方で頂いた手土産も事務に分けていた。


部長は先を読まず、会社の利益だけを考えていたのだ。先を読んで、周りに媚びるのは卑怯な手だと思っていた。人は、目先の利益しか見えないものだ。しかし部長の本意など、誰も気にする者などいない。



かくて、田中の会社は、管理能力を失い、ミスを立て続けにおこし、裁判沙汰にもなったので、信用を失墜する事態になった。



どこの会社でも、社長はそれほど仕事をしていないのではないだろうか。しかし、こういう時こそ、物事の本質を見抜いて、社員に会社の方向性を示して、みんなを同じ方向に向かせる、大切な船長としての役割が社長にはある。

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