第33話「ダンジョン攻略開始」
長い廊下を歩き、突き当りの部屋に入ると、そこには真っ赤な結晶があった。
エルフの女性は案内を終えると「ご武運をお祈りいたします」と言って来た道を引き返す。その後ろ姿を見送り、扉が閉まると僕は赤い結晶に近づいた。
「それじゃ、いくよー」
他の二人に確認は取らず、迷わずに結晶に触れる。
するとクエストを受けているのか最後の確認が開始されて、それが終わると目の前に『転移しますか?』というメッセージ画面と『YES/NO』の選択肢が表示された。
YESをタッチしたら、身体が光の粒子に包まれて周囲の景色は違うものに変わる。
冷静に周囲を見回してみると、先程までいた木造の部屋はいつの間にか、全て年季の入った石造りの広い空間になっていた。
空気は湿度を含んでいるらしく、少しジメジメしている。鼻をつく臭いは、洞窟とかに入った時のカビ臭い感じに似ている。
しばらくしたら慣れるだろうということで、気を取り直した僕は二人に聞こえるように言った。
「……うん、無事に移動は終わったみたいだね」
「ここがダンジョンの中……」
広さ的には、六人のフルパーティが入っても余裕がある感じ。
明かりは天井に設置されている魔石が担っているが、たった一つでも光源としては十分であり部屋の隅々まで確認する事ができる。
ざっと見たところ、ベータ版の頃との違いは見当たらない。
「おい、アザリス。ここはまだ安全地帯だからゆっくりできるけど、うかつに部屋から出るとモンスターが湧いてくるから気を付けろよ」
「わかったわ、リュウ。……それにしても人の気配が全くしないけど、ここには私達しかいないのかしら?」
「その通り、ここには僕達しかいないよ」
部屋から出ないように、周囲を見て回るアザリスの疑問に僕は答えた。
「ゲームと同じ仕様なら、僕達以外にはプレイヤーはいないと思う。ここはゲームで説明するとインスタンスダンジョンって呼ばれる場所で、分かりやすく言うとクエストを受けた僕達の為に作られた専用の場所なんだ」
「私達の為に作られた専用の場所?」
イマイチ理解できていない様子のアザリスに、僕は詳しく説明をする事にした。
「例えば僕達がクエストを受けて、今このダンジョンに入ったとする。そこでもしも他のプレイヤーと共有していた場合、その人達がボスを倒したら何もしていないのにクエストクリアになっちゃうだろ。そういった事が起きないように、このダンジョンは毎回クエストを受けるとその受けたプレイヤーの為に作成されるようになっているんだ」
「なるほど、そういう事ね」
頭の良いアザリスは、すぐに仕組みを理解したらしい。
彼女はストレージから金色の槍〈ツクヨミ〉を取り出し、軽く準備運動を始めた。
リュウも〈ギガンテ・ソード〉を手にすると、いつでも戦えると言わんばかりに此方を見てくる。
これでパーティーの戦闘準備は万端、後は覚悟を決めて部屋から出るだけだ。
「それじゃ、行こうか」
魔剣〈レーバテイン〉を手にした僕は、先頭になると安全地帯から出た。
その瞬間に淡い光が発生して、モンスターが前方の離れた位置にポップする。
敵の姿は大きな木に手足が生えたような存在で、ファンタジーだと良く見かける森の代表的なモンスターの一体〈トレント〉である。
レベルが30と、初っ端から出現した格上の存在に自分は迷わず突っ込んだ。
「シアン!?」
『TOREEEEEEEEEEEEEEEEEEE!』
びっくりするアザリスの声を背に、接近する僕を確認した敵は威嚇しながら、根っこを槍のような形状にして放って来る。
その数は十本以上もあり、見たところ左右にステップ回避するのは難しい。
左右が無理なら──選ぶのは下だ!
走りながら即座に身を低くすると、勢い良くスライディングをした。敵の攻撃はギリギリ頭上を通過して、なんとか回避する事に成功する。
そのまま一気に接近すると、手にした魔剣に炎を纏わせ跳び上がりながら最速のモーションで火属性の魔法剣技を発動させた。
「ハッ!」
左から横薙ぎの一撃、〈ファイア・ストレイト〉を放つ。
胴体に受けた〈トレント〉は、弱点属性と魔剣の攻撃力によってHPが半分まで減少。
自分は大木の真横を通り過ぎ、そのまま背後に回ると消えない炎を刃に纏いながら、流れるように右下段に構えた刃を左上に振り抜く斬撃〈ファイア・インクライン〉に繋げた。
灼熱の斜線を刻まれた〈トレント〉は、HPがゼロになり光の粒子になる。あっという間に、敵を瞬殺した光景にアザリスとリュウは驚きの声を上げた。
「ウソ! レベル30を、たった二撃で倒しちゃった⁉」
「動きのキレも、昨日より更にましてやがるな……」
「ふふん、これがレベル25になった〈魔法剣士〉の力だよ」
初級の魔法剣技は、同じ属性を連続で使う事はできない。
だけど中級に至った事で、持続時間が発生するようになった。その間に上手くスキルを繋げれば、最大で四連撃まで魔法剣技を使用することが可能なのだ。
しかも〈ソウルワールド〉の連続攻撃は、その回数に応じて威力が増していく。
現状で四連撃まで繋げた場合、魔法剣技の威力は──例えば昨日相手にしたエリアボスならば、一本目を削り切る事が可能だろう。
「更に凄いのは、それだけじゃないよ」
通路の先から姿を現し、此方に向かって来る三体のクモ型モンスター〈フォレスト・スパイダー〉を見た僕は、魔剣を構えて風属性と火属性を刃に展開させた。
二つの属性は魔剣を媒体に一つになり、相克する事なく敵を討つ破壊の力となる。魔剣を横に構えた自分は、それを迫る三体の敵に向かって容赦なく振るった。
「魔法剣技──〈フレイム・ヴァンブレイド〉ッ!」
解き放った斬撃は、合計で三つ。
それは燃える三日月となって空間を飛び、愚直に接近する〈フォレスト・スパイダー〉を切り裂き、その身を炎で包み燃やした。
敵のレベルは30だったが、中級の魔法剣技と魔剣の組み合わせによる威力は想像以上で、追撃の構えをしている間に三体とも光の粒子となった。
レベルが26に上がり、パーティを組んでいるリュウとアザリスもレベルが1上昇する。
「おお、流石はAクラスの魔剣だね。一撃で倒しちゃったよ」
「す……凄すぎて、開いた口が塞がらないわ……」
「ベータ版の頃よりも、ヤバい火力を軽々出しやがるな……」
格上三体を瞬殺した僕の力に、同じベータプレイヤーであるリュウは苦々しい顔をした。
確かに魔剣のお陰で、あの頃の〈魔法剣士〉よりも各段に強い。
彼の言葉に同意しながら、僕はメニュー画面を開きスキルの状況を確認した。
「ふむふむ。二重付与のクールタイムは五倍だから、普通の《魔法剣士》は中級魔法剣技を使ったら九百秒……再使用に最低でも十五分は掛かる事になるね。僕は称号の力で一分三十秒まで短縮されるから問題ないけど、他のプレイヤーは本当に使い辛くなってる」
「ナーフしろって他の火力職から言われまくってたけど、そこまで極端な下方修正されると逆に可哀そうになるぞ」
「確かに、何か理由があるのかな──アザリスッ!」
彼女の背後から接近していた、鎧を纏ったガイコツ型のモンスター〈スクレット・ソルダ〉にいち早く気付いた自分は、素早く前に出て槍の突進攻撃をパリィで弾く。
そこから光属性の魔法剣技を発動すると、鋭い二連撃を叩き込んで光の粒子に変えた。
だが湧いてきたのは、ガイコツの兵士だけではないようだ。
通路の先に〈トレント〉や〈フォレスト・スパイダー〉が続々と湧いてくるのを確認した僕は、話を一旦止めて先に進む事を提案した。
「このまま最下層まで下りて、ダンジョンボスを倒そう!」
「「了解よ(だ)!」」
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