第34話「廃人によるダンジョンボス攻略」

 ダンジョンの構造は幸いにも、ベータ版からの大きな変更はなかった。


 僕は先頭で慣れた通路を走り、遭遇するモンスターを初級の魔法剣技で片っ端から処理する。


 数が多くて対応しきれない時は、二番目に攻撃力が高く速度に優れているアザリスが、手にした槍〈ツクヨミ〉でサポートしてくれた。


 後方から来る敵はリュウが担当して、僕達は息の合った連携で大きなピンチに陥る事なくダンジョンの最下層に到着する事ができた。


 そこで待っていたのは、今回の目的であり自分達の経験値となる大きなクモ型のボスモンスター〈フォレスト・スパイダー・クイーン〉である。


 道中で予め作戦を伝えていた僕は、大きなフロアに足を踏み入れる前に、同時に道中で稼いでいたオメガゲージの全てを消費する。


 中に入ると、同時に発動準備を終えた奥義〈メテオール・シュナイデン〉を解き放った。


「先手必勝!」


 純白の一撃が綺麗に敵の頭に直撃し、完全に不意打ちを受けたボスモンスターは三本あるHPの内一本と半分を一気に消し飛ばした。

 ベータ版では魔剣無しで一本を半分削るくらいが限界であったが、まさか魔剣のバフが加わるだけで倍以上の威力になるとは。

 自分でも内心ドン引きしていると、その横をリュウが走り抜ける。


「オメガスキルとはいえ、あのクソ硬いクモの外殻の上から半分削るってマジかよ!」


 目の前で起きた現象に驚きながら、リュウは全力で真っ直ぐにボスを目指した。


 大ダメージを受けた巨大クモは、綺麗にひっくり返ってスタンしている。


 この大チャンスを利用して安全に接近した彼は〈守護騎士〉のオメガスキル〈オーバードライブ・ノヴァ〉を発動すると、跳躍と同時に露出している腹に手にした大剣を大きく振りかぶり、渾身の一撃を叩き込んだ。


『GYAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAッ⁉』


「やべぇ! 特殊技が来るぞ!」


 連続で奥義技を受けたボスは、合計で二本と半分が無くなる。ベータ版の頃では、同じことをやっても一本半は残っていたので、驚異的な瞬間火力である。


 ボスのスタンが強制的に解除されると、全方位に毎秒5のダメージを発生させる毒ガスのエリアを展開した。


 アレはベータ版の頃に、初見のプレイヤー達を皆殺しにした凶悪な技だ。


 しかし、仲間に〈プリースト〉がいる事によって、その脅威度は大幅に下がる事になる。


「二人は私が守る──〈イクステンシブ・ディア・リバイバル〉ッ!」


 天にかざすように構えた槍から放たれた、金色の輝きが僕とリュウを優しく包み込む。


 そのオメガスキルの効果は、パーティーのHPとMPを全回復させた後に、一定時間の再生効果を付与して更には一定時間〝状態異常とスキル硬直〟を無効にするというもの。


 正に〈ソウルワールド〉最強の回復スキルと言っても過言ではない支援を貰った自分とリュウは、武器を構えて毒エリアの中でボスと向き合い最期の仕上に入った。


「接近して魔法剣技で削り切る。リュウ、敵の注意を引き付けてくれ!」


「了解だ! ──こっちを見やがれクモ野郎!」


 スキル〈挑発〉を発動させたリュウに、敵の注意が引き付けられる。


 鋭い足先のラッシュ攻撃を、全て左手に持った盾でパリィする頼もしい親友の姿を視界の端に捉えながら、僕は上手く敵の下に潜り込んで火属性の魔法剣技を発動させた。


「これで、終わりだあああああああああああああ!」


 足を止めずに突き技を腹の中心に叩き込み、そこから垂直に切り下ろす斬撃に繋げる。


 連撃ボーナスで威力が増した炎の魔剣を握り締め、まるで炎舞のように魔剣を振るいながら、最期に止めとなる左から右に薙ぎ払う一撃を叩き込んだ。


 深紅に燃える刃が、巨大なクモの胴体を両断する。


 HPがゼロになったダンジョンボスは、身体が崩壊を始めて光の粒子となった。


 ボスを倒した事で、大量の経験値を得て自分のレベルは30になった。


 メニュー画面でレアなアイテムがドロップしたのを確認した後、駆け寄って来た二人に僕は今後のスケジュールを語る事にした。


「流石はダンジョンボス、良い経験値が入るね。……というわけで、今日から三人ともレベル50になるまで〈フォレスト・リュイン〉の攻略を繰り返し行おうと思うけど良いかな?」


「私はシアンのパートナーだから、その方針に従うわ」


「ここなら他のプレイヤーと、リソースの奪い合いする事はないからな。それに現環境でこれ以上のレベリングと、資金からSPまで稼ぐ方法は無いから大賛成だ」


「良し! それじゃ、三人で稼ぎまくるぞ!」


「「おおーっ!」」


 拳を天高く突き上げる僕達。

 そんな中、最後に散ったクモの頭部が絶望感を漂わせていたのは、多分気のせいだろう。

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