第8話「浴室の美少女達」

 外に出かけるという事で、先ず一週間も風呂に入ってない身体を綺麗にする事になった。


 最初は一人で洗うと言ったのだけど、入浴中に何かあってはいけないと監視役と指導役を兼ねて、ユウも水着で入って来た。


 その際に自分の身体をしっかり確認したのだけど、やはり男の時にあった一部分が消失していた事実を、改めて受け入れる事となった。


「いやー。ほんと、もの凄い美少女になっちゃったわね」


「うん、そうだね……」


 目の前の大きな鏡に映るのは、衣服を一つも着ていない白髪の少女と、泡の付いたスポンジを手にしたスクール水着を身に纏うユウの姿だ。


 身体のラインが見事に出る競泳水着は、なんだか裸とかよりもエロく見えてしまうのは気のせいか?


 それなりに大きく形の良い胸、綺麗な身体のラインは一種の芸術品のように見える。


 だげどそれは──今は自分にも当てはまる言葉であった。


 今までゲーム内で裸になるなんて事が無かったので知らなかったのだが、こうしてみると白髪の少女はユウに負けず劣らず、足の爪先から頭の天辺まで完璧な造形である。


 しかもこの身体の魅力は女性にも通じるらしく、シャワーヘッドを片手に僕の身体についた泡を洗い落としながら、ユウが鼻息を荒くしてこう言った。


「はぁはぁ、これは絶対に言い寄る男達が出てくるから、私がアオを守らなきゃ……」


「ゆ、ユウさん、目が怖いですよ?」


「アオも男の子なんだからわかるでしょ。こんな可愛い女の子が道端を歩いていたら、ほっとく男なんていないわよ」


「ユウさーん。言いたい事は分かるけど、今は君が一番危ない目をしてるからね?」


「私は良いのよ、女の子だから」


「そういえば何も言えなくなるんだから、ずるいよね……」


「特権はフルに使わなきゃ。はーい、次は前を向いて──きゃあ⁉」


「ぬぎゃ⁉」


 足を滑らせたユウに巻き込まれ、自分も盛大にタイル張りの床にすっ転んだ。


 背中を強く打ったが、痛みよりも顔面に全体重をかけて押し付けられる二つの膨らみの感触に、全神経が集中される。


「や、いやちょ、アオそれはダメ!」


「ムガヌグモゴ⁉」


 何やら色っぽい声を出しておられるが、一方で胸の下敷きになっている自分は、完全に酸素が足りない状況に陥ってそれどころではなかった。


 数分間くらい時間を掛けて、何とか窒息死寸前の状況から抜け出すことに成功すると、何故かユウが息を荒くして此方を半目で睨みつけてきた。


「アオのエッチ!」


「っ⁉ いきなりどうしたの⁉」


 何があったのか聞くけど、彼女は恥ずかしくて言えないと詳細は教えてくれなかった。


 それから少しだけ気まずい雰囲気になったユウと共に風呂を済ませると、浴室から出て脱衣所で身体を拭くことにした。


 僕が身体を拭いている背後では、ユウが水着を脱ぐ音が聞こえる。


 背後で好きな幼馴染が素っ裸でいる事を妄想すると、なんだか非常に落ち着かない気持ちになった。


 一人で悶々としているとタオルを洗濯機に放り込み、彼女が事前に準備してくれていた新品のスポーツブラジャーを、嫌々ながらも身に着けて下にはボクサーパンツを穿く。


 後は一回り大きくなったTシャツと短パンという無難な格好になり、目立つ白髪の髪は取りあえず、母の部屋にあった麦わら帽子で隠すことになった。


 隣でユウは僕の為に準備していたらしいワンピースとか、普通の女の子が着そうなフリルのついた服を手にしながら、全力で拒絶したので実に残念そうな顔をしている。


 今回は外に出掛けるから恥ずかしくて着ないけど、側にいてくれた恩もあるので今度二人っきりの時に着てあげる事を約束したら、ユウは機嫌を良くして大喜びした。


「やったー!」


「ははは、程々にしてね……」


 ちなみに身だしなみを整えた僕を見た竜司は、何て反応したら良いのか分からなくて、とても困ったような顔をしていた。


 彼がそうなるのも、当たり前だ。


 もしも逆の立場になったら、親友が美少女になって困っている所に「可愛い」なんて相手の心をえぐるような感想を、気軽に口にできるだろうか?


 答えは、当然──NOである。


 だから竜司は無言で頷くと、


「俺は玄関で待ってるから、準備が終わったら来いよ。……あ、それとVRNだけは絶対に忘れずに持って来てくれ。アレが無いと手続きができないからな」


 とだけ言って、まるで逃げるように、足早で玄関に向かって姿を消した。


 その後ろ姿を眺めながら、ユウは苦笑した。


「……いつも冷静なアイツが困る姿、初めて見たわね」


「うん、そうだね」


 この後一週間も寝ていたという事で、ユウが用意した薄味の小粥(おかゆ)を食べさせられた。


 後は日差しが強いからとの事で、半ば強引に日焼け止めを塗られると、竜司に言われた通りにVRNをショルダーバッグに入れて手に持つ。


 出発する準備を終えたら、僕は二人と家を出て神殿のある方角に向かった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る