第42話「絶望の一撃」

 自分が使用するスキルは、水平切りの中級魔法剣技〈ルミエール・フレイムリカムベント〉。


 パーティーの先頭を走りながら、放った横薙ぎの一撃が〈デゼスプワール〉のHPを削り、先程と同じように仲間達が攻撃を加えていく。


 敵のヘイトが此方に向くと、一番近い位置にいたガルディアン率いる防御隊が率先して間に割り込んだ。


 彼らは〈デゼスプワール〉が繰り出す長剣による連続攻撃を、握った盾で巧みに受け切ってみせる。スキルの使用が終了すると、敵はわずかな硬直状態に入った。


「ナイスガード!」


「おお、白姫様にお声を掛けて頂けるとは!」


「我が生涯に、一片の悔いなし!」


 なにやら変なテンションで、他の攻撃隊と入れ替わりながら、白マントの騎士達が握った右拳を小刻みに震わせる。


 ……ああ、そういえば彼らは『白髪愛好家』だった。


 僕は安全なラインまで下がりながら、大げさに喜ぶ彼等に思わず苦笑してしまった。


 防禦隊の白騎士達に疲れは見えるけど、彼等は僕を見ると「白姫様に勝利を!」と変な叫び声を上げて次々にボスの攻撃を受けに行く。


 実にシュールな光景だけど、攻撃を受ける高い技術と連携は見事なモノである。


 追い詰める事で、新たに増えた敵の範囲技は実に厄介だったが、やはり防御に特化しているプレイヤー達が安定して受けてくれるのは心強い。


 それに〈ソウル・ナイツ〉のメンバー達の攻撃力と、危険を冒さない堅実な立ち回りも、素晴らしいとしか言いようがない程だった。


 僕達も皆と協力して立ち向かい、無敗の獣騎士は巧みなコンビネーションによって、遂に二本目が消失する所までやってきた。


「もう二本目が無くなるぞ、これなら行けそうだな!」


「おいリュウ、こんな所で負けフラグを立てるんじゃ……」


 次の攻撃準備をする親友に、僕が注意したその時だった。


 ボスに〈ソウル・ナイツ〉の攻撃隊がダメージを与え、──二本目のHPが消失した。


 即座にガルディアンは後退の指示を出し、それに従った全部隊は一旦敵から離れ、次に何が来ても対応できるように警戒する。


 視線の先では、獣の騎士が身に纏っていた漆黒の鎧にピシッと亀裂が入り、その隙間から真っ黒な瘴気が広範囲に噴き出した。


 近くにいた多くのプレイヤー達は、その霧を正面から浴びて『衰弱』のデバフを受ける。

衰弱とは、ステータスが減少する状態異常だ。


 しかも、その範囲は広く〈ヴァルト・コボルドナイト〉にも付与されていた。


 慌てて仲間の《プリースト》達が、デバフを解除するスキルを使用する。


 その間に〈デゼスプワール〉の変化は進み、身に着けていた上半身の鎧が砕け散って地面に落ちる。すると頭部から肩にかけて、純白の長い鬣(たてがみ)が露出した。


「ちょっと、何か嫌な予感がするんだけど」


「ああ、俺もアザリスと同意見だ」


「……ボス戦で良くある、最終形態ってやつですね」


 風になびく純白の毛が眩い光を放ち、それに連動するように〈デゼスプワール〉が手にしている黒い長剣が、禍々しい漆黒のエフェクトを纏った。


 そこから感じる圧は、オメガスキルに匹敵する程に強かった。


 何らかの大技が来ると察知した僕は、指揮官のガルディアンの存在を無視して、この場に居る全員に聞こえるように大声を上げた。


「みんな、今すぐ全力で避けろぉ!」


 その声を聞いたトッププレイヤー達は、即座に理解して回避行動に移った。


 だが敵のスキル発動準備は終わったらしく、皆が避けようと行動する中で、絶望の獣騎士は長剣を構えたまま居合切りのように姿勢を低くし、挑戦者達に死を告げた。


『極限ナル絶望ヲ──〈デスペア・シュナイデン〉』


 光を放つ漆黒の剣は、左から右に振り抜かれる。


 絶望を冠する漆黒の斬撃は、文字通り全てを例外なく切り裂いた。


 前方の攻略パーティーの部隊が、構えた盾ごと悲鳴を上げて消えていく。そして同じモンスターである〈ヴァルト・コボルドナイト〉も同様に、切り裂かれ消滅した。


「アザリス、危ない!」


 全てがスローモーションのように見える中で、とっさに僕は隣にいたアザリスを掴み、死を運ぶ凶刃を避けるために地面に押し倒した。


「シアン⁉」


 勢いよく地面に倒れると、ギリギリで頭上を通過した斬撃から発生している衝撃波に横から強く殴られ、その場から彼女と共に吹っ飛ばされた。


 数メートルほどアザリスと地面を転がり、HPが半減すると同時に、ゲージの下側に点滅するデバフアイコンが出現する。


 これは一分間だけ意識を失う、ユニークボス専用の状態異常『失神』だ。


 過去にベータで、一度だけ受けた最悪なデバフに思わず舌打ちをする。


 抗う事もできずに、僕の意識は暗い闇の中に落ちた。

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