第43話「不思議な夢」
目を覚ますと、そこは戦場ではなく知らない森の中だった。
上空は青い晴天。人の手で綺麗に整備された広場みたいな場所で、真っ白な花畑の真ん中に立っている僕は、この現状を全く理解できなくて呆然となる。
顔は動かせるが、手足は一ミリも動かせない。
努めて冷静に周囲を見回したところ、咲いている白い花が淡い光を放ち、六枚の花弁は母が大好きなユリの花に酷似している事だけが分かった。
初めて見たはずなのに、初めて見た気がしない。
この不思議な感覚に、戸惑いながらもボーっと眺めていたら、
遠くから誰かが歩いて来た。
その人物を見た僕は、思わずギョッとする。
何故ならばその人物は、鎧を纏った人狼──現在仲間達と共に戦っている最中のユニークボス、獣騎士〈デゼスプワール〉だったから。
とは言っても、そうだと判断できたのは見た目が似ていたからだ。
鎧は漆黒ではなく鮮やかな緑色だし、相対するプレイヤー達に向けていた殺意に満ちていた瞳は、今は信じられない程に穏やかである。
はっきり言って、記憶しているヤツと全てが真逆すぎた。
少しだけ警戒する僕に対し、獣騎士はゆっくりとした足取りで目の前に立ち止まると、その場に膝を着いて
『姫様、護衛も付けずに、またお一人でこのような場所に来られたのですか』
「……?」
言葉の意味が分からず、思わずキョトンとしてしまう。
人違いじゃないかと獣騎士に言おうとするけど、口は何かに縫い付けられているかのように硬く閉ざされ、どんなに力を込めても開くことはできなかった。
仕方なく無言でいると〈デゼスプワール〉は首を左右に振り、小さな溜め息を吐いた。
『その様子ですと、また金色の姉君とケンカをされたのですね。……どうして分かるのかですかって? それは昔から姫様が、何かあると気持ちを落ち着ける為に、姉君達と育てられたこの花畑に足を運ばれるからですよ』
まるで我が子を諭すように語る〈デゼスプワール〉は、苦笑して立ち上がる。
彼は歩み寄り右手を上げ、僕の頭を軽く撫でおろすと、次にこう言った。
『それともう一つ。普段は笑顔の姫様が落ち込んでいたら、この世界にいる者は誰だって何かあったなと気が付きます。我々は姫様を心より慕っていますので』
……どうしてだろう。
獣騎士が話している内容は、自分には全く分からない。
だけど、こうして彼と対面していると、どこか懐かしく感じてしまう。
例えるなら、まるで旧友と何十年かぶりの再会をしたような心境だった。
敵同士だというのに、この不思議な感覚は一体何なんだろう。
話をしてみたいが、それでも口を開くことができない僕は、ただ無言で〈デゼスプワール〉の話を聞いている事しかできなかった。
最後に獣騎士は、僕に向けていた優しい顔に、少しだけ真剣味を帯びると、
『姫様、金色の姉君を責めてはいけません。あの方が決めた事は、配下である我々の総意なのですから。……そして、その決定をどうか許して下さい。何故なら姫様は、我々にとって最後の希望なのです』
【──条件を達成しました。これよりソウルの第一封印を解除します】
この夢を見たことがトリガーとなったのか、どこか懐かしい少女のアナウンスと共に、僕の中で何かが解放された。
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