第44話「ソウル・アンリミテッド」

「封印って、なんだそれ……」


 気が付けば、目の前には真っ暗な曇り空が広がっていた。


 どうやら夢を見ていたようだが、内容は全く思い出す事ができない。


 少しぼんやりしていると、耳に沢山の人達の声が聞こえて来る。


 地面は軽く振動し、スキルが衝突する激しい音が何度も周囲に響き渡っていた。


「ああ、そういえば戦いの最中で、僕は敵の攻撃を受けて……」


 視界の右上端にあるHPは、気を失う前は半減していたはずだが、今は全回復している。


 受けているデバフアイコンは一つも無く、手足は問題なく動かせる事が確認できた。


 身体を起こすと、そこでは仲間達が奮闘している光景があった。


「シアンが目覚めるまで、休まずに攻撃を繰り返すわよ!」


「おう! 遅れんじゃないぞイグニス!」


「誰に向かって言ってるんですか! そちらこそ、遅れないで下さい!」


 人数を半分まで減らした防御隊と入れ替わり、アザリス達が勢いよく前に飛び出す。


 三人はそれぞれ研ぎ澄ました一撃を叩き込み、直ぐに硬直から立ち直った敵の猛反撃をステップで回避しながら、その場から全力の離脱を試みる。


 すると恐ろしい突進で追いかける〈デゼスプワール〉の前に、三人の白騎士が盾を構え、凶刃から守る為に立ちはだかった。


 彼らは気合の入った雄叫びを上げ、スキルエフェクトで輝く長剣の三連続攻撃を受ける。


 一撃目を耐える事は出来たが、続く二撃目で盾を弾き飛ばされた。


 最期に広範囲薙ぎ払いを受けて、全員HPがゼロになると、その身体を光の粒子に変えた。


「オマエ等、すまねぇ!」


 謝罪しながらリュウ達は体勢を整え、再度〈デゼスプワール〉に突進をする。


 一度攻撃を仕掛けた部隊が、再度仕掛けに行くとは。


 これは一体どういう状況なのかと、周囲を見回してみる。


 見える範囲では、確認できる部隊はガルディアン含め三人編成の防御隊が四セット、攻撃隊がアザリス達三人だけで、他には支援隊の女性達が三人いるくらいだった。


「これは、壊滅状態じゃないか。まさかあの時の攻撃で……」


「白姫様、それは違います」


 僕の呟きを否定したのは、一本角の白騎士ことガルディアンだった。


 彼は少なくなった部隊に指示を出して、孤軍奮闘するアザリス達を〈デゼスプワール〉の攻撃から絶妙なタイミングで守った。


「……あの時の特殊全体攻撃では、部隊は半壊で済みました。ですが、その後のステータスが向上した敵との激しい攻防戦で、攻撃隊は彼等を除いて全滅、受けきる事が難しくなり防御隊も更に数を削られました。これが白姫様が気を失って、実に十分の間にあった出来事です」


「じゅ、十分も、僕は眠っていたのか……ッ」


 余りにも衝撃的な話に、ビックリして立ち上がった。


 よく見ると、〈デゼスプワール〉のラスト一本のHPが残り半分になろうとしている。


 アザリス達の攻撃で減少する量は、見たところ大体数ミリ単位なので、倒すには恐らく十回以上のアタックを要するだろう。


 また一つ防御隊が、受け切ることが出来ずに光の粒子になるのを見て、僕はそんなに何度も攻撃を行うチャンスはないと思った。


「分かりましたか。お察しの通り、このままでは我々は勝てないでしょう」


「し、指揮官が、それを口にするのは……」


「事実ですから、仕方がありません。実際にここから、アレを削り切る事が難しいのは戦っている全員が理解していますし。今の状況を言うならば、少しでも敵の情報を探り次に生かすのが一番でしょう」


 ……彼の言う事は、何一つとして間違っていない。


 攻略が困難となれば無理はせず、次に確実に勝てるように情報を少しでも集めるのは、MMORPGでは良くある事だから。


 でも何故だろう。目を覚まして〈デゼスプワール〉が戦う姿を見た僕は、先程から胸の内に例えようが無いほどに切ない感情が渦巻いていた。


 それは──『絶望』に苦しむ彼を早く、解き放ってあげたいという不思議な感情だった。


 どうしてMOBに対し、こんな事を胸の内に抱いているのかは全く分からない。


 気を失う前は、そんな事一つも考えていなかったのに。


 自分でも、説明することが出来ない息苦しさに、思わす顔が歪んでしまう。


 ──そんな時だった。魔剣を手にしている右手の甲が、眩い緑色の輝きを放った。


【第一封印の解除を完了。それによって、ユニークスキルを獲得しました】


「な、なに? 封印?」


 突然のアナウンスに驚いて、僕は光っている右手に視線を向ける。


 そこには見たことが無い、七つの角を持つ星型多角形〈七芒星セプタグラム〉が浮き上がっていた。


 これは何だと凝視すると、目の前にウィンドウ画面が出現する。


「ユニークスキル〈ソウル・アンリミテッド〉? 効果は、ソウルの力を解放することによって魔法属性の威力を、一度だけ大幅に上昇させる事が可能……」


 取得条件は『オリジンソウルの所有者が、ユニークボスのソウルメモリーの残滓に触れる事』と、全く心当たりが無い内容だった。


「……って、ちょっとまてよ。魔法属性の威力を一度だけ大幅に……まさか」


 少しだけ考えた後に、ハッと気が付いた。


 自分が選んだ〈魔法剣士〉のオメガスキルは、物理攻撃と魔法攻撃の複合技だ。


 この新たに入手した効果は、その威力を更に強化できる事を意味する。


 魔剣とスキルの力を合わせれば、残り半分の〈デゼスプワール〉のHPを削り切れるのではないか?


 そんな僕の考えに答えるかのように、右手の〈七芒星〉は再び緑色の光を放った。


 更に光りは輝きを増し、そこを中心に自分の全身に広がっていく。


 身体を包んだ光は優しく、どこか懐かしく感じる。


 全く思い出す事はできないが、胸の内側が満たされる感覚に自然と笑みが浮かんだ。


 前を向いた僕は、立ちふさがる討つべき標的を定めた。


 ──今ここに、最後のピースは揃った。


 決意して眦を吊り上げ、僕は必殺ゲージを消費しオメガスキルを始動させた。

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