第41話「善戦」
レベル60のガルディアンが主導する攻略は、ベータ版で僕達が〈デゼスプワール〉に蹂躙されていたのがウソみたいに、スムーズに運ぶことができた。
他の攻撃担当のパーティーが仕掛けている間に〈シュヴーブラン・ソシエテ〉のメンバーから聞いたのだが、やはりガルディアンは戦略ゲームのプロゲーマーらしい。
部隊の動かし方の上手さ。彼の指示でヘイトを常にコントロールして、重防具で固めたA~Cの三部隊が盾で〈デゼスプワール〉の攻撃を常に受け止める事に専念する。
それを回復する《プリースト》達は狙われないように常に移動をして、自分達を含め攻撃隊は彼の指示に従って攻撃を仕掛けていく。
難しい事は何もしていない。ただ単純に『攻撃』『防御』『回復』というゲームにおいて基本的で、最も効果のある三つの行動パターンをミス一つなくこなしているだけだ。
これを円滑に行う為に、ガルディアンは防御隊の動きをメインにして、敵が確実に硬直した場合のみ攻撃隊を前に出すようにしている。
もちろん、いくら防御力が髙くても〈デゼスプワール〉から受けるダメージは大きい。
リュウやガルディアンみたいに、上手く攻撃を受ければ軽減する事は可能だが、それは高い技術が必要であり全員が同じ事をできるわけではない。
その為に防御隊は、一回の受けで大体HPが半分ほど減少している。
だが即死しなければ〈プリースト〉のスキルで回復できる。だから支援隊は、常にマジックポーションを飲みながら、攻撃を受け続ける騎士達にスキルを使用し続けていた。
防御隊と入れ替わりながら、その光景に僕は感心してしまった。
「すごいね、もう二桁以上はポーションを使ってるよ。よほど時間と資金を投入しないとできない戦法だ」
「こういう時の為に、トップクランの殆どは高難易度クエストで資金を稼ぎまくっています。大量のアイテムを消費する準備はできているので、一番の要となる防御役と回復役を安心して任せられるんですよ」
「なるほど、たしかにそれは強い。でも普通は目立つ攻撃役をやりたがるもんだけど、〈シュヴーブラン・ソシエテ〉がサポートに徹してるのは、どうしてなんだろう……」
「それは彼等が、仲間の盾になりながら戦線を維持する事で、ボスの攻略を安定させる事を重視しているからです。MMORPGなんかでは、タンクは特に重要で責任が一番重く、人口が少ないですからね」
確かに攻撃隊に比べて、防御隊に入るプレイヤーはアイテムの消費量もだけど、装備を揃えるのに資金が桁違いに掛かる。
その中でもタンクは一番重要であり、常に敵の攻撃を受ける役なのでダメージを少しでも軽減する為に、鎧を常に最新の環境にする事が必須となっている。
オマケにミスをしたら、即座にパーティーが壊滅する一番の理由になりやすい。掛かるコストに比べ責任が重い為に、タンクを専任しているプレイヤーは貴重な存在だ。
「何度か〈シュヴーブラン・ソシエテ〉の攻略動画を視聴しましたけど、彼らの攻略の安定感は全クランの中で間違いなくトップです。……もちろん、ボク達〈ソウル・ナイツ〉も同じくらい、安定した攻略をしていますが」
「キミって、意外と負けず嫌いなんだね」
すまし顔のイグニスに、思わず笑ってしまった。
次に僕達がアタックする順番が来ると、攻撃を防いでディレイを入れたB防御隊と入れ替わり、ベストなタイミングで前に飛び出した。
敵の反撃を警戒し、一撃離脱を意識してボスの左脇腹に、横薙ぎの一撃を与える。
数秒間の硬直が解除される頃には、自分達はC防御隊の後方に退避した。
「ふぅ……。ベータ版の時には、一本すら削り切れなかったのに。そろそろ〈デゼスプワール〉のHPが二本目の半分に達しそうだね」
「優秀な指揮官がいると、こんなにも違うんだな」
「ベータでは、まともに指揮を執れる人いなかったから──ッ⁉」
リュウと会話をしていると、〈デゼスプワール〉が大きな咆哮を上げた。
『根源ナル闇ヨ! 我ニ更ナル絶望ノチカラヲオオオオオオオオオオオオオッ!』
他のパーティーが攻撃を仕掛けた事で、HPが二本目の半分に達したようだ。巨大な獣騎士は長剣に風を纏い、見たことが無い範囲技を解き放った。
目の前に巨大な漆黒の竜巻が発生し、高速で回転しながら接近してくる。それを見て、とっさに前に出た〈守護騎士〉と〈竜騎士〉達が、仲間の盾となった。
「「ぐぅ……ッ⁉」」
リュウとイグニスの二人は、僕達の前に出て竜巻を真正面から受け止める。
HPを八割近く削られながらも、その場に気合で踏み止まり、アザリスを含め〈プリースト〉達の回復を貰う事で、数秒間の地獄を何とか耐えきることに成功する。
「二人共、助かったよ!」
膝を着いた二人に、僕は礼を言った。
二人が前に出なかったら、今頃このパーティーは壊滅していただろう。
周囲を見回すと、どうやら全員乗り切る事ができたみたいだ。
しかし、防御隊には精神的な疲労がチラホラ見受けられる。ふと画面の端に表示されている時間を確認したところ、攻略が始まって既に一時間が経過していた。
いくら装備を整えても、やはりユニークボスを長時間相手にし続けるのは、普通の戦いよりも精神的な負担が大きいらしい。
「不味いね、これは少しのミスで総崩れするかも……」
「あんな怪物を相手にして、全く疲れないわけがないわよね」
少し焦りを含んだ僕の言葉に、アザリスが額に汗をにじませて同意する。
視線の先では〈デゼスプワール〉が長剣を手に、前に出たA防御隊に切り掛かった。
「ベータで無敗は伊達じゃないからな、──こうなったら少しでも多く削るぞ!」
「大丈夫です、ヤツを倒す為にボク達は準備をしてきましたから!」
A防御隊の皆は踏ん張り、気合を入れた盾で長剣を弾き返す。
それに合わせて、僕達は息を合わせて前に飛び出した。
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