第40話「堅城の双拳」
『──ッ⁉』
想定外の一撃だったのか、後ろに大きくノックバックした獣騎士はHPを僅かに減少させる。
反撃の一撃を放つも、攻めに転じた双拳士は大胆にも前に出て、拳で刃の側面を全力で打ち横に受け流す。
獣騎士の至近距離に迫ったガルディアンは、腰を低く落とし、引き絞った右拳を前に突き出した。
格闘スキルの強撃〈バーストナックル〉。
強烈な爆発が生じて、ギリギリで防御をしたデゼスプワールの身体は大きく後ろに下がる。
自らの間合いから逃すまいと、追いすがるガルディアンの追撃から逃げるように、獣騎士は高く跳躍すると距離を取った。
まさかあのデゼスプワールを相手に、一歩も引かない攻防をやってのけるとは。
誰もが驚く中で、自らの力を示した堅城の拳闘士は、右手を振り上げ高らかに宣言する。
「立ち上がれ戦士達よ! ここにいるのは〈ソウルワールド〉最強のクラン〈シュヴーブラン・ソシエテ〉と双璧をなす〈ソウル・ナイツ〉だ! 我らと白の姫君が健在である限り、汝らには輝かしい勝利を約束しよう!」
「「「オオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオッ‼」」」
見事としか言いようのない度胸と、高度な技を見せつけたガルディアンの威勢のある鼓舞に、広場に生き残ったプレイヤー達が大きな歓声を上げる。
先程まで漂っていた絶望的な空気は、全て彼の拳と圧倒的な実力によって吹き飛んでしまった。
同じ白いマントを羽織った騎士達は「白姫様の為に勝利を!」と、息を合わせて威勢よく口にする。
トップクラン〈シュヴーブランソシエテ〉の副団長と団員達が作り出した流れは、この場にいる全てのプレイヤー達を奮い立たせた。
これが最強と言われているクランの実力。声を掛け合って、態勢を立て直す人達の姿を目の当たりにした僕は、思わず苦笑いしてしまった。
前半はともかく、後半の『白の姫君』という名は、まさか自分の事なのだろうか?
疑問に思っていると、挑戦者達の勢いに負けじと〈デゼスプワール〉は絶望を撒き散らす為に咆哮をする。
『我ガ眷属ヨ! 愚カナル者達ニ更ナル絶望ヲオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオ!』
だがこちらは、プレイヤー達とは違い、ただ気合を入れる為のアクションではなかった。
主の呼びかけに応え、周囲に二か所の空間の歪みが発生すると、その中から合計で二体の〈ヴァルト・コボルドナイト〉が姿を現した。
犬の頭に人型の身体を持つ怪物は、パッと見は最初の森の主と全く同じだ。しかし、そのレベルは15ではなく50と高い。
ベータ版の時は、数多くのプレイヤー達がヤツの大剣から繰り出される連続攻撃によってリタイアしていた。本体ではないからと、けして油断はできない相手である。
「眷属の相手は予定通り、事前に割り振ったパーティーに頼む! 我々はその間に、親玉の〈デゼスプワール〉を討ち倒すぞ!」
「「「おおおおおおおおおおおおおおおおおおおおッ!」」」
ガルディアンの言葉に応じて、即席のチームを組んだプレイヤー達は対〈デゼスプワール〉用の陣形を組む。
想定外の奇襲を受けたが、自分達が注意を引き付けた事で幸いにも、攻略パーティーの被害は最小限に抑える事ができた。
全体で七十近い人数は、その内の二十四人が配下の対応に当たり、自分達を含め残り全員が〈デゼスプワール〉との戦いに挑む事となる。
「いよいよ始まるわね、シアン」
初めて対面する最強のユニークボスを前にして、アザリスは不敵な笑みを浮かべる。
心強いパートナーと並び立った自分は、手にした魔剣の柄を握りしめる。
「……気を引き締めよう、アザリス」
彼女の言葉に力強く頷き、ポーションを飲んで回復を終えた僕は、魔剣〈レーバテイン〉を手に仲間達と前線に参加した。
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