第29話「現在のステータス」

 ヴィント国に向かうのをメニュー画面から選択して、アザリスと二人分の料金をエルフの男性に支払うと、大きな馬型モンスター〈グラニ〉に繋がれている六人用のキャリッジに乗り込んだ。


 ベータ版の頃と同じ高級感にあふれる素材を使った座席の座り心地は良く、自分が腰を沈めると小さな身体を優しく受け止めてくれる。


 後から入って来たアザリスは、鼻歌交じりに向かい側の空いている席ではなく、自分の空いている右隣りの席をチョイスして腰掛けた。


「アザリス、なんで態々こっちに?」


「私が隣りに座ることに、何かご不満でも?」


「いや、全くないんだけど……。ただ二時間も馬車で揺られるんだから、お互いに手足を伸ばせる方が楽なんじゃないかと思っただけで」


「お気遣いありがとう。でも心配はいらないわ、私はこうしてシアンの隣が一番落ち着くから」


「そ、そうですか……」


 ここで自分も同じ気持ちだよ、と素直に言えないヘタレな僕は逃げるように彼女から視線をそらし、気を紛らわせる為に目の前の何もない空間にステータス画面を開いた。


「あ、レアなエリアボスを倒してレベルが上がったのよね。今のシアンのステータスがどんな感じになったのか、私にも見せて見せて!」


「はいはい、少々お待ちくださいよ、と……」


 右腕を抱き締めて覗き込んでくるアザリスにも見えるように、オートで覗き見が不可になっている画面設定を変更する。


 そうしたらアザリスは、食い入るように宙に浮いている画面を凝視した。


【PN】シアン【LV】25【職業】魔法剣士

【HP】500【MP】60

【筋力】70【物防】20(+40)【魔防】20(+40)

【持久】50【敏捷】80【技術】30

【幸運】10【理力】100


 昨日のレアエリアボスをソロ討伐した事で、僕のレベルは一気に5も上がり25になった。


 その際に獲得したレベルアップボーナスの50の振り先に選択したのは、物理ダメージの威力を強化する『筋力』と移動速度とか技の発生速度に大きく影響を与える『敏捷』の二つだった。


「確か魔法剣技は、理力に応じて威力が上がる攻撃スキルよね。物理攻撃にしか影響しない筋力に、わざわざポイントを振る意味ってあるの?」


「あー、確かにその方が強いんだけど。そうすると魔法に耐性のある敵を相手にした場合、ダメージソースが大幅に減少しちゃうんだよね。ベータ版の時に大多数のプレイヤーがソレをやらかして、物理ダメージしか効かないエリアボスが出現した時〝理力極振り魔法剣士お断り〟の攻略パーティー募集が大量発生したんだ……」


 当時のレベル30の大多数の〈魔法剣士〉達が、慌ててメチャクチャ高価な〈ステータスリセット・ポーション〉を購入する為に、道具屋に殺到した光景は中々に面白かった。


 ちなみにその時から既に、ソロプレイヤーとして活動していた自分は均等振りをしていたので、高価なアイテムを購入する必要は無かった。


「後は〈魔法剣士〉のオメガスキルは物理と魔法の合体技だから、筋力と理力は両方上げても威力が上がるんだ。だから均等振りは、けして無駄にはならないんだよ」


 ちなみに最初に理力を100まで上げたのは、相手が完全に物理を無効化するラフレシアが相手だったからだ。


「ただAランクの魔剣〈レーバテイン〉があるから、攻撃力だけなら現時点で確実にベータ版の頃より強いんだよね」


「Aランクの武器ってすごいわよね。良かったら、スペック見せてもらっても良い?」


「相棒は気軽に見せるもんじゃないけど、アザリスなら良いよ」


 快く了承して、左腰に装備している漆黒の魔剣を鞘から抜いてアザリスに見せる。


 武器のプロパティを一緒に覗くと、そこにはこう記載されていた。


【武器】レーバテイン【攻撃力】A【耐久力】A

【装備条件】称号『原初の森を制覇し孤高の剣士』の獲得。

【特殊効果】魔法属性の威力強化。魔法属性の披ダメージ減少。


 美術品のような長剣を間近で鑑賞するアザリスは、目を輝かせて「すごい武器ね……」と素直な感想を口にする。


 魔剣を元の鞘に納めながら、僕は相棒を褒められた事が嬉しくなり笑みを浮かべた。


「まぁ、コレを入手する為に一年間、ずっと一人でエリアボスと戦っていたから」


「正に心血を注いだ最強の相棒ね。良いな、私もシアンみたいに唯一無二の武器が欲しいわ」


「うーん、そうだね。槍で強い武器というと、NPCの店売りは大したものがないから、やっぱり鍛冶職人のオーダーメイドかボスモンスターからドロップ……」


 アザリスに説明しようとして、ふと昨日のレアボス戦を思い出した。


 そういえば、昨日エリアボスの〈ヴァルト・ロード・コボルドナイト〉を倒した際に、何かアイテムをドロップした気がする。


 あの後、取材とかフレンド申請をしようとする他のプレイヤー達に追いかけられ、イライザと必死に逃げる羽目になったのですっかり忘れていた。


 早速ストレージ画面を開いてみると、そこから一番下まで一気にスクロールさせる。


 そうしたら、倒したモンスター達からドロップした数々のアイテムの中で、最後の一行にベータ版では見たことが無いモノを見つけた。


 日本の月神〈ツクヨミ〉の名を冠する、槍カテゴリーの武器でランクは驚くことに、

──〝B〟だった。

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