第3話「銀髪の不思議少女」

 どうして不審なのかというと、その人物は白いマントを羽織り真夏だというのに、フードを目深までかぶっていた。


 オマケに右手には、魔法使いの杖みたいな物を持っている。


 それはどう見ても、お年寄りが使用する介護用品のそれとは別物であった。


 身長は目測で百六十前半くらい、隣にいるユウと同じくらいだ。


 家を見上げていた人物が、ゆっくり此方を見ると、フードの中を見て思わずドキッとした。


 何故ならば、不審な人物は誰が見ても美しいと評することが出来る──少女だったから。


 僕が見惚れていると、彼女はフードを脱いで素顔を晒した。


 太陽の下に現れたのは、輝くような銀髪に真紅の瞳が印象的な美少女だった。


 毎日ユウと一緒にいる事で、美少女にある程度の耐性がある自分ですら固まってしまうほどの整った顔立ちは、正直に言ってテレビで映されているアイドル顔負けのレベルだ。


 思わず棒立ちしていると、銀髪の少女は口元に微笑を浮べ、ゆっくりと近付いてくる。


 綺麗とはいえ不審な少女に対し、何故か女の子であるユウがムッとした顔をして前に出ようとするので、慌てて引き止めて自分が前に出た。


 相手は得体が知れない存在、男としていざという時に女の子を守るのが我が家の教えだ。


 目の前で立ち止まった、銀髪の外国人っぽい少女を警戒すると。


『──泡沫うたかたの夢は、じきに終わりを迎える』


「うた、え……?」


『楽しみにしているよ。新生した世界で、真なる王が描く魂の物語ソウルストーリーを』


 まるで詩人のような言葉を口にした後に、少女は小悪魔的な微小を浮かべてフードを被り直し背中を向ける。


 すると自分達と銀の少女との間に、どこからか視界を覆うほどの白い花が現れた次の瞬間──少女は、忽然こつぜんと目の前から姿を消した。


「え、ちょっと待て! どこに消えた⁉」


「さっきまで、そこにいたのに……⁉」


 いなくなった少女を探して、僕とユウはびっくりして周囲を見回す。


 だけど近くに身を隠せるようなものは何もなく、どう考えたとしても彼女が身を隠せそうな場所は、近辺には何一つ見当たらなかった。


 ギャグ漫画みたいにマンホールが開いていて、その中に落ちたというわけでもない。このわずかな時間で身を隠せるのは、事前に準備をしたマジシャンくらいだろう。


 となると次に候補に上がって来るのは、アレが人間ではなく幽霊か幻覚の類である事。


 でも見えていたのが僕だけならともかく、あの少女は隣りにいるユウにも見えていたようなので、可能性としてはどちらも弱い。


「……ユウ、お日様が出てる真昼間でも、幽霊って出るのかな?」


「普通に考えて、それは無いと思うけど」


 いくら考えたとしても、この謎を解き明かすことはできなかった。


「取り合えず、家に帰ろうか……」


「そうね、家の前でずっと立ち止まってるのも変だし、そうしましょう」


 家の鍵をポケットから取り出し、また後でと言って僕達は解散した。

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