第31話「シュヴーブラン・ソシエテ」
アレから馬車が出発してから、一時間以上が経過した。
「おー、やっぱりPKっているんだ」
中から見える外の様子に、思わず感嘆の声を漏らす。
視線の先にあるのは、六人の白いマントを羽織った全身鎧の騎士と、黒い装備を纏ったいかにも悪役っぽい風貌のプレイヤー六人が戦っている光景だった。
実はこの世界〈ソウルワールド〉には、裏ギルドと呼ばれる組織が存在している。そこで受けられるクエストは、高レベルのプレイヤーを倒す事で経験値と資金を得られるようなシステムとなっており、クエストランクが上がれば上がるほど報酬も良くなる。
だから安全地帯の外は、裏ギルドのクエストを受けている人達にとっては絶好の襲撃チャンスだ。
「裏ギルドのクエストは、達成したら大体二~三倍の資金が手に入るから、普通のプレイヤーよりも圧倒的な速度で装備強化を進められるのが最大のメリットだよ」
「もちろん、デメリットもあるのよね」
「うん、あるよ。闇ギルドのクエストを受けている人は、他のプレイヤーに負けた場合にペナルティとして資金がマイナスされるんだ。しかもマイナスの金額は、受けてるクエストのランクが高ければ高いほどに大きくなる。それと他にも、NPCの暗殺クエストに失敗して捕まったりなんてしたら、かなりの釈放金を請求されて借金地獄になるらしいよ」
「お……恐ろしい話ね……」
借金地獄になる事を聞いて、アザリスは顔を真っ青にした。
そんなハイリスクハイリターンなのが、闇ギルドの大きな特徴である。
もちろんベータ版の頃にソロで活動していた自分は、格好の標的となり何度かあんな風にプレイヤーキル──通称PKを目的とした集団に襲われた経験があった。
白と黒のプレイヤー同士による激しい戦いが繰り広げられる横を、馬車が無い事もなく素通りする中で、僕はベータ版のエピソードを隣にいるアザリスに語った。
「レベルが50でカンストした時、たしか最大で十人に襲われた事があったよ」
「十人って、クランメンバーの六分の一よね。そんなの絶対に勝てるわけないじゃない……」
「まぁ、僕は一人で全員を、返り討ちにしちゃったんだけど」
「嘘じゃ、ないのよね……?」
もちろんだと頷くと、僕は苦笑した。
「流石に余裕の勝利じゃ無かったけどね。あの時は魔法剣技を駆使して、ひたすら目に映る奴と戦ってたら、いつの間にか敵が全員いなくなってたんだ」
「シアン、それは化け物すぎない?」
「化け物って、僕は身を守る為に必死に戦っただけなんだけど……。でも、その後に裏プレイヤー達が、誰も襲って来なくなったのは良かったかな」
ベータ版の最初の頃は、真昼間に国の外に出たら必ず一回は襲われていた。
だから今回もどこかで必ず、他のプレイヤーから襲撃されると思って身構えていたのだが、その予想は珍しく外す結果となった。
道中で白いマントを纏う騎士達を見かける事はあったけど、それ以外のプレイヤーを見かけたのは、先程戦っていた人達の一件を除けば一度も無かった。
一体どうしてだろう。まさかSPの存在で消極的になっているとか?
不思議に思っていると、数十分後に馬車は目的地であった〈ヴィント国〉に到着した。
運転をしていたエルフの男性が、扉を開けて着いた事を報告してくれると、僕はアザリスと一緒に降りながら今回の旅で抱いた気になる点について語った。
「襲われないのは良い事なんだけど、なんか変な感じだなぁ」
「変な感じって、何かあったの?」
「いや、具体的に問題があったわけじゃないんだ。……なんて言ったら良いのか、道中で何度か見かけてた白マントの騎士達が気になってね」
そう答えると、アザリスは少し考えるような顔をした。
「言われてみれば、スルーしてたけどこの辺りで〈シュヴーブラン・ソシエテ〉のクラメンを何度も見かけたのはすごく珍しいと思ったわ」
「……なにその、シュヴーなんとかって?」
「〈シュヴーブラン・ソシエテ〉、日本語に訳すと白髪愛好会って意味だったかしら。レベル30の〈天剣〉っていう人が、リーダーをしているトップクラスの集団よ」
なるほど、つまりすごく強くて変な人達の集まりという事か。
クラン名が白髪愛好会とは、どおりですれ違う彼等から視線を感じていたわけだ。
──と言っても、それは変な意味での視線ではない。
遠くから見守る親戚というか、後方腕組みの保護者面みたいな温かい眼差しだった。しかも、それに似たような視線を、昨日は森の中でずっと感じていた気がする。
ふと脳裏に思い出したのは、ポンチョコートの問答の際にイライザが言っていた『熱心なファンが多い』という謎の発言だ。
(まさか、彼女はあの人達の事を言っていたのか?)
そう考えると、昨日と今日の不可解な謎も説明できる気がするし、道中で〈シュヴーブラン・ソシエテ〉の小隊を何度か見かけたのにも納得ができる。
だけど同時に髪が白いというだけで、大きなクランに所属するメンバー達が大人数でたった一人のプレイヤーの為に、熱心な行動をする事に僕は疑問を抱いた。
最初の国でも、白髪や銀髪のプレイヤーは何人か見かけた。
この〈ソウルワールド〉にいる唯一の白髪キャラじゃないのなら、彼らがあそこまでする理由として考えるのは少々弱い気がする。
うーん、流石に分からないな……。
色々と思考を巡らせてるけど、答えは全く出てこない。
すると開け放たれている〈ヴィント国〉の大門の目前まで来たので、僕は『最強のクランに注目されているかもしれない』謎を頭の中から一旦忘れる事にした。
「取りあえず、リュウが待ってるから行こうか」
「うん、そうね」
アザリスと並んで、門を通り最初の国よりも一回り大きい街の中に足を踏み入れる。すると大通りのど真ん中に、全身に鎧を纏ったリュウが大きく手を振っているのが見えた。
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