第5話「アバター作成」
「い、いよいよだな……」
思わず息を呑む。この日の為に、VRNを長年ためていた小遣いを使って新調したのだ。
それは何故かというと、今まで使っていたのは自分との相性が悪かったのか、どの機種も全身スキャンになると決まって同じ不具合を発生させてきたから。
固唾を呑んで見守っていると、全身のスキャンが終わってアバターの作成が始まった。
作成中のバーが左端から右端に到達するのを見守っていると、二分くらいで完了の合図と共に、目の前に仮想世界の分身が表示される。
恐る恐る確認すると、そこには、
──白髪と金眼の、美しい少女がいた。
見た目の年齢は、自分よりも少し幼いくらい。整った顔立ちに細い身体は、誰が見ても溜め息が出そうな程に美しい造形をしている。
自分をスキャンして生まれた、全く似ていないどころか性別すら違うアバターを見た僕は、頭を抱えたくなる気持ちを我慢して胸中の思いを口にした。
「やっぱり、ダメかぁ……」
ある程度は予想していた結果に、心の底から嘆息する。
VRNを両親から与えられて遊ぶようになったのは、自分が小学五年生くらいから。
その時からアバターの作成で全身スキャン必須のゲームをプレイすると、決まって性別が反転して、髪は真っ白に瞳は金色になる変わったバグが発生するのだ。
オマケに他に事例がない現象の為に、対処のしようがないのが一番の問題で、最初はどうにかしようと頑張ったけど解決の糸口を見つけられず最終的には諦めた。
何で自分にだけ、こんなバグが起きるのかは分からない。
でも諦めてプレイしてみると、これが意外としっくりするのだから何とも言えない部分でもあった。なんせ時々パーティーを組んだりする竜司からも、振る舞いや言動を含めて女の子にしか見えないと評された程である。
この一年間ゲーム内で告白された件数は、両手の指では数え切れない。
可愛いだの綺麗だの言われて、中身が男子なのに内心で嬉しかったのは親友達にも秘密だ。
「まさか僕に、ネカマの趣味があったとは……」
女の子であるユウが好きだというのに、自分でも知らなかった側面に深い吐息を一つ。
何度再スキャンしても結果が変わらない事は昔から知っているので、そのまま次に進むボタンをタッチした。
次は作成したアバターの細かいパーツを変更できる項目だが、この美しいアバターはとても完成されていて、手を加える余地はないので次に進む。
三つ目のステップは、アバターの名前を決める項目だった。
僕はいつもゲームで、自身の名前を青色の一つ『シアン』で統一している。
何で『蒼』なのにブルーとかではなく、青緑のシアンなのかと言うと、それは単純に口にした際に語呂が良かったからで、深い意味なんて一つもない。
「……さて、これでアバターの作成は完了。お次は、いよいよ職業の設定だね」
ソウルワールドには複数の職業があり、その数はなんと全部で数十種類以上だ。
職業の特徴に合わせてステータスの数字が変動するので、一年前の何も情報が無い時に僕は、一日中どれにするか悩んでいた。
今は攻略サイトが作られているから、初心者でも迷わずに選ぶ事ができるだろう。
例えば前衛で壁役が好きならば、強化スキルや防御スキルを習得できる〈守護騎士〉で、アタッカーよりの前衛ならば〈竜騎士〉を選ぶのがベターだ。
次に前衛兼中衛なら、近距離攻撃と遠距離攻撃を使い分ける事ができるダメージディーラーの〈魔法剣士〉に、デバフスキルとかを習得できる〈盗賊〉とかのテクニカルな職業。
後衛は手数重視なら〈銃兵〉。威力を重視するなら〈黒魔術師〉。
援護と回復を兼ねた《白魔術師》に、後はどのパーティーにも一人は必須になる回復を専門とした〈プリースト〉。
他にも〈弓兵〉〈召喚術師〉〈調教師〉〈錬金術師〉〈鍛冶〉〈ダンサー〉など色々とあるけど、ベータ版で検証して大多数のプレイヤーが落ち着いたのは上記の八種類の職業である。
「ま、僕が選ぶのはもう決まっているんだけどね」
ウィンドウ画面をスクロールして、迷わずに〈魔法剣士〉を選択した。
ベータ版との変更点があると注意文が出てくるが、早くプレイしたい欲求に支配されている上に、ベータ版ではずっと《魔法剣士》を使用していた為に、どんな変更が来ても問題ないと軽い気持ちで次に進むボタンをタッチする。
『以上でアナタのソウルアバターを作成します。ご確認の上、完了してください』
【PN】シアン【LV】1【職業】〈魔法剣士〉
【HP】20【MP】30
【筋力】20【物防】20【魔防】20
【持久】20【敏捷】20【技術】30
【幸運】10【理力】30
最後に【決定】か【キャンセル】の二択が表示される。
勢いをつけて【決定】を叩いた。
これで、アバターの作成は完了。
真っ白な世界が、真っ暗になる。
恐らくはマップのグラフィックの読み込みとか、色々な処理に入ったのだろう。
遂に本格的な、ソウルワールドの冒険が始まるのだ。
未だ見たことのないマップ。モンスター達。そして──七つの闇を冠するユニークモンスター達。新しい冒険に高まる期待を胸に、僕の視界は段々暗くなっていく。
すると真っ暗な世界で、突然背後から誰かに声を掛けられた。
『──世界を、根源の闇に苦しむ者達を、救ってください』
ドクンッと心臓ではなく、自分の根幹にある魂が大きく脈動した気がした。
一体誰なんだと、振り向こうとした僕はそこで、
【Soul.Worldのシステムアップロードを完了しました】
【白のソウルを確認、これより世界は──〈新生〉します】
まばゆい光に照らされて、何も見えなくなった。
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