第46話「絶望を切り裂く極光」

「みんな、ありがとう……」


 遂に手にしていた希望の光が、あらゆる敵を打ち倒す極光に至った。


 ここに至るまでに、沢山の仲間達が死力を尽くし、勝利の為に時間を稼いでくれた。


 みんながいなければ、今頃自分はボスの長剣によって切り裂かれていただろう。


 仲間達から託されたのは、この戦いに勝利する為の熱い思い。


 後は解き放つだけなのだが、アザリスの槍で動きを封じられている敵はアレだけ沢山の猛攻撃を受けていたというのに、まだ四割弱も残っている。


 果たしてユニークスキルで強化したオメガスキルだけで、アレだけのHPを削り切れるのか、という不安は流石に少しばかりあった。


(……いや、できるかじゃない。やるしかないんだッ!)


 ここで弱気になる事は、時間を稼いでくれた仲間達の頑張りを、無駄にする事に繋がる。


 この最後のチャンスを逃すことだけは、今は絶対に許されないのだ。


 ──息を大きく吸い込み、そしてゆっくり吐き出す。


 緊張に震える手で魔剣の柄を強く握り締めると、ありったけの勇気を振り絞り、手にしている魔剣〈レーバテイン〉を上段に振りかざした。


「行くぞ、デゼスプワールッ!」


 自身を中心に、巨大な七芒星が地面に展開される。


 漆黒の魔剣に束ねられた七つの属性は、〈ソウル・アンリミテッド〉によって更に威力を増幅し、溢れ出す力は周囲の空間を震わす。


 心には最上の熱を灯し、眼前に立ち塞がる獣騎士を見据えた。


「星を切り裂く、極限の魔法剣よ。七つの力と共に、絶望に支配されし魔獣の王を討ち払え」


 ──〈メテオール・シュナイデン〉ッ‼


 手にした極光を、上段から一気に振り下ろす。


 そして世界に解放されたのは、全てを浄化する聖なる光の奔流だった。


 抵抗も逃げる事もできない獣騎士は、迫る純白の光に挑むように雄叫びを上げた


『グオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオッ‼』


 飲み込まれた瞬間、残っていたHPは減少を始め、そこから一気にゼロに近づいていく。


 残り一割を切った所で、〈デゼスプワール〉に大きな変化が生じた。


 全身から真っ黒なオーラみたいなモノが吹き出し、それが純白の光の中で解けるように消えていく。その直後には黒い鎧の色が変色し、下からは鮮やかな緑色が現れた。


 HPはあと少しでゼロになる、その直後に槍の拘束時間が終了した。


 しかし、自由になっても獣騎士は、


 そこから一歩も動かなかった。


 光に身を委ねるように、絶望に淀んでいた瞳を閉じる。


 すると剣身が折れて、半分になった長剣が力を無くした手からスッと滑り落ちた。


 光の中で巨大な身体は、鎧ごと端の方から光の粒子となって散り始める。


 身体が崩壊する最中、次に瞳を開いた獣騎士はまるで憑き物が落ちたような顔をすると、その瞳にどこか懐かしく優しい色を宿した。


 この世界を白く染めていた光は、時間の経過と共に徐々に消えていく。


 それに応じて〈デゼスプワール〉の身体も、四肢から胴体にかけて崩壊していった。


『ああ、夢みたいだ……絶望が、晴れるなんて……』


 彼の呟きに、反応する者は誰もいなかった。


 まるで僕にしか聞こえていないかのように、小さな風が吹き抜け、


『──姫様、ありがとうございます』


 消滅する寸前、最後に獣騎士が口にしたのは、


 絶望の呪詛ではなくお礼の言葉だった。


「──あ」


 聞き返す間もなく、目の前で彼は満足そうな顔で光の中に溶けるように消えた。


【Event Mission complete】


 目の前に表示されたのは、イベントをクリアした通知。


 遂に強敵を倒した事に周りのみんなが勝利を喜び、歓喜の叫び声を上げた。


 この国に住む人々が家々から飛び出し、目の前で成し遂げられた偉業に盛大な拍手を送ってくれる。


 おめでとう、そんな祝いの言葉で満たされる幸福な世界で、


「あれ? 何で僕、泣いてるんだ……」


 全ての者達がお祝いムードの中、僕だけは嬉しい気持ちに反して涙を流していた。


 理由は分からない。


 小さな胸の内を占めるのは、何か大切なモノを失ったような、大きな喪失感だった。


 自分でも理解できない悲しい感情に困惑していると、ユニークスキルとオメガスキルを併用した影響なのか、身体は完全に硬直して凄まじい疲労感が心身を支配する。


 ──ダメだ。これはもう、立っていられない。


「し、シアン⁉」


「おい! 大丈夫か⁉」


 アザリスとリュウが、慌てて駆け寄って来るのが見えた。


 力が抜け、前のめりに地面に倒れた僕は、彼らに返事をする余裕はなかった。


 意識が遠くなっていく中で、誰よりも速く駆けつけたアザリスが僕の身体を抱き上げた。


「シアン! しっかりして、シアンっ!」


 泣きそうな顔をする彼女に、胸が少しだけ痛む。


 せめて大丈夫だと伝えたかったけど、そんな余力は全くない。


 彼女の声を最後に聞きながら、僕は完全に気を失った。

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