第36話「集うトッププレイヤー達」

 最初の国〈シルフィード国〉やダンジョンを管理する〈ヴィント国〉と来て、最後の〈ゲイル国〉は四体のエリアボスが支配する四つの恐ろしい森に囲まれている。


 その四体の内一体を倒すか高難易度となるスニーキングでエリアを突破しないといけない為、高いプレイヤースキルを持っていなければ、この国に立ち入ることは難しい。


 故に〈ゲイル国〉では、基本的に上級プレイヤーくらいしか見かける事はない。正に真の強者のみが立ち入ることを許された地である。


 そんな大広場にある結晶の前で、後から来たリュウと合流した僕達は冒険者ギルドに入り、クエストの受付をしているプレイヤー達の列に並んだ。


「おー、テレビを見たトップクラン達が、続々と集まってるね」


 視線の先にいるのは、高ランクの装備で武装したプレイヤー達ばかり。

 彼らの目的は当然、ユニークボス戦に参加する事である。


 見える範囲では、殆どがレベル40以上で装備はDランク以上だと思われる。ソロっぽいプレイヤーは一人も見当たらず、いずれもクランに所属している猛者ばかりだった。


 お祭りみたいな雰囲気に、アザリスは隣で楽しそうに周囲を見まわしながら、片手を望遠鏡のようにして遠くを眺める。


「うわぁ、最近勢いがある〈ゆるふわ旅団〉とか、全員が猫のデザイン装備で統一してる〈黒猫団〉とかいる。──あ、あそこに陣取ってる本をモチーフにしたエンブレムは〈賢者のライブラリ〉のメンバーじゃない⁉」


 同じ方角を見ると、そこには魔法使いのローブを羽織った集団が目に留まった。

 背中には、クランの象徴である羽ペンと本のエンブレムが刻まれている。

 周囲に漂う雰囲気は独特で、とても近寄りがたいモノがある。その為に他のプレイヤー達も、不気味な彼等を避けていた。


「たしか彼らは、この世界の謎を探求しているクランだね。普段はマップの各地に隠されている遺跡巡りをしているって聞いてたけど、イベントに参加するなんて珍しいな」


「あの人たちが出てきたって事は、それだけユニークボスが特別って事ね」


「……いや、イベントメンバーのリストには入っていないから、アイツ等は今回見学するだけのつもりだぞ」


「あら、そうなの。せっかく戦う姿を見れると思ったのに残念だわ……」


 イベント情報から、参加クランの一覧を見ていたリュウの言葉に、アザリスは少しがっかりした。

 確かに自分でも、ベータ版で彼等の戦いは見たことがない。噂によるとクランのアジトを賭けた戦いで、相手クランを秒殺したとか聞いたことがあるけど真偽は定かではなかった。

 肩を落とす彼女を見て、くすりと笑ったリュウは、次に違う方角に視線を向ける。


「それよりも、どうやら来ているのはアイツ等だけじゃないみたいだぞ」


 同じ方角を見たら、そこには壁際で何やら作戦会議をしている白マントに天使のエンブレムを背負う騎士達〈シュヴーブラン・ソシエテ〉と、魂と剣のエンブレムを好きな箇所に刻んでいるバラバラな服装のプレイヤー達〈ソウル・ナイツ〉の二大クランがいた。


 見ている範囲内で、自分が確認できる五大勢力は三つのクランだけだ。


 残り二つのクランに所属する、メンバーの姿は何処にも見当たらない。


(……確か他はPVP専門のクランと、悪役ロールプレイングのクランだね。クランのスタンス的に、ユニークモンスターに興味は無いのかな?)


 今回戦う〈デゼスプワール〉は普通のモンスターとは次元が違う。対人戦に特化させているビルドでは、絶対に勝てないと判断した可能性は十分に考えられる。


 そうやって思考を巡らせていると、前のパーティーの受付が終わり自分達の順番となった。


 カウンターの前まで進んで、僕は目の前にいる受付嬢に軽い挨拶をした。


「こんにちは、ローラさん」


「あら、こんにちはシアン様、アザリス様、リュウ様」


 受付を行っていたのは、何だかすっかり顔なじみになったエルフの女性ローラである。


 以前に〈シルフィード国〉と〈ヴィント国〉では、申請したクエスト内容に驚きの余り二度も気絶をされたけど、今では気軽に挨拶を交わす仲になっている。

 彼女いわく、非常識な事ばかり成し遂げてきた僕達になれてしまったとの事。


 だから今日のプレイヤー達の状況から、ローラは僕が来た理由をすぐに察したのだろう。


 目の前にクエストのメニュー画面を表示させると、彼女はエルフ族が生まれ持つ綺麗な顔に小さな苦笑いを浮かべた。


「シアン様も〈デゼスプワール〉に挑まれるのですか?」


「もちろん、そのつもりですよ」


「……相変わらず、チャレンジ精神が旺盛おうせいなお方ですね。でも規格外のシアン様が参加されるのなら、あの恐ろしい怪物を倒す事ができそうな気がします」


「倒せるかは分からないですが、やるからには全力で倒しに行きますよ」


 今回はレベルも50以上だし、装備も魔剣やイライザの防具でベータ版以上だ。


 加えてランダム出現だった〈デゼスプワール〉の出現位置とタイミングが、テレビによって全プレイヤーが知ることが出来たのはとても大きい。


(当時のベータプレイヤー達は、レベルと装備にも苦しんでたけど。出現位置にメンバーを揃えるのが一番難しいって、掲示板で愚痴ってたくらいだからね)


 ざっと見たところ、参加者の実力は申し分ない、頭数も周りを見たところ十二分にある。


 オマケに転移する前に発売が開始された、カラス印の最新攻略本には〈デゼスプワール〉の行動パターンをまとめたモノが載っている。


 これら全てを統合して考えるなら、ベータ版の頃よりは勝率は高い。敵に多少の変更があっても、即死技とかで事故らなければ初見でもワンチャン勝てそうな気がする。


「ふふふ、初めて受けに来られたクエストの時と同じ、勝算があるって顔をされています」


「……そうですね、ヤツと戦うのは初めてじゃないので。唯一の気がかりは戦場になるこの国が、大丈夫なのかってくらいです」


「それならご安心ください。アナタ方をサポートする者達は、世界の加護によって守られているので戦闘に巻き込まれたとしても、死ぬことはありません」


「なるほど、それなら安心ですね」


 プレイヤー達をサポートする者達が全滅する。そんな最悪のパターンが無い事にホッとしながら、クエストの説明文に目を通し一番下にある申請ボタンをタッチした。


 申請が無事に完了すると、ローラは目の前にある画面で処理を手早く済ませ、


「クエストを承りました、シアン様達のご武運をお祈り致します」


 こうして最難関クエスト『原初の森を彷徨う絶望』は開始された。

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