第4話 女神様は傍観者

「メタトロン様の仰る通りですね・・・・」


やや強いくらいなら、肩を並べられるかも知れないが、圧倒的な強者との共存は、言葉が通じても難しい。

主従関係どころか、家畜や虫扱いなどが定番だし、その様に扱わなくとも、下の者は被害妄想で距離を置きたがるのは、現実でも物語でも同じだ。


妄想していた世界に入れれば、幸せだろうと思っていたが、入ってみれば、とんでもない世界だった。


「つまりは、安住の地は無いと?」

〔そうだな。御都合主義だけを抜粋した御伽噺おとぎばなしならいざ知らず。いや、物語りラノベと言うものも、そう言った一方的なネガティブな感情論で敵対者を描いておるしな〕


そう。ここは、敵対者と戦ってナンボのラノベワールドなのだ。

最強だからと言って、敵対者が居なければ、御話しにならない。


強ければ、他者に認められると言うのは、安定した上下関係が成立している場合だ。


いや、人間社会でも隣国や、自分の属する派閥以外に強者が居れば、それは脅威以外の何ものでもない。


そして、人間には厄介な【向上心】や【野望】や【理想】【望み】と言う悪魔が住み着いている。


自分側の部下に強者が居た場合、いつ反旗を翻して実権を奪われるか不安なのが人間と言うものだ。


逆にトップに強者が居ても、隙を狙って姑息な手を用いてでも成り代わろうとする弱者が常に存在する。



「こんな世界は誰得だれとくなんですか?」

〔確証は無いが、これも全て女神様によって仕組まれているのかもしれない〕


一瞬だが、アキラの見ている風景が歪んで見えた。


〔絶対的な創造主が世界を作るのは、傍観して楽しむ為以外に理由が無いからだ〕

「・・・・・・・・・」


平穏無事な生活しか続かない読み物に魅力を感じる者は少ない。


メタトロンの話しに、アキラは否定する言葉を持ち合わせていなかった。






〔で、サエグサ アキラ。いや、ここではアキラ・サエグサか。これからどうするのだ?山奥で隠遁生活いんとんせいかつをするか?全生物を敵に回して無双するか?人間世界で足掻いてみるか?〕


アキラは、少し考える。


「仕組まれているかも知れないなら、足掻いてみるのが妥当でしょう。他の選択肢が見つかるかも知れませんしね」


アキラは、目前に見える町へと歩を進めるのだった。




「この先には、ラノベ定番の街が待っているんだろうなぁ」


アキラは、ラノベで有りがちなシチュエーションを思い浮かべる。


そして、ふと気が付き、歩きながらアキラは、自分の服のポケットをまさぐった。


次に超感覚で、町の入り口に居る衛兵の周囲を見回した。


「メタトロン様。どうやら、ここの住民と会話はできるみたいなんですが、町に入るには通行税を払う必要があるみたいですよ」

〔うむ、そうだな・・・・・って、金が無いのではないか?〕


アキラは、数ヶ所ある町の入り口に超感覚を飛ばし、町に入る商人と衛兵とのやり取りを見聞きしていた。


商人達の会話とアキラの言語を比較したところ、会話に問題はない様だが、彼等が町に入る時に銀貨の様な物を渡していたのだ。


自分の衣服や身の回りを確認し、スキルなどの詳細を確認したアキラは、思わず、その場に両膝と両手をついて、項垂れた。


「あの女神めぇぇぇ~【お詫びをしたい】とか言っといて、無一文で放り出しやがったぁぁぁ~」


多少でも資産のある家庭に生まれる転生者と違い、確かにラノベの転移者は、基本的に金など用意されてはいない。


多くのパターンでは、初っ端から何らかの出会いがあり、その者が当面の生活費を工面してくれる。


だが、アキラの転移した場所には、周囲数キロにわたって人間の姿は無かった。

確かに転移者は、いきなり空中に現れるのだから、人気の無い所が無難ではある。


女神が、あまりにラノベを忠実に再現しようとした余り、実現した場合の不都合が生じているのだ。


多くのラノベでは、普通の日本人がナイフ一本も持たずに転移させられる。

サバイバル訓練の体験でも無ければ、よほどの知識と特殊能力があっても、初期費用も無いのならば、現実には異世界転移の九割が飢え死ぬだろう。

良くて窃盗や強盗で指名手配か牢獄行きだ。


競技スポーツ愛好者もだが、ピックアップされた一握りの一時的成功者のみを見せられ、それ以外の者を無視している。

その為に、現実に存在する五割から九割以上の【結果的に人生の一番素晴らしい時間と人間関係と資産を無駄にした者達】と同じ運命を辿るのである。


客観的には賭博師と同じなのだが、視野が狭く、企業の営業戦略に乗せられた者達には、馬の耳に念仏なのだろう。


〔今更だが、ここまで来ると、本当に女神様は粗忽者そこつものではあるな・・・・・〕

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