第22話 超絶冒険者への嫉妬
考え事をしていたがゆえに、アキラは彼が路地を曲がったタイミングで店に入った客に気をとめる事は無かった。
複数の客が店内に居ると、安心して抜き差しが出来ないし、特種な細工などの話もできない為に、敬遠する者が多い。
まぁ、そこそこ儲かっている店ではあるらしかったので、気にしていたらキリがないのも確かだ。
いまだにソロ活動を続けるアキラに協力を申し込むチームは多いが、加入を申し込むチームは意外と少ない。
弱小チームは力量の差から。
女性チームは、やはり恋愛関係の
上位の男性チームからも、協力依頼を受ける事は有るが、大変稀有な事と言える。
アキラ自身も、自分の都合で動けるソロ活動を望んでいる伏がある。
彼は、のんびりした生活を送りたかったのだから。
だが、光が有れば影ができる。
感情を持つ人間の集団であれば何処でも起きる現象。
彼の力を好意的に受け止め、利用する者が居る反面、違う感情を抱く者、風評を流す者が存在した。
『アイツのせいで、獲物が減った』
『独りで女共を独占しやがって』
『何人もの女に手を出しているらしいぜ』
『最速で、Eランクに昇進したからって調子にのってやがる』
『いつか痛い目を見せてやる』
現実にそぐわなくても、主に男性冒険者に、こう言った感情を抱く者が多くなった。
だが、Cランクをも唸らせるアキラの実力に手を出す者など居ない。
ましてや、ギルド内での争いは評価に繋がり、ランクダウンの対象となるのだ。
「あらあら、アキラちゃんモテモテね。
そんな状況であっても、50代子持ちの女性チームからでも御呼びがかかる、
更に季節はめぐる。
この世界にも季節があり、冬が近付くと魔物の活動も鈍り、被害が減るので依頼もメッキリ減る。
そんな空きの日に酒場で軽食をとっていると、以前にクエスト協力を依頼してきたチームのザックという男から、協力要請があった。
「依頼書を持ってきてはいないが、森の中の遺跡調査のクエストが有ってな。人数的に足りないんで、どうかな?」
「ダンジョンですか?」
この町の周辺に、ダンジョンが有ると言う話は聞いていないが、稼ぎの少ない時の、遠距離遠征かもしれない。
「いや、近くの古代遺跡の状況確認みたいな物だ。ただ、外にも見張りを付けるから、他のチームも呼んでいる。以前に手伝ってもらったから、声を掛けたんだが、忙しいか?」
数少ない男性チームからの声掛を断るのは、更に人間関係を悪くする。
「大丈夫ですよ。いつですか?」
「ああ。明日の昼に西門集合なんだが、無理なら止せよ」
「大丈夫ですよ。昼ですね」
間近であり、義理で一応は声を掛けた程度だったが、アキラは快く引き受けた。
複数の男性チームに高感度を持たれるチャンスとも考えたのだ。
翌日の昼前からアキラが西門で待っていると、ゾロゾロと冒険者達が集まってくる。
組んだ事もないチームを含めて12人の男達が集まった。
全員が集合したらしく、ザックが門の前で地図を広げた。
「この遺跡の現状調査が、今回のクエストだ。場合によっては補修も必要なので、土系魔法が得意な者を集めた」
見れば各種魔法に加えて、土系に特化した者が多かった。
「ザックさん。確かココって、立入り禁止区域になっていませんでしたか?」
「流石はアキラ君だね。確かに立入り禁止だが、だからと言って魔物による破壊や、風化を放置して良い場所でもないんだよ」
ザックは、勉強しているアキラを褒める様に話を続けた。
「何しろ、ココは魔族が占拠していた時代の遺跡だから、何が封じられているのか分からないままなのでね」
ランクが上がらないと開示されない情報が社会には有る。
Eランクのアキラには立入り禁止としか知らされて居なかったが、パンドラの箱の様な存在が有ってもおかしくはない。
そして、その保守の為に、立入り禁止の場所に入る作業員は、必要なのだろう。
「すみません。余計な事を言って」
「入りたてのアキラ君では仕方がないさ。でも、このクエストの重要性は理解できたよな?」
「はい。貴重なクエストに誘っていただき、ありがとうございます」
周りの冒険者達は、乾いた笑みをアキラに浴びせた。
今年のルーキーからは、アキラだけなので、仕方がない事ではあるのだが。
目的の遺跡は、険しい森の中にあった。
たいして距離は無いが、道なき道を進み、来た事のある者しか辿り着けない様な遺跡だ。
既に木々に侵食され、丘と区別がつきにくいが、所々にレンガや石組みの様な物が見える。
「やはり、荒らされている様だな」
入り口を塞いだ様な場所が壊されており、蜘蛛の巣や植物の根が、明らかに取り除かれていた。
「ゴブリンだな!こりゃあ」
「巣穴にしようとでもしたんだろう」
「廃鉱みたいに深くはないから、あきらめたって所か」
冒険者達が、状況判断して剣を抜く。
「守りが無いから、ゴブリンとかは居ないだろうが、別の物が居るかも知れないから注意しろよ」
アキラもならって、脇差しを抜いた。
灯の魔道具を使い、中を照らしながら、三・四人一組になって通路を進む。
そう、深くない所に広間が有り、真ん中に5メートル位の魔法陣が幾つか有った。
魔法陣は、厚さ10センチ程の一枚岩でできており、円形を基本とした模様が刻まれている。
「やはり、やられていたか!」
ザックの視線を追うと、一つの魔法陣の一部が割れている。
「おいっ、土魔法でコレを治してくれ。アキラは、奪われた魔石の代わりを中央にセットしてくれ」
ザックの呼び掛けに、数人の冒険者が割れた部分に魔法を掛けて、修復していく。
「これも、良い経験になるだろう」
そう言いながら、ザックはアキラに上級オーガの魔石を手渡した。
「魔法陣の中央の窪みですね」
「そうだ。あの穴に魔石を置いてくれ」
頷くザックの言うがまま、修復の終わった魔法陣の中央に、アキラは魔石をセットした。
とたんに、魔法陣の溝に光が走り、魔法陣の縁に障壁が張られる。
「コレは、何なんですか?ザックさん!」
問いかけるアキラに、冒険者全員が嫌な笑みを浮かべている。
ザックの横には、いつ来たのか武器屋の女店員も立っている。
「良い経験になっただろう?出る杭は打たれるってな!」
光に埋もれる様な形で、アキラの姿は、その場から消えた。
「二度と戻ってくるなよ、疫病神がぁ~」
ザックは、アックスを降り下ろして、魔法陣を再び割った。
「土魔法できる奴は、もう一働きだぜ。何の痕跡も残すなよ」
「「「分かってるぜ、ザック」」」
こうしてアキラは、【女神の泉】から行方不明になった。
男性冒険者からは、『ランクアップの為に大きな町を目指すと言っていたので、見送った』と言う者が数人いたが、ギルド移籍の手続きをしていないので、行方不明扱いにされたのだ。
アキラは、どうなったのか?
光がおさまった後に、アキラが見たのは、綺麗に装飾された広間だった。
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