魔族領 編

第23話 魔族領での待遇

光がおさまった後に、アキラが見たのは、綺麗に装飾された広間だった。


さきの遺跡同様に、近くには幾つもの魔法陣が並んでいる。


この世界の魔法陣は基本的に、魔石でエネルギーを与えても勝手には作動しない。

常に魔法が使える者を必要とする。

中には魔法が使える者の意思に関わらず、触れただけで強制作動する物もあり、魔法を使える者に対するトラップに使われたりしている。


他には、魔法陣と魔石、檻に閉じ込めた魔獣を使って、無人で長期稼働するシステムも有るらしい。


そして、アキラが乗る魔法陣を囲む様に、多くの異形の者が片膝をついていた。


「よくぞ、おいで下さいました。御使みつかいであられるサエグサ アキラ様」


赤い衣装に身を包んだ、人間の女の様な者が立ち上がった。


「吸血鬼か?」


種族は簡単に分かるが、それ以外のステータスが不明瞭だ。

しかし、その顔には見覚えがある。あの女神と同じ顔なのだ。


〔この地の巫女。女神様の分体の一つだな〕

『教会のサラスバーティと同じ様な奴ですか?メタトロン様』

〔これも、仕組まれていると見るべきだろう〕


この世界を作った女神は、人間にも魔族にも贔屓はしていない。

元より、世界を創造した絶対者が魔族を排除したいと思っていたら、ハナから存在できないのだ。


人間の好敵手として創造されるか、創造主の預かり知らぬ世界からの侵入者でもない限りは。


そう考えれば女神の分体が、人間の側にだけ居る筈がない。


アキラは、『まぁ、悪い様にはならないだろう』と、焦るのを止めた。


何しろ、この場合に居る全員が相手でも、アキラには勝つ自信が有ったのだ。


見てきた冒険者のレベルよりは遥かに高いが、アキラには五十歩百歩にしか感じられない。


「ここは、何処だ?お前は?」


赤い衣装の女が、一度、礼をしてから、再び口を開いた。


「ここは、共和国・・・人間には魔族領と呼ばれている領域の、デルタファイブと言う名の都市です。私は司祭長を任じられているベンザイ・ディーヴァと申します」


やたらと地球でも聞き覚えのある単語の羅列に、アキラは少し目眩を感じた。

ラノベでは有りがちだが、現実にはずもって有り得ない。


結果から言えば、これは封印ではなく、転移の魔法陣らしかった。

ともあれアキラは、いろいろと状況を整理し、次の疑問を投げ掛けた。


「この件は、あの武器屋が絡んでいるのだろう?冒険者達を焚き付けたのも、あの女か?」

御慧眼ごけいがんおそれいります」


魔族と人間にとって、冒険者達の様なハーフはグレーゾーンだ。


どちらに取り入る事もできる。


冒険者になるには、教会の審査を受ける必要が有るが、同じハーフが営む武器屋や居酒屋に審査が必要かは疑問だ。


幾世代もの交配を繰り返した結果、純粋な魔族に近い者が生まれる事も有るのだろう。


その様な者が町の外で、魔族の斥候や調査隊と接触し、繋がりを持つ事は考えられる。


ラノベでも、人間なのに魔族に取り入ったり、魔族なのに勇者に助力するキャラが居たりする。

人間側の冒険者が、魔族の転移陣を知っている訳がない。

恐らくだが、【封印の魔法陣】とか言ってアキラを陥れさせたのだろう。


「で、俺を呼び出したのは、どう言った理由だ?」


レベルが高いほど、相手の力量が把握できている筈だ。

そう考えたアキラは、【御使い】と呼ばれる事も合わせて、下手したてに出る事を辞めた。


「御使い様に何かを求めるなど畏れ多い。ただ、人間の町で冷遇されていると聞き、御挨拶と御奉仕をと思い、この様な行ないを致しました」


確かに、こんなイベントでも無ければ、アキラは魔族領に出向く予定などなかった。

まぁ、魔族側について、人間を殺しに行かなくて良いらしいので、アキラは内心で安堵している。


「俺は人間だぞ?」

「この世界の人間ではありますまい?」


確かにアキラの肉体的構造は、この世界の人間と寸分違わない。

ただ、内包されている能力と、アキラの魔力量使える外部の力は、限界が見えない。


実質、アキラ自身にも、自分のステータスが見えないのだ。


「俺の事は、どこまで知っている?」

「既に女神様の御神託を受け、この世の摂理を御存知であり、女神様より多くの力と加護を受けられていると、御告げがございました」


確かに、この世界の起源や基本的なシステムについては、女神やサラスバーティから聞いていた。


だからこそ、アキラ自身も、魔族と人間のごうである【攻防】に関わるつもりは無く、試験を受けずに低ランクの冒険者までで留めていたのだ。


Sランク以上になれば魔族との交戦を依頼されると、冒険者ギルドの研修で言っていたからだ。


「人間の町に戻る事は可能か?」

「お望みとあれば、直ぐにでも転移陣を用意致しますが、先の【女神の泉】からは少し離れた場所になります。ただ、」


司祭をやっていると言うベンザイの言葉か詰まった。


「ただ?」

「ただ、わたくし達の誠意として、うたげの準備をしておりますので、願わくば、しばしの滞在をお願いできればと」


ベンザイは、深く頭を垂れた。


まぁ、のんびりできるなら、当面はどちらでも良かった。


「そこまで準備をされて帰ったのでは不粋過ぎるな。では、【共和国】とやらの料理を御馳走になろうか」


【据え膳、食わぬは武士の恥】ではないが、魔族側の状況を知るのも悪くはないと、アキラは思ったのだ。



そうして、ベンザイにいざなわれるままに進んだ別のホールには、大きな舞台と食べ物が用意されていた。


その特等席と言えるべき場所に腰を下ろすと、舞台の上では舞がはじまった。

アキラの左右には薄着の女達が集り、酒や料理をアキラの前に 差し出してくる。


先ずは酒を手に取り、アキラが口にした言葉は、


「ここは、竜宮城かぁ?」


だった。


鯛やヒラメではないが、次々と複数の種族の女達が、艶やかな衣装に身を包み、特色のある舞を見せている。


一通りの舞が終わったらしいので、次の準備をしている間に、アキラはベンザイを呼んだ。


ちゃんと連携ができているらしく、アキラに寄り添っていた女達が、一斉に距離を開けた。


「べ・・・・ベンザイだったか。人間と魔族の状況は分かるか?」

「【状況】と申されますと、社会の輪廻が、どこまで進んでいるかでしょうか?」


人間と魔族が交互に栄えて、大気中の魔素が増減するシステムを、彼女は【社会の輪廻】と呼んでいる様だった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る