第24話 魔族領での認識

人間と魔族が交互に栄えて、大気中の魔素増減を調整するシステムを、彼女は【社会の輪廻】と呼んでいる様だった。


「簡単に言えば、魔族が増えている時期か?人間が増えている時期か?って点だ」


アキラの超感覚も無制限の範囲を把握できる訳ではない。


「その点でしたら、今は【魔族が増えている時期】と申せましょう。ですが転換期が近く【勇者】と呼ばれる者が現れる時期でもあります」

「【勇者】って、俺の事じゃあ無いよな?」


ベンザイは首を傾けて、考えた後に、アキラの顔を見て答えた。


「御使い様が成る事もできますし、成らない事もできると思います。全ては御心みこころのままに」

「俺は、面倒な勇者よりも【隠者】になりたいと思っているんだよ」


アキラが冒険者をやっているのも、情報収集と生きる生活基盤の為だ。

勇者なんて、責任のある仕事は面倒でしかない。

この世界の摂理は、アキラがやらなくとも【勝手に】流転するのだ。

だから、ランクアップもしたくはない。


そう言う世界単位の話をしている間にも、舞台上は武闘会へと移行していた。

素手で戦う試合。

同じ武器での試合。

違う武器での試合。


殺し合いは無いが、怪我人は出ている様で、試合の合間に清掃が入ったりしている。


「それにしても、コレだけの種族が、よくも一致団結できているよなぁ」


形状は勿論、サイズすら違う複数の種族が、たいした争いも無く、並んでいる。


「こうして宴の場を見回すと、まさに魔族の見本市とも言えるな。リザードマン、ワーウルフ、ヴァンパイア、デーモン、ドラゴン、エルフ、ロックマン、獣人、蜘蛛人アラクネ、ハーピー」

「力の優劣も有りますが、言葉か通じるのですから、無闇に争う事はないでしょう?御使い様」

「いや、でも人間とは争っているんだろう?魔族は」


ベンザイは目を伏せ、眉間を押さえながら答えた。


「それは、世界のことわりもございますが、人間が嘘をつき、自らをも騙し、都合の良い時だけ建て前をかざす、尊厳もモラルも無い生き物だからですよ。妬み、さげすみ、差別。そんなカタマリと言葉が通じても、役に立ちませんから」


騙されて、ここに来たアキラは返す言葉もない。


物語でも、力の無い亜人や魔族を奴隷として酷使したり、不満や性処理の道具にする物は少なくない。


この世界で魔族とのハーフが居るのは、人間が優位の時の悪行の結果らしい。

魔族からすれば、下等で薄汚い人間と交わるのは鬼畜の行いだし、魔族が優位の時に人間と交わると、非力な人間は死んでしまうからだ。


「御使い様が勇者になりたくないのであれば、あんな我が儘な者共に紛れず、この共和国で傍観者として暮らすのも、手ではありませんか?」

「まぁ、それもソウなんだけどね」


冒険者ギルドで入手した情報では、人間同士で領土争いをし、個別に魔族の侵攻に対応している様だった。


本来は聖女の居る【女神の泉】が魔族対抗の拠点になる筈だが、各国の勢力争いの為に僻地扱いされている。


勇者になる最有力候補であるランクSSSのレオルドも、大国である帝国に取り込まれていると聞く。


「魔族・・・・我々は自らを【エアリア】と呼んでいますが。エアリア側が、これだけ連携を取っているのに、人間側の何と浅ましい事か!」


エアリア側は、そう言った事情にも精通しているらしく、ベンザイの言葉がアキラの耳に痛い。


「それでも、人型でないのが御不快でしたら、御使い様の周囲は、この女達の様な者でまとめますが?」


この宴の場には、ほぼ全てのエアリア種が集まっていると言える。

そして特徴的なのが、その幾つかの種族が、冒険者達よりも人間らしい形状をしている点だ。

勿論、内部構造には幾つもの違いが有るが。


現在、アキラの周りに侍らせているワーウルフ、ヴァンパイア、デーモン、エルフ等は人間と見分けがつかない。

多少、顔つきに癖がある程度だ。


「冒険者ギルドでの風景と比べると、こっちの方が【人間らしい】って言えるんじゃないかな?」


平素から隠蔽魔法で姿を人間に化けさせている冒険者達だが、アキラが意識を持っていくだけで簡単に魔法を看破してしまうので、アキラには魔族系の姿にしか見えない。


逆に隠蔽魔法を使わなくても人間に見えるエアリアの者達がアキラの周りを固めているので、差異が際立っている。


〔アキラの知るラノベと、この世界に、ここまで差異が有るのは、やはり【普通の人間と、体力・生命力・魔力で勝った魔族の行動にしては矛盾が出てきてしまうから】なのだろうな〕


女神が忠実にラノベを再現しようとして、辻褄が合わなくなった点をメタトロンが指摘した。


『でも、マトモに考えると、本当に人間ってダメな生き物ですよね。メタトロン様』

〔そうだな。【物語り】とは、妄想に近い理想像であるとは言え、【リアルな人間像】が自分自身でも反省点の多いと言うのも、問題があるのではないか?〕

『本当に返す言葉もありません』


その様なエゴイストな面を刺激して共感を感じさせ、書籍を買わせるのも、【物語り】を支える【商売】というものの策略ではあるのだが。


『俺は、これからどうすれば良いんでしょうね?』

〔それこそ、ベンザイの申す通り、汝の望むままで良いのではないか?勇者でも隠者でも。この世界に来たのは【女神様のつぐない】なのだろう?〕


一通りの飲み食いをして、満腹感を覚えたアキラは、少し動こうと思った。


「ベンザイ。お前達の【共和国】を、見て回りたいのだが?」

「御使い様が見て回りたいのは、このデルタファイブをでしょうか?共和国の広域をという事でしたら、装備の準備に時間が掛かりますが?」


まぁ、用意も無しに広域を回るのは、どう見ても無理だろう。

エアリアに食事は不要とは言え、アキラの分や宿泊施設の準備は必要だ。


「この町ならば、直ぐにでも見て回れるのか?少し腹ごなしに歩きたいのだが?」

「そう言う事なら、護衛や案内などをお着けいたします」


ベンザイの目配せで、ワーウルフとリザードマンの男が前に出てきた。


「雑用の側仕えには、コイツを使わせてもらおう」


アキラはソウ言うと、脇差しに付けていた小刀を頬リ投げた。

小刀は、放物線を描きながら数十メートル離れた使用人達の人混みの床に突き刺さったのだった。


「目の前に小刀が刺さった奴。小刀を持って来い」


アキラの声に、皆から押し出される様に出てきたのは、尻尾を丸めて怯えて出てきた獣人少女だった。


「わ、わ、わた、わたしなどはぁ・・・・・」

「御使い様の御指名を断ると?」


ベンザイの睨みが、出てきた娘に向き、周囲もソレにならった。

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