第21話 超絶冒険者と魔剣

加えて、ラビットテイルの好成績、ヴァルキュリアやキャッツアイに対する提案や紳士的態度により、以後は女性チームや弱小チームを中心に、多くの協力依頼を受ける事になっていった。


その影響だろうか?

寝床を探る為か興味が有るだけか、尾行をする冒険者が増えたのが、アキラの悩みのタネとも言えるが。


そうして、約半年後。


生活費程度に仕事をしていたアキラも、ある程度の金額を手にできたので、彼は念願の武器を購入する事にした。


「久しぶりだねアキラさん。噂は聞いてるよ。今日はアレだね?」


店に入るなり、店主のニヤケた顔が出迎えた。


「そう。コイツの長い方を買いに来た。確か金貨7枚だったよな?」


店主は横にいた若い女店員に指示をして、奥へと取りに行かせながら、首を横に振った。


「あんたには、姪っ子の一人が世話になったらしいからな。金貨5枚に負けとくよ」


聞けば、ハーピーとアラクネのクオーターであるピッピの伯父にあたるらしい。


「そりゃあ助かる。今度、彼女を食事にでも誘おうかな?」

「オヤオヤ、金貨10枚に値上げして欲しいのかい?」

「いやいや、やはり仕事で頑張らせてもらおう~ハハハハッ」


両者が乾いた笑いを交わす。


「ところで、そっちのアサギリは、使いこなしているかい?」

「アサギリ?」


恐らくは、このセットのめいなのだろう。

買う時には、聞いていなかった話だ。


「なんだ。あんたなら説明不要だと思っていたんだが・・・・剣を抜いて、魔力を込めてみてくれや」


言われるままに、アキラは刀を抜いて、柄から魔力を流した。


刀身に、うっすらともやが掛かって見え始める。


「【浅霧】?いや【朝霧】か」

「柄の内側に魔法陣が刻まれていてな、魔力を注ぐと表面に水滴が発生し、刃の部分が高速振動して、鉄の鎧でも切り裂く魔剣なんじゃよ。ソレは」


刀は、無制限に肉を切れるわけではない。

血糊や脂が付着し、人間なら三人くらいで切れなくなる。

連続して多人数を相手にする場合は、相手の刀を奪って使うか、突き攻撃に限定されるのが現実だ。


切る度に血糊を洗い流せるコレは、夢の日本刀と言えるだろう。


次に、基本的に剣は打撃戦であり、鎧越しに筋や骨を打ち砕く物だ。

比べて刀は、速度と小回りで生身部分を切り裂いて致命傷を負わせる。

フルプレート鎧の様な相手の場合は、関節を狙うか突きで攻撃する武器だ。


だが、これは鎧すら切り裂く高周波プレードらしい。


「その【魔剣】が有れば、どんな敵にも【マケン】!ナンチャッテな~」


アキラは、思わず頭を抱えた。


「店長ぉ~オヤジギャグに御客さんが引いちゃってるじゃないですかぁ」


奥から戻ってきた女店員が、刀を手に突っ込むが、アキラはオヤジギャグに引いていた訳ではない。


【シャレ】とは本来が【御洒落/オシャレ】から来ており、発音が類似した言葉遊びを【シャレには至っていない】と言う観点から【駄洒落/ダジャレ】と呼んでいるらしい。

つまりは、日本のダジャレを外国語に直訳したり、外国語のダジャレを直訳しても、ダジャレにはならない。


『メタトロン様。言葉も文字も、自動翻訳されていると思ってましたが、コレは、日本語だったんですか?』

〔勿論だ。元が【日本のラノベ】なのだからな〕


物語では、転移者には初心者パックや神様の加護として、自動翻訳が付いていて異世界語を理解できているのだが、思えばコノ世界は日本のラノベを現実化した物なのだ。

わざわざ異世界語を作る必要は無い。

それに、日本の読者用に駄洒落を飛ばすには、異世界語では都合が悪い。

アキラはコノ半年間、ずっと勘違いをしていた様だ。



しばらくして、どうにか立ち直ったアキラは、金貨5枚を払って、2メートル近い【朝霧】を背負った。

普通の大太刀は、背負い紐を前で結んでおり、抜刀の時に結びを解くのだが、この朝霧はベルトで固定してある。


本体の外見上で特殊なのは、その鞘の挿し口の辺りが、多少変形している点くらいか。

脇差しの朝霧同様に、造りは日本刀と同じで、打ち返しによる多層構造と鋼鉄軟鉄の複合構造になっている。


「このベルトじゃあ、抜くのに時間が掛かって実戦向きじゃあないなぁ」


宮本武蔵の巌流島で、佐々木小次郎が【物干し竿】と呼ばれる大太刀の鞘を投げ捨てて「小次郎敗れたり」と言われるが、人間の身長で、独りで大太刀を扱う上では、実は当然の作法なのだ。


よってベルトで固定されていては、大太刀を鞘から抜く事ができない。


「御客さん。柄を握って魔力を流して御覧なさい」


言われる通りに魔力を流すと、刀は簡単に前に抜く事ができた。


「その鞘も、柄に魔力が流れると、側面が開く様になっているから、いちいち鞘を捨てる事はありませんよ」

「これは凄い!」


戦国時代に、これに類似した技術があったら、戦法に革新が起きていたかも知れない。


大太刀の朝霧も、脇差しの朝霧同様に霧と高周波プレードを発している。


胴田貫に似た仕様で、通常の大太刀の5倍近い重量の為に、人間の振り回せる品物ではなくなっているが、巨大な魔物を相手にするには、このくらいが必要だろう。

当然だが【普通の人間】の身体能力では、この様な武器は使えず、冒険者にも成れない。


物語では、ついつい忘れがちだが、生身で魔法を使えたり、怪力を使ったり、変身したりする者は、既に【普通の人間】ではないのだ。


「これで、これまで以上に仕事ができますよ」

「良かった。あんたの活躍を、期待しているぞ」


恐らくだが、ゴブリンやオーガクラスなら、一振りで複数を倒す事も可能だろう。


店を出たアキラは新しい刀を使った戦術を考えながら、宿屋へと向かった。


〔しかし、あの娘は・・・〕

「何ですか?メタトロン様」

〔いや、何でもない。運命について考えていたところだ〕


アキラには超感覚が有るが、ソレは年中稼働している訳ではない。

人間の脳は、感覚や意識を集中する事はできても、ソレを持続し続ける事はできないのだ。


考え事をしていたがゆえに、アキラは彼が路地を曲がったタイミングで店に入った客に気をとめる事は無かった。

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