第20話 超絶冒険者と縮図

その後、夜半までチーム【ヴァルキュリア】の宴は続いた。




魔法はとても便利だ。

学生時代に、合コンに付き合わされた翌日に、あれだけ苦しんだ二日酔いが、【身体強化魔法】のお陰で一切無い。


翌朝のアキラは、意気揚々と冒険者ギルドの扉を開いた。


「やぁ、アキラくん。早いね」

「おはようございます、マイヤーさん」


年齢は同じ位だが、彼女はDランク冒険者で先輩だ。

このギルドには、Cランク冒険者がラーガンド以外にも居るが、女性陣はDランク止りらしい。


元より、昇格評価に値する魔物が居ないのが原因かも知れないが。


マイヤーは会議室の一つを借りきり、メンバー紹介をアキラにし始めた。


「改めまして、私がリーダーで大剣役をやっているマイヤー。二刀流のギーアと盾役のバーシャル、魔法のルーと斥候のヒュイアよ。今回はオーガ肉の入手が目的のクエストになるわ」


マイヤーは依頼書をアキラに見せて、その報酬が肉の量に対する歩合制である事を提示した。


「歩合制と言っても、運べる量に限界があるから、頑張りすぎない様にね」


アキラのオーバーワークは、けっこう知れ渡っている様だ。


【キャッツアイ】は女性の五人組で、皆が猫科の獣人系だった。

能力的には大差なく、それぞれが特化した特別な能力を持っている様子もない。


【ヴァルキュリア】もだが、女性チームは、同系の種族でまとまっている事が多い。

習慣や好み、行動パターンやプライベートなど、仕事以外にも仲間意識を持ち込む事が少なくない為だ。


その結果、チーム構成を仕事で割り切る事ができず、魔法のバリエーションや得意武器を捨てて、一部が防御担当や支援役に回る必要性が出てくる。


女性チームでなくとも、ラビットテイルの様に、半端者の寄せ集めチームも同様な側面がある。


【オーケストラは人生の縮図だ】と言う言葉がある。


音楽を志す者の大半は、ピアノを習い、ピアノやヴァイオリンなど主旋律を担う奏者を志す。

だが、そんな人々の能力には現実として格差があり、能力の劣る者は、演奏会の度に別の機会を待って一生陽の目を見ない事が少なくない。

音楽を志す者としては、別の楽器の演奏をしてでも演奏会に出るかの選択を迫られる。

また、シンバルや木琴など、必要だが人気の無い楽器の演奏を不得手でも強要される事がある。


野球などのチーム競技も同様だ。

皆がピッチャーを志しているが、センターやライトをやる者が居なければ試合はできない。


つまり、好むと好まざるに関係なく、その道を進むなら、また、生きる為には、望まぬ役をやらなくてはならないと言う事だ。


この様な犠牲の元に、攻防のバランスは保たれるが、魔法特性は偏り、全体のレベルは頭打ちになってしまう事が多いが。


各種技能のスペシャリストが集まって作るチームなど、実際には話題にされる一握りに過ぎない。


このチーム【キャッツアイ】は、そんな魔法特性の不得手を金属製の武器や防具の充実で補っている。

先日は革鎧だったマイヤーも、今回はフルプレートの鎧を着込んでいた。


簡単に解説するならば、獣人が得意な土魔法は、風/植物系魔法に弱い。

だが、風魔法が苦手な雷/金属系の武具や魔法具を揃える事で耐性を付けているのだ。


風魔法の真空斬りソニックブレードも、金属鎧によって効果が落ちてしまうと言う感じだ。



メンバー紹介の後は、斥候のヒュイアが地図を広げて、状況説明を始めた。


「まず、オーガの棲息域は、この辺りで、見つけた群はココからゆっくり東に移動している。数は30前後、何匹か上位種も居るみたい」

「ずいぶんと距離があるのですね」

「この町の近くに現れるオーガは、言わば【はぐれオーガ】だよ。町には冒険者も居るから近くには、すばしっこく小さいゴブリンが巣くってるくらいなんだ」


逆に言えば、大型や狂暴な魔獣の居ない地域に町を作っていた。


続いて、マイヤーが戦法の確認を始める。


「今回の標的、オーガが持つ特性【火】に対して、我がキャッツアイの魔法特性【土】は耐性がある。火炎攻撃は各自の土魔法で容易く防げるが、基本のフォーメーションはいつも通り。今回も防備は軽装で、攻撃は鉄剣ではなくセラミックスピアを使用する」


今のマイヤー達が重装備なのは、移動中のトラブルに対処する為だ。


そしてセラミックスピアは、陶器でできた使い捨ての槍。

火炎魔法で攻撃や防御を行うオーガは、その魔法で降りかかる剣などを融かして防御するが、陶器は半端な高温では溶けない。


その槍を大量に突き刺して、出血死で倒すのだが、群れを相手にする場合は大量に使い捨てる為に馬車で運ぶ必要がある。


今回は、その槍を運んだ荷車でオーガの肉を持ち帰るので無駄はないが。


「南側から側面を攻撃するんだが。アキラくんにはオーガ肉の冷凍を頼みたいのだ。出来れば水魔法で攻撃支援もしてくれるとありがたい。どうかな?」


火魔法の天敵は、当然【水魔法】だ。

威力を相殺し、魔力を奪う事もできる。


「了解です。俺は支援役って事で良いんですよね?」

「そうだ。君の協力で高額な報酬が望めそうだ」


オーガ肉を多くの冒険者が好むのは、先日のヴァルキュリアの反応を見れば分かる。


オーガ肉が安く出回ればヴァルキュリアにも好感が持たれるだろう。

今は親睦を図るのと、経験を積むのが必要と考えるアキラだった。


そのまま、アキラとキャッツアイは、近くの停車場に準備された二台の荷馬車に乗って、町を出た。


先日のメタルウルフ狩りとは方向も距離も違う。

荷馬車なので速度も違う。


「一度野営して群れの位置を確認し、夜明けと共に狩りを始める」


猫科は夜目も効くので偵察は御手の物だが、人間の特性もあるので、仕事は昼間に行っている。

このリズムを崩すと人間社会では不便な面が増えるからだ。


「それに、夜目の効かないオーガを夜に襲うと、群れがバラバラになる。明るい時に襲えば、群れ単位で逃げようとするので、効率的に攻撃ができるのよ」


経験に基づいた、合理的な方法だ。

既に何度も行った狩りに、アキラの支援で、従来の倍近いオーガを狩る事ができた。


加えてアキラの提案により死体を解体し、有用な部位のみにして輸送の無駄を省いた。


通常なら痛むのを気にして出来ない行為だが、冷凍魔法によって成し得た事と言える。


こうして安価で大量に出回ったオーガ肉の為に、アキラの評判は一部の冒険者達に対して、一気に好転した。


加えて、ラビットテイルの好成績、ヴァルキュリアやキャッツアイに対する提案や紳士的態度により、以後は女性チームや弱小チームを中心に、多くの協力依頼を受ける事になっていった。

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