第5話 女神様は粗忽者

〔今更だが、ここまで来ると、本当に女神様は粗忽者そこつものではあるな・・・・・〕


メタトロンの言葉に、アキラは少し考える。


「いいえ、メタトロン様。女神様は、変化を求めているのかも知れません。定番通りにしたいのであれば何らかの出会いがある筈ですが、周囲には誰も居ません。つまりは、この様な状況で、どの様な展開が可能か傍観しているのでしょう」


ラノベに否定的なアキラが、こんな世界に導かれたのも、作為的と考えない訳でもなかった。

なにしろアキラは【神様は嘘をつけなくては万能と言えない】と考えている者だったからだ。


〔なんと・・・しかし、詫びる相手に対して・・・いや、ソレさえも既に忘れておられるのかも知れぬな・・・〕


アキラは、メタトロンの中間管理職的つらさをしみじみと感じて手で顔を被った。


「まぁ、何処かにお金でも落ちているといいんですが・・・落ちている?落としている?アレッ?」


彼は、何かに気が付いた様だ。


「道沿いで、ゴブリンとかの魔物の生息位置と近い所を重点的に探れば・・・」

〔何をしているのだ?アキラ〕


この世界で人間を襲う様な【魔物】は、多かれ少なかれ【魔力】を持っている。

それは容易にアキラの能力で検知できた。


次に植物が少なく、踏み固められた【道】との位置関係を比較し、それらが近い場所をアキラは探していた。


「この世界でも、定番通りに魔物が人間を襲っているなら、その被害者の遺留品があるんじゃないかと思いまして」

〔遺留品?そうか!魔物は血肉を欲しても、金や持ち物は放置だからな〕


定番ファンタジーならでわの不可避な現実にアキラは気が付いたのだ。


「亡くなった方には申し訳なくも思いますが、ここは生きている者を優先させてもらっ・・・っと。そう遠くない所に何ヵ所か金属反応が!」


アキラは転移魔法で、一気にソノ場所にまで移動した。





ソコは、街道の少し曲がった場所で、見通しが悪くなっている。

周囲は木々で覆われて、隠れて襲うには絶好の場所と思われた。


実際、オーガと呼ばれる肉食魔物が潜んでいた。


「狩り場か?レベルは・・最高でも50?雑魚だな!」


町の衛兵の最高レベルが55だった事から、一般人には強敵なのだろうが、女神の加護を受けたアキラは脅威に感じなかった。


雷系魔法を使った金属探知で探った場所を、小枝で掘り返して、木々の間に埋没した遺留品から財布だった物を探り出す。


人間を襲った後に、狩り場だとバレない様に隠蔽する知恵位はあるのだろう。

道で襲い、遺留品を周囲の森に投げ捨てている様だった。


そうして散らばった通貨を拾っているアキラの後方から、やや小さめのオーガが剣を振るってきた。


ゴブリンは棍棒などを使うが、下級のオーガは多少は知恵があり、人間から奪った剣や防具を使う知恵がある。

成体は3メートル程もあるので人間の鎧などは使えないが、子供のオーガには着せている様だ。


完全に気配を消して、死角から襲ってきた子供オーガだったが、既に視覚に頼らずに物捜しをしていたアキラに知られていないわけがなかった。


アキラは振り向きもせずに、風系魔法で背後のオーガを両断した。


「ギャー!」


断末魔をあげて倒れる子供オーガを気にする様子もなく、アキラは次の財布を捜して移動を始めた。


客観的には、なぜ子供オーガが死んだかは分からないだろう。

だが、何らかの因果関係は予想できる。


「グアッ!ガー」


恐らくは、親オーガだろう。

3メートル以上ある大人オーガが三匹も同時にアキラに襲い掛かった。


「うるさいんだよ!」


睨んだアキラの視線一つで、全てのオーガが、一瞬で切り刻まれた。


そう、歩きながら虫を祓う様に、ほとんど眼中に無い。


〔まだ探すのか?〕

「日本とかの治安が良い場所なら、あんな城壁みたいな町壁は無いでしょう?町の中なら兎も角、町の外を一人で歩く猛者が、こんな奴等に殺られる訳がないですからね。商人や旅行者は常に複数ですし、狩り場なら最低でも複数人は襲われているでしょう?」


魔物が生息する世界で、戦闘レベルの低い者が護衛も無しで外を出歩くなど、書物の中でしかない。

元がラノベでも、それを現実に変換したのならば、それなりの変化が起きるものだ。


案の定アキラは、この場所で使えそうな財布を5つ見付けた。


その後も、他の魔物の狩り場へと転移魔法で移動して、幾らかの金額を手にした。


「うん。初期の所持金は、こんなものかな?」


現金以外にも入手した物があるが、特に金貨と銀貨は腐食に強い為に、数年前の物でも使用可能だったのが幸いした。


アキラは、ふたたび元の場所に戻ると、人間の町へと歩みだした。





「止まれ!何者だ?」


門に着くなり、いきなり複数の衛兵に武器を向けられ、アキラは足を止めた。


『おかしいな?スキルやレベルの隠蔽はしてあるのに』

〔この世界では、レベルやスキルが全てである。いくら隠蔽しても自分より大きいかくらいは分かるのだよ。それに・・・〕


アキラの疑問に、メタトロンが即答する。

どうやら言葉にしなくとも伝わるらしく、メタトロンの声もアキラ以外には伝わらない様だ。


「膨大な魔力と見慣れない服。何処から来た者だ?」


別の衛兵の問いが、アキラに答えを告げる。


確かに日本の服装は、ここでは目立つのだろう。

更にはオーガの返り血も付いている。


「武器を下げて下さい。遠い町ニホンから来た旅の冒険者です。この近くで魔物に襲われてしまって、この有り様なのです。失った装備の補充をしたいのですがダメですか?」


アキラは、懐から割れた冒険者プレートを出した。

かろうじて、冒険者プレートと分かるソレは、森で遭難した冒険者の遺失物だ。

名前やランクの部分は折って捨ててある。


「なんだ!冒険者か?人間に化けた魔族かと思ったぞ!災難だったろうが通行料は払えるか?規則なのでな」

「大丈夫です。かろうじて、財布は死守しましたから」


そう言うとアキラは、壁に書いてある通行料『銀貨1枚』を衛兵に手渡した。

アキラには日本語でない文字が読めるが、これもラノベ特有の『初心者セット』とか言う物なのだろう。


「ようこそ!『女神の泉』へ」



ーーーーーーーーーー


一般人 HP1:TP3

    MP0:MT0

総合レベル1~3



衛兵  HP10:TP5

    MP3:MT2

総合レベル56~


戦士  HP50:TP8

    MP5:MT5

総合レベル425~


勇者  HP100:TP20

    MP100:MT20

総合レベル4,000




ゴブリン レベル5

ソルジャーレベル10

ナイト  レベル30

ロード  レベル50

エンペラーレベル100


下級オーガ レベル50

中級オーガ レベル100

上級オーガ レベル200


戦闘レベル=HP×TP+MP×MT


HP:身体能力

TP:身体技術

MP:魔力量

MT:魔法技量

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