第6話 女神様は創設者
「ようこそ!『女神の泉』へ」
「『女神の泉』と言うのですか?この町は?」
「そうだ!女神様が与えて下さった泉で栄えた町だからな。水源である教会は観光地にもなっている」
出迎えの言葉は観光案内にもなっているのだろう。
商人ならば、荷物や持ち物検査をされるのだろうが、鞄すら持たないアキラはスルーされた。
門をくぐった先は、大通りになっており、左右に露店商が並んでいる。
道の先に見えるのは、領主の屋敷だろうか?
城ではないが、立派な建物が見える。
露店商の大半が人間だが、通行人の一部でフードをかぶり帯刀しているのは獣人や異形の者が隠蔽魔法で人間に化けているものだ。
「超感覚だから分かるのか?入り口で【魔族】とか言っていたが、ああ言うのは魔族扱いじゃないのか?」
〔その辺りの認識は、教会で聞くと良いぞ。これから向かうつもりの【冒険者ギルド】では話題に上げぬ方が無難だ〕
超感覚で見ると、異形の者も冒険者プレートを持っている。
「あれが、冒険者なのか?」
〔その辺りは、汝の知るラノベとは違うようだな〕
この世界は、ラノベを元にしていると聞いていたのだが、どうやら少し違う様だ。
超感覚で冒険者プレートの集まっている所を探れば、自ずと冒険者ギルドの場所は分かる。
だがアキラには、冒険者ギルドより先に行くべき所があった。
無理をして、複数の財布を集めたのも、その為だ。
「先ずは、古着に着替えて風景に溶け込もうか」
幸い、商人の中には東洋系の顔の者も居る。
できるだけ、それらに近いコーディネートで古着を買い揃えた。
背負うタイプの袋も買った。
「【衣】が済めば、次は・・・・・御姉ちゃん!串焼き5本とエールをお願いします!」
別段、空腹にはならなかったが、アキラは食事をしたかったのだ。
血のついた異国の服では、飲食店でも警戒されかねない。
銅貨は腐食しやすいので、形を保っていなかった為に銀貨を払い、彼は初めて銅貨を手にすることとなった。
「レベルやスキルを見る限りでは、一般人のHPは1前後。MPは0が標準かぁ。衛兵はMPが1以上が大半。戦士や冒険者はMPが5以上で純粋な人間とは言いにくい身体。MP10以上になると部分的にも異形化して、隠蔽魔法を使っているな」
露店商のテーブルで串焼きを頬張りながら、アキラは町の住民を観察した。
ラノベでも半獣人やドワーフ、エルフなどが人間のパーティに混ざる事はあるが、ここまで異形種が冒険者だらけなのは見た事がない。
マトモな人間は一般人しか居らず、冒険者の中に純粋な人間は皆無だ。
「これが【冒険者ギルドでは話題に上げぬ方が無難だ】と言っていた訳ですか?メタトロン様」
〔そうだ。この世界は汝の知るラノベとは、多少異なるのだ。他にも、貴族も一般人も誘拐されたり奴隷にされるのを恐れて、常に帯刀し、単独で歩く事は無いし、回復ポーションも存在しない〕
「まぁ、貴族の独り歩きは現実にも存在しないし、日本以外では殺人も誘拐も日常茶飯事な地区が実在しますからね」
貴族は、その服装や行動が家の評価に繋り、それで家が潰れる事すらある。
その服装や装飾はコルセットで締め付けられ、物を掴めない付け爪や飾りだらけの手袋、ハイヒール等で構成されており、自らが何かをするのには向かない【外観重視】なものである。
床に落ちている物すら拾えず、財布やハンカチを入れる場所すらない。
剣も軽い飾り物だったりする。
結果として実務を担当する【側仕え】が最低でも二人以上が、常に同行する。
寝る時の着替えから、入浴やトイレに行くときさえも。
財力の無い貧乏貴族でも、自宅以外では必須だ。
屋外行動には、更に護衛を付けなくてはならない。
「でもポーションも無いんですか?」
メタトロンの意思が、アキラの視線を動かし、生肉の痛んだ部位を削ぎ落とすシーンを見せる。
〔ラノベにある【傷を癒し元気にするポーション】だが、細菌などによる腐食がある世界で、傷口のバクテリアや腸内細菌に与えると、どうなるのだろうな?〕
「傷口が一気に膿んだり、腸内炎を起こしたり・・・するでしょうね」
ある種の【薬】とは、【細菌類に対する毒】と言い換える事ができる。
傷薬を飲んではいけないし、飲み薬を傷に擦り込んでもいけない。
適材適所に用意された適量の薬を使わないと、万能薬の場合は人間以外の者も癒してしまう。
現代の比較的万能薬たる【ブドウ糖】も、【点滴】と言う限られた範囲でしか使われない。
魔法のポーションも、本来は点滴として使うべきなのだろ。
どんなに有効な物でも使用できる濃度には限界があり、速効性のある物は、様々な副作用がある。
そう!
犯罪も島国国家と違い、大陸文化は今も【犯罪を犯しても陸続きで国外まで逃げれば良い】と考えている者が多い。
そして、夢物語りの舞台は、大抵が【大陸】の一部だったりする。
食べ終わったアキラは、店員にアイコンタクトをとり、席を立った。
「最後は武器が必要か。だけどできれば・・・・」
冒険者ギルドの近くにも武器屋はあったが、アキラはアノ武器を探していた。
「こんな時は、東洋系顔の商人が集まっている辺りを・・・っと、有った有った!」
わりと細い路地を入り込み、アキラはソノ店のドアを開いた。
「いらっしゃい。何かお探しで?」
おもて向き、店主は別に警戒する様子もなく声をかけてくる。
この世界では、一般人も自衛の為に刃物を携帯している。
金物屋並みに、普通に入れるのだ。
しかし、視野には店員が二人だが、奥には帯刀した数人が控えているのをアキラは知覚していた。
「そうだなぁ~細身で片刃の長い奴が欲しいんだけど、有るかい?」
「あぁ、あの国の人かい。飾りですかい?護身用かい?狩り用ですかい?」
店主はアキラの顔形を見て、ピンと来た様だ。
「狩り用のシッカリした奴が有れば、欲しいんだが?」
「有りますよ。ちょっと待って下さいね」
店主の老人が、奥へと入っていく。
珍しいのか、残った若い女店員がアキラの顔をチラ見していた。
やがて出てきた店主の手には、二本の日本刀らしき物が有った。
アキラは、西洋の重い両刃よりも、速度重視の日本刀を振り回したかったのだ。
勿論、アキラの能力ならば、メイスだろうが、アックスだろうが楽勝だが、使いたい武器が使いやすい武器の場合もある。
「丈夫さならコッチだが、森とかで狩りならば、この短い方だな」
最初に見せられたのは、長さは
肉厚で長さも2メートル近くてカッコイイが、障害物のある場所での戦闘には不向きだ。
二本目は、その刀を短くした様な物で、江戸時代の侍が使っていた長さだが、造りはシッカリ胴田貫している。
アキラは二本差しも考えたが、ここは短い方から使う事にした。
「じゃあ、先ずはオススメ通りに短い奴で」
アキラは胴田貫の方をチラ見しながら、そう告げた。
ここは、少し駆け引きだ。
剣を持つ者にとって、長剣はステータスだ。
それは、町行く冒険者を見ても分かる。
そして、この店主には、僅かだがMPがある。
つまりは、アキラのMPが大きい事を感知できているのだ。
「金貨5枚にしときますよ。これで稼いで来なさいな」
「できれば、長いのも取っておいてくれるとありがたいな」
アキラは、そう言って懐から金貨を出した。
「毎度あり。使い方は大丈夫でしょうな?」
「勿論だよ」
そう言って、アキラは刀を帯紐に通した。
刃を上に向け、帯にはキツく縛らずに、抜く時、鞘先を少し肛門側に向けるのがコツだ。
戦闘時の機動力の為に、下半身は袴に似た物にしている。
だが、草履は無かったので、足元はブーツだ。
「なんか、坂本龍馬の写真みたいになったな」
小声で呟きながら、アキラは店を出た。
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日本刀
直刀は古墳時代以前より存在していた。
その後に改良され、素材は青銅から鉄に変化した。
現在では打ち返しにより年輪の様な積層構造を持ち、外側に鋼鉄、内側に軟鉄と言う二素材構造を持つ片刃のやや反った細身の刃物を指す様になっている。
鋭さと柔軟性、軽量化を重視し、戦法としては速度と切れ味を主体としている。
通常の刃物が押し切りタイプなのに対して、日本刀は引きながら切る日本ノコギリと同様の切り方をする。
大太刀
1270年代に侵略行為を行ってきた元(現在の中国と朝鮮)のとった集団戦を参考に、青竜刀の様に大型で多数の歩兵を一騎で薙ぎ倒す目的の為に開発された。
全長が150センチ以上あり、部下に持たせるか背に背負う持ち方をする。
国内戦では活躍が少なく、従来通りの1メートル前後の物が主流になっていく。
同田貫/胴田貫(どうだぬき)
一般には【どうたぬき】の呼び名が普及している。
九州肥後国菊池の同田貫(現在の熊本県菊池)を本拠地に、1560年前後から活躍した肥後刀工の一群と、その作品。
従来の日本刀に比べて肉厚幅広であり、速度を犠牲にして破壊力を増強した刀と言える。
切れ味を試すため、田んぼで死体を試斬したら死体は真っ二つになり、刃が田んぼにめり込んだというのが「胴田貫」とも言われている。
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