第7話 女神様は参加者

「なんか、坂本龍馬の写真みたいになったな」


小声で呟きながら、アキラは店を出た。

これで上半身も着物だったら完璧だったろう。

だが袴は、実は森で蛇などに噛まれた時に役立つのだ。


そしてアキラは、しばらく歩いてから財布の中身を確認する。

超感覚で分かってはいるが、再度、肉眼で確認したかったのだ。


「あ~っ!散財したぁ~」

〔安い剣を買い、稼いでから日本刀を買うと言う選択肢も有ったのではないか?〕


財布の中は、心もとない。

確かにメタトロンの言う通りではあるのだが、


「ここは、男のロマンなんですよメタトロン様」


胴田貫は腰に差すと言うより、背にかつぐ物なので、今回の刀は無駄にならないのだ。

それに、デザインも統一されていた。


「あのセットを作った奴は策士ですよ」

〔・・・・・〕


声だけのメタトロンが呆れているのが分かる。

ここでくじけてはいけない。

アキラは思考を切り替えた。


「では、いよいよ冒険者登録に行きますか?」


既にシナリオはできている。

本国で修行して、商人の護衛として同行して来たが、契約期間が切れたのを期に、外国の魔物と戦ってみたかったのでギルド登録をするというものだ。


いろいろな魔物と戦うには日数がかかる。

その間に生活するのにも金がかかる。

魔物を倒しても、魔石を換金するにはギルド登録が必要となるのだ。


頭の中で反芻はんすうしながら、冒険者ギルドの建物に入った。


「なっ、何ですか?いったい」


ギルドのサロンに入ったアキラを待ち受けていたのは、数十人の視線と武器に手を掛けた者達だった。


「冒険者登録をしに来た者ですが、何処に行けば良いのですか?」


アキラの言葉に、視線は変わらないが人が動き、あらわになる受付があった。


「新規の受付は、こちらです」


その受付嬢が声をあげた。

彼女も少し怯えている。


『これもレベルの格差を隠蔽しきれない為か!』


MPレベル0の者には全く感知できず、レベルが上がるほどに明確に格差を感じるらしい。


アキラは、準備したシナリオを話して、申請手順の説明を受けた。


「新規の受付は、随時行っています。先ずは、こちらの書類に記入してもらい、その書類を持って隣の建物である教会で審査を受けてもらいます」

「隣の教会ですか?」


確かにギルドの隣に教会みたいな建物があった。

例の泉のある教会だろうか?


「審査にパスした方は、受講料の銀貨5枚を支払った上で、このギルドで基本的な講習を受けてもらい、筆記試験合格者がFランクに仮登録となります。ここまでが、一日目。翌日からギルドの教育担当と共に、指定された町の清掃業務と、ゴブリン退治を経て能力が認められたら、技量に関わらず最初はFランクに本登録となります」

「最初は、引率がついてくれるんですね」


まぁ、ズルをしない為の監視だろう。

次に受付嬢は、壁に貼られた依頼状を指差した。


「冒険者ランクにはSSS、SS、S、A、B、C、D、E、Fとあり、自己のランク以下の依頼を受ける事ができます。成果や評価によりランクアップし、魔石や一部の採取物は、ギルド裏手の資材受付で現金化する事ができます」

「仮登録でも魔石などの換金は可能ですか?」

「物によりますが可能です。何をお持ちですか?」

「オーガの魔石が数個有るのですが、早めに現金化したいので」

「オーガの魔石なら大丈夫ですよ」


どうやら、当面の食い繋ぎはできそうだ。


「以後の説明は、本登録の後になります」


受付で筆記用具を借りて書類に記入し、一度ギルドを出て教会の受付を探す。

教会の職員は、殆どがMPレベル0だ。


「あのう、冒険者ギルドの登録審査を教会で受ける様に言われたのですが・・・・」


目についた職員に声をかけてみた。


「はい。お受けしています。こちらにおいで下さい」


書類を渡し、広い部屋の中央にある椅子に座らされた。


「まるで、何かの謁見の間だな」


部屋の一面に御簾みすが下がっているのは、時代劇で見た平安時代とかの貴族の謁見の間に似ていた。


1~2時間は待たされると言われたので、部屋の隅々を眺めて『おぉ~凄い』とか騒いで見せたが、


『天井に四人、御簾の向こうに六人、後ろの壁に三人、床に二人か?この周辺では最高ランクに近いんじゃないかな?なんで、こんなに居るんです?メタトロン様』

〔それは、汝が規格外で有るからであろうよ〕

『ですよねぇ~ラノベの主人公は、こんな扱いは受けないのに・・・やはりリアルだと【ゴ○ラ】なのか?超絶主人公は』


メタトロンとの会話は【念話】の様に他者に知られる事はないが、若干の沈黙ができるのでタイミングが問題だ。


更に想定外の事に、1~2時間待つと言われた【審査】だったのに、10分程で動きがあった。


御簾の脇から二人の女官が現れ、静かに御簾が上がってゆく。

御簾は多層になっているので、不透過がレース越しになった様な状態だ。


「こちらは【聖女】とも呼ばれている巫女のサラスバーティ様です。こうべを垂れなさい」


言われるままに、片膝をついて頭を下げたアキラは、その名と顔に覚えがあった。


『ゲームとかでも見る名前だし、あの顔は・・・・メタトロン様?』

〔恐らくは、女神様の分体だろう。レベルは低いが、スキルに不明瞭な点がある〕

『確かに文字化けみたいな所が有りますね』


巫女の容姿は、神界で見た女神に酷似しており、アキラの超感覚でも、そのスキルの全てを見る事が出来なかった。


「サエグサ・アキラよ。そなたには女神様よりの御神託ごしんたくがある」

「御神託ですか?」


巫女の言葉に、女官も驚いている。

アキラは、冒険者登録用紙に【アキラ】としか書いていないのに、本来のフルネームを呼ばれた事に一瞬驚いたが、先のメタトロンとの会話で、すぐに気を取り戻した。


突然、不思議な光に包まれた巫女が、口を開いて話し始めたが、その声は女官達には聞こえていないようだった。






ーーーーーーーーーーーー


サラスヴァティーは、芸術・学問などの知を司るヒンドゥー教の女神の名で、日本では弁財天の名で知られている。

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