第17話 超絶冒険者の計画

「じゃあ、フライアットさん。明日は、どの手のクエストにしますか?」

「それなんですが、五日ほど休みにしたいと思うんですよ。お陰さまで収入は増えましたが、精神的な負担が我々には大きくて」


実際に精神面で、目の下にクマができているくらいに、彼等は大声や接近する物にナーバスになっていた。


フライアットは済まなそうにアキラを見上げ、アキラは顔を押さえて項垂れた。


「申し訳ありません。俺の配慮が足りなくて」

「いえいえ。アキラさんが俺達の事を考えてくれた事は分かりますから。むしろ、その間にクエストを受けられないアキラさんに申し訳なく思って」


客観的には、アキラが無理をさせ過ぎた為に、自滅した感じになっている。


「じゃあ、その間、アタイ達と組まないか?」


話を聞いていたのか、一人の女冒険者が歩み寄ってきた。

かなりグラマラスな30歳前の美女。


「えっと、確かDランクの・・・・」

「チーム【ヴァルキュリア】のリーアだ」


声をかけてきたのは、ハーピー系が多いDランク女冒険者のリーダーだ。


「おいおい、いきなりDランクかよ」

「Cランクのラーガンドが絶賛してたって言うから、あながち不釣り合いって事でも無いだろうが」

「レディースチームにかよ?」


〔アキラよ。これが狙いか?〕

『ソウなんですよメタトロン様。かなり警戒されていたみたいですからね。でも予想より早かったな』


アキラは、猫の手も借りたいラビットテイルに手を貸し、協調性と実績を見せて、他のチームが声を掛けてくるのを待っていたのだった。


予定では、あと何回かクエストを共にこなすはずだったが、予想以上にラビットテイルのメンタル面が弱すぎた。


「俺、Fランクですけど大丈夫ですか?」

「実力はC以上と噂されているよ。君は」


アキラは、フライアットの方をチラ見して、彼が納得している様子を確認した。


「『まぁ、女神様の加護があるからねぇ』では、短い期間ですが、よろしくお願いします」

「こちらこそ、頼りにしているよ。君はファイアボールが得意と聞いているからね」

「まぁ、ソコソコは『ってファイアボールじゃなくてホーミングレーザーなんだけどね』」


そんな話をしている間に、フライアットが報酬の分割を終えて、アキラへと手渡した。


「じゃあ、アキラさん。またよろしくお願いします」

「5日後には体を空けときますから」


硬く握手をして、去っていくラビットテイルの面々を見送り、アキラは癖で手を振った。


「何をやってるんだい?」

「あぁ、これは郷の風習ですから、お気になさらずに」


三日ほどの観察だが、この世界では、別れに手を振る習慣が無い様だ。


「で、明日に同行を頼むクエストの内容なんだが、場所を変えないか?」

「良いですけど・・・」


リーアは、受付嬢達の様子を見ながら、アキラの袖を引っ張って、ギルドの外へと出ていった。





少し離れた酒場には、他のハーピー系の女冒険者達三人が待っていた。


「リーア。よりによって、そいつを連れてきたの?」

「ええ。だって選択肢も期日も少ないでしょ」


他のメンバーは、アキラの参加を想定していなかった様だ。


「何か込み入った事情が有る様ですが、うかがっても?」

「勿論よ。このギルドに女性冒険者が少ないのは、見て分かるかしら?」

「まだ、この町に来て数日ですが、冒険者って男の仕事だからですかね?」


戦いのある世界では、【男女平等】など糞喰らえの現実がある。

戦闘力において、身体的にどうしても越えられない壁という物が有るのだ。


「まぁ、そう言った事も確かにあるけど、原因の一つに受付嬢が女性って事もあるのよ」

「ああ、・・・嫌なしがらみですね。そっち関係ですか」


冒険者達の様な混血達は、純粋な人間との結婚が難しい。

中でも、肉体的な要因などで冒険者になれない女性の行き着く場所は、冒険者用の酒場か、教会の巫女護衛、ギルドの受付嬢位だ。

そして、同じ職場に女性が増えるとパートナー探しの競争率が高くなるので受付嬢達は、女冒険者から減らそうとしていると言う事らしい。


「それで受付嬢の誰かが依頼者をそそのかして、女冒険者チームに不得意な依頼を、指名依頼させてくる事が、時々あるの」

「指名依頼を断れば、チームの評価が悪くなるんよ」

「いつもなら、他のチームに応援を頼むんだけど、今回は、なかなか捕まらなくてね」


各チームには多かれ少なかれ、得意分野がある。

オールマイティなチームなど希だ。


「で、今回の指名依頼が【メタルウルフの群を狩る】なんだけど、アタイたちの得意分野が【風】と【水】なんで、メタルウルフの【雷】とは相性が悪いのよ」

「そこで、ファイアボール【火】が使えてチームに入っていない俺って訳ですね?」


地球の魔術元素エレメンタルは、火、風、土、水の四種類だが、ファンタジー世界では、それに【雷】を加えていたりする。

これは本来が五行相剋の火、土、金、水、木が元とも言われており、三竦さんすくみ。いや、五竦みも同じように火>雷(金)>風(木)>土>水>火となっている。


小説の作品によっては【光】や【闇】を入れるのも、最近の流行の様だ。


「こんな事が度々ある訳じゃないんだけど、今回のクエストだけ手を貸してくれないかしら?」

「ちょうどラビットテイルさん達も休みですし、大丈夫ですが、メタルウルフの群って百匹くらいですか?」


リーアは、依頼書を確認する。

狩りと言っても、群の全容が掴めない場合は、何匹以上かの表記が有るものだ。


「依頼書には【20匹以上】って書いてあるわ。それ以上居ても放置で構わない規約になっているから」


仮に、標的が指定数以上だった場合は再依頼が必要だし、指定数以下だった場所は依頼者側にペナルティが課せられる。

標的数の差異は、各チームに隠れて随行する調査員が確認している。


「因みに【水】属性が得意な人って?」

アチキがハーピーとリザードマンのクオーターで【風】と【水】の両方が使えるピッピって言うんよ」


少し髪の毛が固そうな女性が手をあげた。


隠蔽魔法を看破した姿は、鳥に似ているが、口元に牙があるのが他のメンバーと違う。


「風、風、風、風と水かぁ。相手がメタルウルフならば、当日は【水】系の魔法をメインに使うのはどうでしょう?」

「【水】系だと、ファイアボールの威力が落ちないか?」

「正確には【油】ですが、できますか?」

「酒なら【水】魔法で作った事があるが・・・油は無いんよ」

「酒でも結構。できるだけ強い酒なら燃えるでしょう。メタルウルフの群れごと酒を浴びさせ、雷の力を地上に逃がした上で、丸焼きにします」

「山火事にならないか?」

「そこは、皆さん得意の【風】魔法で、炎が広がらない様に抑えて下さい」


リーア達は、しばらく考えた。


「奇抜な方法だが、私達にもできそうだな?」

「俺は、酒の濃度をあげる手伝いと、着火担当他、全体のサポート役を」


おおよその戦術を話し合い、このアイデアに全員が納得した様だった。


「じゃあ、明日までに魔石の準備とイメージトレーニングって事で」

「リーアさん。使う魔石は、これも足しにして下さい」


アキラは懐から幾つかの魔石を取り出した。


「これは、ゴブリンの魔石か?まだ持っていたのかアキラ君」

「はい。各自が自分用に確保しておいた分です」


魔石などの確保が依頼数を越えた場合、依頼を受けた冒険者が提出せずに、自分用にと確保する事は多々あるし、許されている。

そもそも、回収した魔石を後日に使うのは冒険者自身なのだから。


この場では、明日の合流地点と時間を決めて解散となった。




そして、メタルウルフ狩りの日を迎えた。

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