第16話 超絶冒険者の基礎知識

「あれっ?アキラさんは魔石を使わないんですか?」

「はい。ですから魔石の使い道や価値を知らなくて」


フライアット達は、首を傾げる。


「アキラさんも、身体強化とかの体内魔法でも、隠蔽魔法や攻撃系の体外魔法にも、大気中の魔素を使うのは知ってますよね?」

「はい。その魔素をエネルギーや、魔力に変換して部分的な事象改変をするのが魔法だと」


アキラの場合は、意思の力で周囲の魔素を魔力に変換して攻撃などに使っている。

身体能力に関しては、魔素や魔力を使っておらず、【加護】や【不思議な力】としか言いようがない。


「魔族や魔獣、他にも魔法が使える者は、いったん魔素を体内に取り込み、魔力に変換しているのはアキラさんも体感していると思いますが」

「あぁ、そうですね。口から吸い込み、指先から出す様な感じで・・・」


アキラ自身は体感していないが、話を合わす事にした。


超感覚により魔素を感知出きるアキラは、魔物や冒険者達が、酸素の様に魔素を呼吸しているのは感じていたが、その意味を今まで知らなかったのだ。

呼吸のついでに取り込んでしまっていると思っていた。


「当然、大気中の希薄な魔素を魔力に変えても、たいした力を発揮できない。そこで、魔素を高濃度に圧縮して、肉体の変態や戦闘時などに高出力が使える様に蓄える器官が【魔石】なんですよ」

「そうなんですね。私の国では、そういった勉強はしていなかったので」


魔石は、いわゆるバッテリー。

生物的には脂肪に相当するらしい。

その大きさや圧縮率が、MP魔力量として現れるのだろう。


地球でも、自分の身体の内面的能力や仕組みは、勉強しなくては分からない。

【思いを胸に刻む】や、【腹に据えかねる】とは、そう言った知識が無い故に生れた言葉と言える。


「魔法を使う上で、足りない魔素を補充したり不足した体内魔素を補う為に、食べたりもできますが、通常は身体の外に身に付けて、魔法で分解しながら魔法に取り込んでいくのが多いです」


フライアットの説明の後にチースーが、手に持ったゴブリンの魔石を分解しながら、魔法を発動し、血塗れになった皆の体や服を綺麗にしていった。


「おお!そう使うんですね?」


魔石を持つ事によって、MP魔力量が少ない者でも、高出力の魔法が使える様になると言う事だ。

ただし、それなりのMT魔法技量も必要になるのだろうが。


魔族や魔物、冒険者の身体能力は、実際には他の生物と極端には変わらない。

HPなどは魔力との親和性と言っても過言ではないのだ。

肉体を動かすのにも、常に呼吸は必要だ。

ただ、その時に吸引する魔素だけで、高出力が出せる筋肉ではある。

他には、杖や剣に魔法陣と共に組み込めば、MTが低くても高レベルの魔法を使えるのかも知れない。


「元々が商人上がりなので、そう言った基礎知識が無くて困っていました。ありがとうございます」

「まぁ、腕の構造を知らなくても剣は振るえますから、問題ないですけどね」


そう言いながらラビットテイルの面々は、口もとで魔石を分解しながら呼吸で吸引している。


魔石の消費者は、主に冒険者と言う訳だ。


「こう言っては何ですが、ラビットテイルの皆さんは冒険者業に向いていない様にお見受けします。外観も悪くないですし、商売業とかに転職は、なさらないのですか?」

「アキラ殿の国では、どうなのか存ぜぬが、我が国では我々の様な【混ざり者】は、衛兵か冒険者か武器屋にしかなれないと、法律で定められているのでござるよ」


アキラの疑問にチースーが答える。

体力的に不向きな彼が、一番に冒険者業に向かない。


「武器屋は飽和状態だし、どんなに虚弱でも生きていかなくちゃあいけないから、こうやって協力しあっているんですよ。強いチームに入れてもらっても、足を引っ張る事になりますから」

「衛兵には体力の合格ラインがござるし、誤魔化しも効かぬでござるからな」


彼等には、彼等なりの事情が有るのだ。

好きだから、向いているからやっている仕事だとは限らないのは、地球も異世界も変わり無い。


衛兵のシステムは【混ざり者で虚弱な奴は冒険者業で死ね】と言う意思が含まれているのかも知れないとアキラは思った。


ゲームや小説では、経験値やHP、MPなどはイベントをこなすと簡単に上昇するが、現実にはソウはならない。


HP。体力は若い時期に時間を費やして継続的に鍛えていかないと、すぐに標準値まで落ちてしまう。

そして、生物学的な限界点は存在するので、人間が素手で象を倒す程は強くなれない。

魔物の様に身体の変態でもしない限り、著しいレベルアップは望めないのだ。


MPも同様で、その膨大な魔力や魔素を少ない肉体内の何処に蓄えるかが問題となる。


最近ではラノベでも、その辺りをしっかりと設定している物が出てきている。

【不思議な力で】とか【魔法で】では、ファンタジーを通り越して【幼児向け童話】になってしまうからだ。


「兎に角、今日はありがとうございました。これで数週間分の稼ぎになると思います。だけどアキラさん。こう言う事は、前もって詳細を説明してくださるとありがたいです」

「すみませんでした。経験の長い皆さんなら、これくらいは大丈夫だと思ったので」

「ゴブリン狩りなんて初めてだしぃ~」

「同じFランクと言えども、拙者等の能力を過信評価されては堪らんでござるよ」


「「「「ははははははは・・・・」」」」


乾いた笑いが四人に広がる。






冒険者ギルドの受付に帰ってきたアキラとラビットテイルには、多くの冒険者達の注目が集まっていた。


試験時よりも話題を集めていたアキラは勿論、あのラビットテイルが例を見ない好成績を納めていたからだ。


ソレが今回はゴブリン狩りに出掛けたと聞けば、結果が気になる。


「おいおい!全員が無キズだぜ」

「アイツが居ても、一人くらいは。いや、腕の一本くらいはヤられると思ったんだが」

「ああ。ラビットテイルだけなら確実に全滅だろうからな」


ラビットテイルのリーダーであるフライアットのレベルは45有る。

ゴブリンはレベル5前後であるから単体ではフライアットが楽勝だが、ゴブリンは群れで行動する。

そして、冒険者が力量の違いを認識できる様に、獣であるゴブリンも、ソレくらいは分かるのだ。

いや、冒険者以上に。


戦いは、個別の力量ではなく総合力だ。

猛者が居ても、数で抑えられるのが実戦である。

速度差が無ければ、総合力で劣れば逃げ、優れば襲うのがゴブリンである。


ラビットテイルの身体能力を考えれば、成果なしオケラか苦戦の二択しかない。


フライアットが代表して、受付へと換金リストを渡す。


内容を見た受付嬢が、目を大きく見開いて声をあげた。


「ら、ラビットテイルさん達ですよね?」


リストを見て固まった受付嬢の横から、別の受付が覗き込み、内容を読み上げてしまった。


//////

ゴブリン 125

ソルジャー71

ナイト  10

ロード  8

エンペラー4

下級オーガ 1

中級オーガ 1

//////


「おっ、ええっ?」

「嘘だろう」

「何日分だ?」


周りに動揺が走る。


「ラビットテイルさん。こんなに倒されても、クエスト報酬は・・・・・・」

「銀貨5枚ですよね?了解しています」


この手のクエストは、魔石の換金と合わせての報酬なので、普通は5匹討伐で合計銀貨30枚というところになる。


「じゃあ、フライアットさん。明日は、どの手のクエストにしますか?」

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