第15話 超絶冒険者の同僚
結果、ラビットテイルは、当初見込んでいた収入の、約七倍の金銭を、数十分の一の労力で手に入れたのだった。
その晩、俺達ラビットテイルは、祝杯をあげた。
流石に普段から金欠だった俺達は、追加を頼まない先払いと言う状態で、いつもより豪勢な飲食を楽しんだだけだが、チースーなんかは半泣き状態で飲んでいた。
勿論、チームリーダーを引き受けている俺フライアットの視界も滲んでいる。
「ウマイなぁ~こんな食事はイツぶりだろう?」
「喋るなっす!夢かも知れないっすから、ひたすら食うっす」
「ぐへっ!ヒック、ヒック」
ガガントは脇目も振らずに食べ続け、チースーは既に出来上がっている。
最後は、追加無しと言う縛りのお陰で悪酔いもせず、自宅で久しぶりに良い眠りについた。
そう。昨晩は、良い夜だった。
なのに、なぜ、その翌日はゴブリンの巣穴の真ん中に居るのだろう?
魔族や魔物は、基本的に食事をしない。
空気中の魔素を吸い込み、力にしている。
一部の者が人間を含む他の生物を捕らえて食べるのは、【変態】を含む成長の効率を良くする為のものだ。
特に魔物は下級から中級、上級と言う様に、身体構造すら違う生物に変態する者が多い。
一部には、この変化を【進化】と呼ぶ者も居るが、それは根本的に間違っている。
芋虫が蝶になるのは進化ではなく、変態だ。
その蝶が産むのは、芋虫の卵なのだから。
進化ならば、蝶が産むのは蝶でなくてはならない。
同様に、ゴブリンがゴブリンロードやゴブリンエンペラーになって産むのは、ゴブリンロードやゴブリンエンペラーではなく、やはりゴブリンでしかない。
つまりは、進化ではなく【変態】でしか無いのだ。
で、なぜ、今、昨晩の事や、進化論的事を考えているかと言うと、単なる【現実逃避】である。
万年Fランクで冒険者の最弱チームと呼ばれた俺達ラビットテイルは、今、全員が血塗れでナイフを振り回している。
ゴブリン達が襲いかかってきてはいるが、戦っているわけではない。
だが、メンタルさえも最弱の俺達が、この状況で現実逃避するなと言うのが無理な話だ。
事の始まりは、アキラさんと再びクエストに行った事にある。
アキラさんの実力を見て、信頼感を抱いたのが間違いだったのかも知れない。
アキラさんが歩きながら、赤く小さなファイアボールの様な魔法を連発しつつ、どこで見つけたかゴブリンの巣穴へと突き進んで行ったのだ。
巣に近付いただけで、ゴブリンは、十匹以上の集団で襲いかかってきた。
それも何回も。
近付くゴブリンは、アキラさんの魔法で瞬殺されていくが、彼の近くを離れると襲われて命がないだろう。
そのまま彼は、あろうことかゴブリンの巣穴深くへ入って行ったのだ。
当然、俺達も付いていくしかない。
「アキラさん。何をしてるんですか?」
「何って、Fランク定番のゴブリン退治を引き受けたじゃないですか」
「依頼書には、5匹以上って書いてありましたよね?50匹じゃあ無いですよね?」
「だから、【5匹以上】じゃないですか!」
間違いではない。
だが、いくら実際に安全と言われても、俺達のメンタルが耐えきれなかった。
巣穴の中央に陣取って、集まってくるゴブリン達を片っ端から瞬殺するアキラさん。
彼の指示に従い、死体の胸から魔石を休む暇なく掘り出す俺達。
既に精神は崩壊し、機械的に単純作業を繰り返していく。
腕が重いが、沢山のゴブリンが襲ってくる現実から逃げる様に、解体作業に没頭した。
「・・・・・・あれっ?静かになった?」
ゴブリン達の怒号や悲鳴が止んだ状況に、ふと我に返り、立ち上がって周りを見回すと、暗い巣穴の中には沢山の死体が転がっていた。
そして、仲間が皆、無事なのに安堵して再び膝をついた。
「ひぃ~え~っ」
「アキラしゃん、ムリッしょ!」
「ここは地獄?拙者は死んだでござるか?」
俺の悲鳴で、全員が正気に戻った様だ。
「ライトニング」
アキラさんの光魔法で、今まで一部しか照らされていなかった巣穴の全貌が
元々は鉱山の様な採掘場だったのだろう。
天井を支える木の柱や板天井、排水用の水路も見える。
幾つも掘られた脇道が、ゴブリン絶好の寝床になっていたに違いない。
俺達が陣取っていたのは、出口へと搬出する為のホールだった場所だろう。
「アキラさん、いくら何でも無茶ですよ」
「Fランクで一番儲けられそうなのが、これでしたからね。あとは、ゆっくりと魔石を集めるだけですよ」
そう言って、手の空いたアキラさんも、ナイフを片手にゴブリンの魔石を集め始めた。
かなり、手際が良い。
彼もしばらく続けていたが、何かに気が付いたらしく、立ち上がっては、廃鉱の出口に向かって歩きだした。
「俺は外の方を片付けますから、皆さんは中をお願いします」
確かに、ゴブリンの巣穴に近付いた時にも、数十匹のゴブリンを倒していた。
「中は安全なんですよね?」
「虫くらいしか居ませんから安心してくださいよフライアットさん」
彼が、そう言うのであれば、間違いないだろう。
「しかし、凄いっす!ゴブリンエンペラー4体、ゴブリンロード8体、ナイトクラス以下は数えたくないっす」
「こんなに大きな
大きな死体は二人がかりで移動し、魔石を取り終えた死体はホールの中央に山積みしていった。
「疲れたし、身体中がゴブリンの血と油でグチャグチャだよ」
「全部終わったら、魔石を何個か使って、洗うでござるな」
俺達ラビットテイルが、巣穴のゴブリンを処置し終わるのに、三時間以上かかった。
時間が掛かったのは魔石の取り出しよりも、処理済みの死体と未処理のものを仕分ける作業だったかも知れない。
小柄な我々に比べて、上級のゴブリンは倍近くの大きさが有ったのだから。
「やっと外っしょ!目がつぶれるし~」
「外は、あらかた終わっている様でござるな?」
入り口付近の死体も一ヶ所に集められていた。
「ふ、フライアット殿、これはオーガではござらぬか?」
言われて見れば、積み重なっている死体の上に、オーガの死体が混ざっていた。
「あぁ、ソレは、血の臭いに誘われてやって来たのを、倒したんですよ。依頼書に無くても、自衛の為に倒すのはアリなんでしたよね?」
森の中から、膨らんだ袋を手にしたアキラさんが現れた。
ギルドの規約では、依頼された内容以外は禁止だ。
例えばゴブリンは繁殖力の強い魔物だが、指定を無視してゴブリンを全滅させたら、小型魔石の入手が困難になる。
だから、指定以外の魔物を狩るのも、基本的には禁止だ。
だが、その指定以外の魔物が襲ってきて、逃げ切れなければ倒すしかない。
今回の場合、アキラが逃げる事は可能だが、そうすると逃げ場の無い場所に居る俺達ラビットテイルが犠牲者になる。
「フライアットさん。死体は燃やしますか?」
「いいえ。ゴブリンの死肉と言えども、食べる動物は居るでしょう。残しておけば、生態系が豊かになり、また魔石を取れる魔物が増えますから」
不必要に炭化させるよりも、生態系に還元させた方が、将来的に我々の利益にもなる。
「フライアットさん。講習の教本には書いてなかったですけど、魔石って、なぜ、魔物の体内にあって、集めるんですか?」
「あれっ?アキラさんは魔石を使わないんですか?」
「はい。ですから魔石の使い道を知らなくて」
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