第14話 超絶冒険者のチーム

「失礼しました・・・・って、チーム【ラビットテイル】の方々じゃないですか?ちょうど良かった。少し稼ぐ気はありませんか?」

「・・・・え、えっ?確かアキラさんですよね?」


驚いて、後退りするラビットテイルの面々に、アキラは握手を求めた。

ここ二日で話題にのぼったアキラを知らない者は、少ない。

直接見ていなくとも、その風貌と魔力量は噂になっている。


「な、なんで俺等を知ってるんだ?稼ぐって何を?」


明らかに、彼等は動揺していた。


「昨日は試験で側溝清掃をやっていたんですが、別のブロックでラビットテイルの皆さんも、同じ側溝清掃をやっているのを見まして、一緒ならモット早く済ませられるんじゃないかと思って声をかけさせていただきました。あぁ、皆さんの事は、受付で全部のチーム編成を見せてもらったので、知っていたんです」


アキラの返答に、ラビットテイルの三人は顔を見合わせ、相談を始めた。


「なんか、コイツの魔法は凄いらしいぜ。魔力量も多いみたいだし」

「一応は教会で承認されたんしょ?魔族って事はないっしよ」

「確かに四人になれば、二人づつで別れて早く終わるかも知れんでござるな」

「じゃあ、良いな?昨日は2ブロックだけだったが、今日は3ブロックを目指そう!」


彼等は平均的なFランク冒険者よりも、いや、門の衛兵よりも身体能力が低く、混血の特徴も能力も殆んど機能していなかった。

若干だが、門の衛兵よりも魔法に優れているだけだ。


身体強化を使っても衛兵の基準に及ばず、仕方なく冒険者として活躍はしているが、このギルドにおいても最弱の者の寄り集りでしかないチームだ。

冒険者試験は、泣けなしの金を使った。


正直、彼等の能力では食べていくのもギリギリで、猫の手を借りてでも稼ぎたい立場だったのだ。


超感覚で、彼等の能力と仕事ぶり、財布の中身まで調べあげたアキラは、彼等が逃げない。いや、逃げられない事を知っていて話を振ったのだった。


そして、ラビットテイルのリーダーであるフライアットは、意を決してアキラの手を握った。





「いや、幾ら何でも、この数は無理でしょうアキラさん」

「大丈夫ですよフライアットさん。任せて下さい」


なんとアキラは、側溝7ブロック分の依頼書を受付で貰って来たのだ。

道具のレンタル料は、アキラが支払ったので誰も購えなかったが、後からソノ依頼書の枚数を見たフライアットが騒ぎだしたのだ。


「この書類だと、責任はアキラさんが取る事になりますよ。あっ、そうか!三日に分けて行うんですね?」

「いいえ。今日中に終わらせますよ」


昨日より大きめの台車を押しながら、アキラは明るく返す。





清掃するブロックの一つに到着すると、アキラはフライアットに二枚の依頼書とスコップ、土嚢袋を渡した。


次に側溝の一番端の蓋に小さな石を置いて、全体に魔法を掛けだしたのだった。


「フライアットさん。魔法が消えて、魔力が収まったら、この石を置いてある蓋の下の物を土嚢袋に入れて、依頼者に中を確認してもらって下さい。ここが終わったら、二枚目の依頼書の場所にも石を置いておきますから、そちらも同様に。土嚢袋は、後から回収に行きますから、両方が終わったら、その場で待っていて下さいね」

「何なんですか?この魔法は?石の下に何が有るんですか?」

「コレはゴミを燃料用の墨に変える魔法です。危ないですから魔力が収まるまで、中を覗かないで下さい」

「墨に変える?」


アキラは、そう告げると、台車を押しながら、他の二人を次の現場へと引っ張って行った。


この世界には【経験値】と言うポイントは無いが、地球でも一度やった事は、二度目には少し早くできるものだ。


アキラは短時間で残留性の魔法を残して、複数の場所を平行して処理していくつもりだ。


幸いにも、ラビットテイルの面々は、そこそこ魔法が使えるので、アキラの魔法が終了したのか判別ができるのだった。


「何か、側溝全体に魔法が掛かっているのは分かるが、本当に大丈夫なのか?まぁ、魔法が掛かっている場所は、何の魔法でも危ないものだから、手を出せないけど」


90分程で、魔力がおさまったのを感じたフライアットは、指定された蓋を開けて、中を覗き込んだ。


「うっわっ!嘘みたいに綺麗になってるし、本当に墨がある。あのアキラって奴は、何者なんだ?」


いつもは、側溝の蓋を全部開けて、スコップで中の汚泥やゴミを土嚢袋に入れて、町の外まで捨てに行っていた。


三人で汗水垂らして全身を泥だらけにしながら、2ブロックを一日がかりで精一杯だった。


しかし今日の作業は、側溝の前で90分待って、蓋を一個だけ開け、中の墨を袋に入れるだけで終わってしまった。


力仕事ではあるが、従来の比ではない。


コレで確認とサインをもらい、蓋を閉めて次に行く頃には、既に次の場所でも墨が出来上がってしまっているのだろう。


二時間程で、一人辺り2ブロックを処理した計算になる。


「まさに魔法だ。いや、確かに魔法なんだけど、こんなのは見たこともない」


ギルドで出会ってから5時間後に、アキラとラビットテイルの面々は、側溝清掃7ブロック分の賃金と、燃料用の墨を売却したお金を手にしていた。


「凄いですねアキラさん。こんなに楽に稼げたのは始めてだ。四分の三をアキラさんに受け取ってもらいたいと思いますが?」


彼等にとっては、半日で1ブロックをやるつもりだったので、四分の一でも2ブロック分の稼ぎになる。

アキラが文句を言う様であれば、更なる譲歩も考えていた。


「フライアットさん。できれば、今後も一緒に仕事をお願いしたいと思っていますが、それには条件があります」

「割合ですね?」


フライアットにしては、想定していた内容だけに、驚きは無い。


「そうです。今回も含めて、利益は人数割りでお願いします」

「そうですね、って、いや、えっ?ちょっと待って下さい、人数割り?アキラさんの取り分が四分の一になってしまいますよ?」


予想外の要求に、ラビットテイルの全員が自分の耳を疑った。


「人数割りです。人数割りでお願いします」


アキラの押しを断る事は、彼等にはできない。

彼等ラビットテイルは、金欠であり、チームに入ってくれなくとも、一緒に仕事をしてくれれば、今回のように楽に暴利を貪れるのだから。

更には、アキラの要望は、ラビットテイルの考えていたものよりも、彼等に利がある。


「アキラさん。俺は、功績に見合った報酬をと思ったのですが、理由を聞いても?」

「理由は明確です。フライアットさん達はチーム活動でも、命の危険性が高い攻撃担当と、後方からの魔法支援担当とで、取り分を変えていますか?」

「まぁ、中には変えているチームも有る様ですが、我々は誰一人として欠けても仕事ができない仲間同士ですから、均等分けしています」


アキラは、頷いて見せた。


「誰が欠けても仕事ができない。同様に単独の俺は、あなた方が居なければ依頼を受けられない。攻撃担当と支援担当の様に、均等にすべきでは有りませんか?」

「では、せめてアキラさんが半分を取って下さい」


ラビットテイルにしてみれば、それでも、チームだけで行う場合の四倍に相当する。


「いいえ。新参者を教育して下さるんです。普通なら人数割りでも多いと言われるかも知れません」

「分かりました。そこまで言われるのでしたら、アキラさんのおっしゃる通りにします」


アキラの言っている事は確かに言い得ているし、これ以上問答をして、他のチームに乗り替えられられでもしたら、みすみすチャンスを手放すようなものだ。

ラビットテイルのリーダーであるフライアットは、預かった報酬を、ゆっくりと四等分に分け始めた。


結果、ラビットテイルは、当初見込んでいた収入の、約七倍の金銭を、数十分の一の労力で手に入れたのだった。

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